15 / 32
侯爵令嬢、働く
しおりを挟むガヤガヤと騒がしい室内で、私は書類をまとめていた。
ここは『特異体質』を持つ者たちが所属をして仕事をしている『特殊部隊"アンユース"』の事務所だ。
城外にある、国が所有する敷地内の一角に作られた部屋で私たちは日頃職務を全うしている。
『特異体質』持ちは大して多くはなく、その人数は50人にも満たない。そんな狭いコミュニティの中で過ごしているため、私たちは比較的に仲が良いと言えよう。身分差はかなりあるけれど。
「レアちゃん、ログレス様とエイミッシュ嬢の噂って本当?」
「噂ってなんですか? ディナさん。」
私の隣の席である仕事仲間のディナさんが問いかけてくる。
ディナさんはカルデア子爵夫人で、年齢は私より4つ上の21歳だ。『鑑定』のスキル持ちで、大体は室内で仕事をしている。私と異なり滅多に外へ駆り出されることはない。
「2人が恋仲ではないか、という噂よ。なんでも、毎日ダンスの練習をしているっていうじゃない? それは建前で、本当は2人の時間を過ごしているのではないかって巷の令嬢は推測してるのよ。」
2人が毎日練習をしているですって!?
想像以上に早い展開に私は焦りと動揺でわなわなと体を震わせた。ジゼル様の付け入る隙が無くなっていく! もしも、このまま2人が恋仲になってしまったら、レアルチア・オールクラウド一生の不覚よ!
「いいえ、2人はまだ恋仲ではありません! 絶対に!」
「ど、どうしたの、そんなに興奮して。」
私の荒ぶりようにディナさんが驚いて身を引くが、そんなことは私にとってはどうでもよかった。
誰にどう思われようと、私のこの熱意は変わらない! ダンスパーティーが終わったあと……いいえ、ダンスパーティーの最中が勝負時よ!
そうと決まれば作戦を練らないと……と考え込むが今は仕事中だ。仕事を片付けないことには何も始まらない。
「そういえば、最近やたらと多いのよね。東の森での事件。」
ディナさんが、自身の机の上の書類を見ながら言った。
東の森と聞くと、以前にアニーとサムと魔獣を届けた記憶が蘇る。
「東の森、ですか?」
「そうなの、最近狼に襲われる人がたくさんいて、その分討伐数も増えるから狼関連の鑑定が増えてて大変だわ。」
そういえば、あの時に襲ってきた魔獣2匹は狼だった。そして、対話が出来ないほどノイズが酷く錯乱状態だった覚えがある。
これは、隊長に報告すべき事象かもしれない。
私は席を立ち、隊長の席へ近づいた。隊長は私が近づいたことで机から視線を上げてこちらを見た。
「どうした、レアルチア。」
「いえ、一件報告がありまして。」
『アンユース』の隊長であるノッドさんは平民出身で隊長まで昇格した実力者だ。『転移』のスキル持ちで、どの場面でも重宝される。
また、かなりの強面であるが心根はとても優しい愛され隊長だ。
「以前、兄と姉と東の森へ魔獣の子どもを返しに行った時なのですが……。」
「また勝手に動いたのか……しっかり許可を得て仕事として出向くように何度も言っているだろう? 勝手に動くと君に何かあった時、我々は何も出来ないし、起こったことの把握もできない。」
「す、すみません……。」
そうだ、怒られると思っていたから言わないように決め込んでいたことをすっかり忘れていた。
とはいえ、東の森の狼の一件について報告しないわけにはいけない。どうせもう怒られたわけだし。
私は一周まわって開き直り、素直に事の顛末を話すことにした。
「東の森で狼2匹と遭遇しました。姉や兄が退治したので事なきを得ましたが……。『対話』を試みたのですがノイズが酷く出来ませんでした。もしかしたら、東の森で何か起こっているのかもしれません。」
「レアルチア、君は一度キツく叱られる必要性があるな……まあ、それは後にして、報告感謝する。騎士団や魔導師団とも一度偵察を送るべきかと協議していたが……やはり本格的に動かなければならないようだ。」
隊長は、深刻そうな顔で考え込みながらも私の報告を聞いたのち見解を述べた。
私が想像しているよりも深刻な何かなのだろうか。
「もしも偵察部隊を組むとなった時は君のことを推薦しておこう。」
「え"!? でも、私は『対話』しか出来ませんし、戦闘なんて以ての外です!」
隊長の提案に、私は全力で拒否をする。
どう考えてもハードモードな展開が予想できる。
「その『対話』スキルが活躍する機会があるかもしれないだろう? 以前は『対話』出来ずとも、次は成功するかもしれない。」
あからさまな私の嫌そうな顔を無視して、隊長は私を推薦するための理由を述べ続ける。
出来れば面倒ごとを避けて、ジゼル様やエリーのサポートに徹したいというのに! それに少女漫画をいくつも読んできた私にはわかる。東の森での事件は主人公とヒロインの関係を急速に発展させる何かが起きるイベントだ。
どんな展開になるかという確信はないが、少なくとも偵察部隊に組まれてしまえば私は自分の仕事を全うしなければならない。
目の前で見す見すイベントを起こさせてしまうなんて、そんなことはあってはならないわ!
勿論イベントを潰すつもりはないけれど、上手く改変させればジゼル様にとっても絶好の機会が生まれるかもしれないじゃない!
まぁ、とにかく、こうなってしまっては腹を括るしかない。私の能力はこの事件にかなり必要になる。悲しいことに、どう頑張っても回避できる事象ではないことは十分理解出来てしまう。
「……はい。」
私はムスリと口を尖らせながらも大人しく返事をして席に戻った。
後に、我ながらよく今の態度を上司に出来たものだ、と少し自分が怖くなるのだった。
43
あなたにおすすめの小説
元悪役令嬢なヒロインはモブキャラになり損ねる
福留しゅん
恋愛
婚約破棄+断罪の末に獄中死した公爵令嬢レオノールは、なんと婚約者の王太子を奪って自身の破滅の原因となった男爵令嬢イサベルに生まれ変わった。もう振り回されるのはこりごりだと男爵家に引き取られないまま一般庶民として過ごそうと誓ったのだが、ヒロイン役は姉に取られ、自身は思わぬところで元婚約者と再会を果たすこととなる。彼女の明日はどっちだ?
※完結済み。小説家になろう様にも投稿
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~
胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。
時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。
王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。
処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。
これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。
【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~
Rohdea
恋愛
私が最期に聞いた言葉、それは……「お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!」でした。
第1王子、スチュアート殿下の婚約者として過ごしていた、
公爵令嬢のリーツェはある日、スチュアートから突然婚約破棄を告げられる。
その傍らには、最近スチュアートとの距離を縮めて彼と噂になっていた平民、ミリアンヌの姿が……
そして身に覚えのあるような無いような罪で投獄されたリーツェに待っていたのは、まさかの処刑処分で──
そうして死んだはずのリーツェが目を覚ますと1年前に時が戻っていた!
理由は分からないけれど、やり直せるというのなら……
同じ道を歩まず“悪役令嬢”と呼ばれる存在にならなければいい!
そう決意し、過去の記憶を頼りに以前とは違う行動を取ろうとするリーツェ。
だけど、何故か過去と違う行動をする人が他にもいて───
あれ?
知らないわよ、こんなの……聞いてない!
目指せ、婚約破棄!〜庭師モブ子は推しの悪役令嬢のためハーブで援護します〜
森 湖春
恋愛
島国ヴィヴァルディには存在しないはずのサクラを見た瞬間、ペリーウィンクルは気付いてしまった。
この世界は、前世の自分がどハマりしていた箱庭系乙女ゲームで、自分がただのモブ子だということに。
しかし、前世は社畜、今世は望み通りのまったりライフをエンジョイしていた彼女は、ただ神に感謝しただけだった。
ところが、ひょんなことから同じく前世社畜の転生者である悪役令嬢と知り合ってしまう。
転生して尚、まったりできないでいる彼女がかわいそうで、つい手を貸すことにしたけれど──。
保護者みたいな妖精に甘やかされつつ、庭師モブ子はハーブを駆使してお嬢様の婚約破棄を目指します!
※感想を頂けるとすごく喜びます。執筆の励みになりますので、気楽にどうぞ。
※『小説家になろう』様にて先行して公開しています。
【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど
monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。
でも、なんだか周りの人間がおかしい。
どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。
これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる