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侯爵令嬢、乱心する
しおりを挟む「ログレス様がダンスパーティーの相手にエイミッシュ嬢を選んだらしいわ。」
「前の夜会で踊っていた令嬢よね、確かに綺麗な子だったわ。」
ひと休みのために入ったカフェで、私はそんな会話を耳にしてしまいバッと顔を伏せる。
嘘だ嘘だ嘘だ、そんな、もうログレス様が動き出すなんて。もしかして、やはりあの時の夜会でロアネ嬢に惚れたというの?
あー、レアルチア・オールクラウド、何たる不覚! 先手を打たれてしまうとは! これでは、ジゼル様がロアネ嬢を誘うように焚き付けるなんてことは出来なくなってしまう。
ダンスパーティーに誘うということは対外的にロアネへ好意を持っていると示したということか。
いや、まて……ログレス様はそんなに賢い人間か。色恋沙汰にとことん疎いログレス様のことだ、そんなことが出来るはずがない。
……じゃあ、なんでロアネ嬢を??
私は頭を抱えるが答えは出ない。
「今日は何を考えているんだい?」
かけられた声に顔を上げると、そこには朗らかな笑みを浮かべたジゼル様がいた。
「ジゼル様、どうしてここに?」
「君が頭を抱えている様子が外から見えてね、気になって入ってしまったよ。」
私の素朴な問いかけに、ジゼル様が小さく笑いを溢しながらも答える。
なんと、私の様子は外から丸見えだったようだ。恥ずかしいにも程がある。
「ログレス様が、ロアネ嬢をダンスパーティーに誘ったと聞いたわ。」
「うん、そのようだね。」
ジゼル様は涼しい顔で私の言葉に同意した。
ここは、悔しそうな表情をして欲しいところだけれど、まあそれは今は良い。
今の私の疑問は、なぜログレス様がロアネ嬢を誘ったのか。その真意が知りたい。
……ジゼル様は知っているのだろうか?
「なぜ、ログレス様はロアネ嬢を?」
「前の夜会で2人が踊っていただろう? ログレスは単純に彼女のダンスの技術を買っているみたいなんだ。本当に浮いた話一つ出ない男だよ、彼は。」
私はその話を聞いてホッとする。
まだログレス様はロアネ嬢に恋心を抱いているわけではないようだ。それならば、ダンスパーティーが終わった後にだってジゼル様が割り込む隙はあるわけだ。
それから、エリーとログレス様の関係性が発展する可能性だってある。エリーは最近消極的だから、焚き付けてみても良いかもしれない。
いや、でもそうすると悪役に拍車をかけてしまうのかしら?
そんなことを思いながらジゼル様の顔を見ると、あからさまにムッとした顔がそこにあった。
私は何故彼がそんなにも不快そうにしているのかわからずに眉を下げ困惑する。
「どうしてそんな顔をするの? 私、何か失礼なことを言ったかしら?」
「いや、君がわかりやすくホッとするから……本当はログレスに気があるんじゃないかと思って。」
ジゼル様の言葉に、私は目をぱちくりとさせる。
それから、ケラケラと笑い出す。まさか、そんなことを言われるなんて思わなかった。
「私がログレス様を? あり得ないわ! おかしなことを言うのね!」
笑いすぎてお腹が痛い。
ジゼル様は「そうか。」と一言呟いて、笑い続ける私を少し引き気味に見つめた。
「それで、レアは誰と行くか決めたのかい?」
「あぁ、そういえば何も考えていなかったわ。」
ジゼル様に話を振られたことで自身については全くの後回しにしていたことに気付かされる。
私だっていつまでも独り身ではいられない。いつかは誰かと婚姻を結ぶのだ……それが、貴族としての使命だから。
私は周囲の人たちの幸せの手助けで手一杯なので、誰と結婚するかなんてどうでも良い。きっと、お父様やお母様が相応しい誰かを用意してくれる筈だ。
仕事に寛容であれば良いけれど、なんて時世にそぐわない願いを抱いてみる。
「それなら、僕と一緒にダンスパーティーへ行かないかい?」
「え?」
驚いて声をあげてしまう。
女性避け? それとも何か、同情でもしてくれていると?
「まだ誰からも誘われていない私への同情ならば要らないし、軽口のひとつとして声をかけているならより一層ごめんだわ。」
「いいや、僕は至って真面目さ。レアルチア・オールクラウド侯爵令嬢、僕と共にダンスパーティーへ行ってはくれないかい?」
こんなカフェの一角で、小さく微笑を浮かべた美形が私の左手を取り「イエス」の一言を待っている。あぁ、なんて場違いな光景なんでしょう。
だけれど、私の心臓はバクバクと早くなる。いつもとは違う何だか真面目な様相の彼に、心をときめかせてしまったのは仕方のないことではないだろうか。
「それで、君の答えは?」
「え、ええ、一緒に行くわ。」
勢いに押されて私は彼の提案に了承した。
そうよ、ロアネ嬢はログレス様の誘いを受けたわけで、そうして私とジゼル様は誰とも約束をしていなかった。
えぇ、何もおかしなことなんてないわ、何にも。
そうやって、必死に心の中で誰にするわけでもない言い訳を繰り返す。
ジゼル様は「良かった。」と嬉しそうにニコリとして、私の手を離した。
それから、彼は満足そうにしながら席を後にした。
一人取り残された私は、火照る頬と高なる胸を抑えるのに必死だった。
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