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侯爵令嬢、吹っ切れる
しおりを挟む先日の夜会から、ジゼル様と顔を合わせるのが気まずく感じてしまって仕方がない。
別の夜会でもう2度は顔を合わせているが大して会話をせずにいた。いつもならばジゼル様から声をかけてくれるのに、それが無いとこんなにも私たちの間で会話が始まらないのかと、自分が友情にあぐらをかいていたような気になる。
「レア。」
唐突に声をかけられビクリとする。
駆け寄ってきたのはロアネだった。
「あぁ、ロアネ……どうしたの?」
「最近ずっと1人でいるから、私心配で……。」
心底、心配しているという表情をロアネが向けてくる。あぁ、これがヒロインなのかと思わされる。
思慮深く、どこまでも優しい。
それなのに、私は何なのだろう。
彼女の優しさがより一層私の心に影を落とす。
「兄も姉も夜会には参加しないから。エリーはマーカス様といるし、ロアネも最近ログレス様とずっと踊っているでしょう?」
考えれば考えるほど私って友達少ないんだな。
「ジゼル様は?」
「……彼は私と違って忙しいから。」
私は回答を濁して、それから奥で他の貴族たちと会話を交わすジゼル様に目を向けた。
間違ったことは言っていない。彼はいつも他者との交流で忙しそうにしているのは確かだ。
ジゼル様の姿を視界に捉えていると、向こうもこちらに視線を向けてきた。そしてバチリと視線が合う。
私は反射的に視線を逸らしてしまった。
「レア、もしかしてジゼル様と喧嘩でもしているの?」
私とジゼル様の様子を見たロアネが心配そうに私の顔を覗き込む。
「喧嘩なんてしていないわ。」
上手く笑えているだろうか。
口の端が引き攣っているような気がするけれど、ロアネは渋々といった感じで「そう……。」と引き下がってくれた。
おそらく、無理に詰め寄るのも良くないと思ったのだろう。
「ログレス様、お暇でしたらワタクシとダンスでもいかがですか?」
甲高い声が聞こえて、私とロアネは声の方向に目を向ける。
ログレス様にこうして声をかける女性は最近では珍しいことだった。彼はいつもパートナーにロアネを選び、2人で踊ることが殆どであったから。
一体誰なのだろうと目を凝らす。
濃いアイメイクに真っ赤な主張の強いドレス、何よりも金髪の縦ロールが目を引いた。
「か、彼女は……?」
ロアネが不安そうに眉を下げながら私に問いかけてくる。
「ジェシカ・アンジークス侯爵令嬢よ。」
彼女は常に夜会では派手な様相をしている。しかしながら、いつも中心にはやって来ない。隅で夜会の様子をジッと見つめながら時たま令嬢たちを会話を楽しみ、気が向いた時だけふらりと男性と踊る、そんな女性だ。
それが、一体どういう風の吹き回しだろう。
自ら男性に……しかもログレス様に声をかけるなんて、まるで彼女らしくない。
あぁ、隣のロアネの表情がどんどん曇っていく。
どうかロアネのことを思って断ってほしいと、つい願ってしまうが、ログレス様のことだから全く希望を持つことが出来ない。
彼は恋愛偏差値が皆無なのだ。
「うむ、一曲であれば付き合おう。」
流石、恋愛偏差値ゼロの男。
ジェシカ嬢に手を差し出すログレス様を見て、ロアネは顔を青ざめた。
「やっぱり……私、浮かれていたんだわ……。」
顔を伏せて、ぐっと顔を歪ませたのが垣間見えた。
あぁ、なんだか、どうしてだろう。
どこか私と同じ感情を彼女が抱いているような気がしてしまう。
あなたはヒロインで、私はモブ。
どう転んでもヒロインは幸せが約束されているのに、どうして私と同じ表情かおをしているの?
ロアネは急にくるりと背を向けて足早にその場を立ち去っていく。
「あっ、ロアネ!」
咄嗟に声をかけるが、彼女は立ち止まらない。
ここは、追いかけるべき? それって私の役目? 友人が傷つくのは見ていられないけれど、こういう時に追いかけるのはヒーローの役目だ。だけれど、彼はいまダンスの真っ最中。
こういう時、どうすればいいんだっけ?
わからない。
私が追いかけることで、イベントの邪魔をしたら? また、同じ誤ちをしてしまいたくない。
「あ~、もうっ! これって私らしくない!」
うじうじ悩んで行動しないだなんて、私じゃない。
そう思うとすぐに体が動き出してロアネのあとを追っていた。
友人が苦しんでいるのを間近で見て、助けないなんて選択肢はある? そんなのあるわけない!
それにしても、ジェシカ嬢がどうしてかゲームの中の悪役令嬢……つまりはエライザ・ノグワールと、どこか被って見えたのは気のせいだろうか。
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