モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー

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侯爵令嬢、働く

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 ガヤガヤと騒がしい室内で、私は書類をまとめていた。

 ここは『特異体質アブノーマル・スキル』を持つ者たちが所属をして仕事をしている『特殊部隊"アンユース"』の事務所だ。
 城外にある、国が所有する敷地内の一角に作られた部屋で私たちは日頃職務を全うしている。

 『特異体質』持ちは大して多くはなく、その人数は50人にも満たない。そんな狭いコミュニティの中で過ごしているため、私たちは比較的に仲が良いと言えよう。身分差はかなりあるけれど。

「レアちゃん、ログレス様とエイミッシュ嬢の噂って本当?」
「噂ってなんですか? ディナさん。」

 私の隣の席である仕事仲間のディナさんが問いかけてくる。
 ディナさんはカルデア子爵夫人で、年齢は私より4つ上の21歳だ。『鑑定』のスキル持ちで、大体は室内で仕事をしている。私と異なり滅多に外へ駆り出されることはない。

「2人が恋仲ではないか、という噂よ。なんでも、毎日ダンスの練習をしているっていうじゃない? それは建前で、本当は2人の時間を過ごしているのではないかって巷の令嬢は推測してるのよ。」

 2人が毎日練習をしているですって!?

 想像以上に早い展開に私は焦りと動揺でわなわなと体を震わせた。ジゼル様の付け入る隙が無くなっていく! もしも、このまま2人が恋仲になってしまったら、レアルチア・オールクラウド一生の不覚よ!

「いいえ、2人はまだ恋仲ではありません! 絶対に!」
「ど、どうしたの、そんなに興奮して。」

 私の荒ぶりようにディナさんが驚いて身を引くが、そんなことは私にとってはどうでもよかった。
 誰にどう思われようと、私のこの熱意は変わらない! ダンスパーティーが終わったあと……いいえ、ダンスパーティーの最中が勝負時よ!

 そうと決まれば作戦を練らないと……と考え込むが今は仕事中だ。仕事を片付けないことには何も始まらない。

「そういえば、最近やたらと多いのよね。東の森での事件。」

 ディナさんが、自身の机の上の書類を見ながら言った。
 東の森と聞くと、以前にアニーとサムと魔獣を届けた記憶が蘇る。

「東の森、ですか?」
「そうなの、最近狼に襲われる人がたくさんいて、その分討伐数も増えるから狼関連の鑑定が増えてて大変だわ。」

 そういえば、あの時に襲ってきた魔獣2匹は狼だった。そして、対話が出来ないほどノイズが酷く錯乱状態だった覚えがある。
 これは、隊長に報告すべき事象かもしれない。
 私は席を立ち、隊長の席へ近づいた。隊長は私が近づいたことで机から視線を上げてこちらを見た。

「どうした、レアルチア。」
「いえ、一件報告がありまして。」

 『アンユース』の隊長であるノッドさんは平民出身で隊長まで昇格した実力者だ。『転移テレポート』のスキル持ちで、どの場面でも重宝される。
 また、かなりの強面であるが心根はとても優しい愛され隊長だ。

「以前、兄と姉と東の森へ魔獣の子どもを返しに行った時なのですが……。」
「また勝手に動いたのか……しっかり許可を得て仕事として出向くように何度も言っているだろう? 勝手に動くと君に何かあった時、我々は何も出来ないし、起こったことの把握もできない。」
「す、すみません……。」

 そうだ、怒られると思っていたから言わないように決め込んでいたことをすっかり忘れていた。
 とはいえ、東の森の狼の一件について報告しないわけにはいけない。どうせもう怒られたわけだし。

 私は一周まわって開き直り、素直に事の顛末を話すことにした。

「東の森で狼2匹と遭遇しました。姉や兄が退治したので事なきを得ましたが……。『対話』を試みたのですがノイズが酷く出来ませんでした。もしかしたら、東の森で何か起こっているのかもしれません。」
「レアルチア、君は一度キツく叱られる必要性があるな……まあ、それは後にして、報告感謝する。騎士団や魔導師団とも一度偵察を送るべきかと協議していたが……やはり本格的に動かなければならないようだ。」

 隊長は、深刻そうな顔で考え込みながらも私の報告を聞いたのち見解を述べた。
 私が想像しているよりも深刻な何かなのだろうか。

「もしも偵察部隊を組むとなった時は君のことを推薦しておこう。」
「え"!? でも、私は『対話』しか出来ませんし、戦闘なんて以ての外です!」

 隊長の提案に、私は全力で拒否をする。
 どう考えてもハードモードな展開が予想できる。

「その『対話』スキルが活躍する機会があるかもしれないだろう? 以前は『対話』出来ずとも、次は成功するかもしれない。」

 あからさまな私の嫌そうな顔を無視して、隊長は私を推薦するための理由を述べ続ける。
 出来れば面倒ごとを避けて、ジゼル様やエリーのサポートに徹したいというのに! それに少女漫画をいくつも読んできた私にはわかる。東の森での事件は主人公とヒロインの関係を急速に発展させる何かが起きるイベントだ。
 どんな展開になるかという確信はないが、少なくとも偵察部隊に組まれてしまえば私は自分の仕事を全うしなければならない。

 目の前で見す見すイベントを起こさせてしまうなんて、そんなことはあってはならないわ!

 勿論イベントを潰すつもりはないけれど、上手く改変させればジゼル様にとっても絶好の機会が生まれるかもしれないじゃない!

 まぁ、とにかく、こうなってしまっては腹を括るしかない。私の能力はこの事件にかなり必要になる。悲しいことに、どう頑張っても回避できる事象ではないことは十分理解出来てしまう。

「……はい。」

 私はムスリと口を尖らせながらも大人しく返事をして席に戻った。

 後に、我ながらよく今の態度を上司に出来たものだ、と少し自分が怖くなるのだった。
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