モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー

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侯爵令嬢、焦る

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「ロアネ、待って!」

 会場を出て廊下を抜けて中庭まで走り抜けていくロアネを追いかけて声をかけた。

 私が彼女にたどり着いて顔を覗き込んだところで気が付いた。彼女が泣いていることに。

「どうして……泣いているの?」
「わ、私……私、ログレス様も同じ気持ちでいてくれてるんじゃないかって、自惚れてたの。そんなはずないのに、わ、私みたいな女が、殿下の恋人になれるかもしれないなんて、淡い希望を抱いていたことが、恥ずかしくて仕方がない!」

 ロアネは心内の全てを吐き出すと、わっと涙を溢れさせた。
 どう言葉をかけて良いのかわからず、私は黙って彼女の背中をさすることしか出来なかった。

 ただ、彼女もこんな感情を抱くのかと、今までの自分の考えをどこまでも浅ましいと責めずにはいられなかった。

 ヒロインだから幸せになれるに決まっている。悲観するような出来事なんて起こるはずがない。
 そう決めつけて、ロアネのことを"ヒロイン"という言葉でのみ捉えて、1人の人間なのだという大前提のことが頭からすっぽりと抜けていた。

 彼女だって、葛藤し苦しさに押し潰されそうになりながらも足掻いて、そして幸せに向かおうとする。

 私はロアネの幸せも願っている。
 ジゼル様と結ばれることでだって、彼女は幸せになれる。

 そう信じているからこそ、私は私の信念に従い行動している。だけれど、彼女にとっての真の幸せはどこにある?? それがログレス様と結ばれることなのだとしたら、私はただの邪魔者でしかない。

 ズキズキと心が痛む。
 だとしても、私は……私の志を曲げることはしないだろう。ジゼル様とロアネが結ばれ、エリーとログレス様が結ばれる。それが私の中で最も素晴らしい結末だ。

 そう心の中で決断しても、モヤモヤは少しも晴れてはくれない。

 だけど、だけど……と何度も反芻しながら自分の中で答えを求めていくが結局当の答えは見つけ出せず、考え込んでいる中で「レア。」と泣きじゃくっていたはずのロアネから声をかけられた。

「そんなに必死にさすらなくても大丈夫だよ、ありがとう。」

 未だ目は赤く涙も残っているが、ロアネはこちらを見ながらうっすらと笑みを浮かべていた。
 それから耐えきれないというようにクスクスと笑いをこぼす。

「ちょ、ちょっと、私の顔を見てそんなに笑わないでよ。」
「ごめんごめん、レアがあまりにも必死な形相だったから。」

 それって失礼じゃない? と私はムスリと頬を膨らませる。

「ありがとう。なんだか、必死に私を慰めてくれるレアを見てたら全部どうでも良くなってきちゃった。自分にはこんなにも心強い友人がいてくれるんだって思ったら、悩んでるのなんてバカらしいなって。」

 笑顔に戻ったロアネを見て、私自身も先程までの堂々巡りな考えがどうでも良くなってきた。

「エリーやジゼル様の気持ちが良くわかった気がするなぁ。」
「どうして今2人の名前が出てくるの?」
「いや、気にしないで、独り言よ。」

 私は良くわからず首を傾げるもロアネは特に何も教えてはくれなかった。

 彼女の気持ちが落ち着いたことで私たちは夜会の場へ戻ることに決めた。扉を開き、再び華やかな世界が眼前に広がった。

「ロアネ嬢、どこへ行かれたのかと心配したぞ。」
「あ……えっと、その……。」

 会場に入ってすぐにログレス様から声をかけられたロアネは、また負の感情が湧き上がってきたのか何も答えられずにいた。
 私はすぐさま彼女の横に立ちログレス様と対峙する。

「私が少し風に当たりたいとロアネを誘ったのです。」
「ふむ、そうだったのか。レアと一緒なら安心だな。」

 ログレス様は不安そうな表情をすぐに消して安堵する。
 そういえばログレス様と踊っていたはずのジェシカ嬢はどうしたのだろう、と会場を見渡してみる。何だか嫌な予感がして仕方がない。

 そして、その嫌な予感は見事に的中してしまう。

「な、な、なんで……。」

 私がぼそりと呟いた言葉は幸いにも誰にも聞かれてはいなかった。

 なんと、ジェシカ嬢はログレス様のみならずジゼル様にも声をかけていたのだ。
 一体何がどうなっているのか……ジェシカ嬢は物語に介さない登場人物のはず。いや、それは私の存在もそうではあるのだが。

 エライザ・ノグワールは悪役ではなくなった。だから、彼女がこの世界の悪役として抜擢された……? いや、それならばジゼル様に声をかける必要なんてない。

 私が訝しげな顔をしてジェシカ嬢とジゼル様をジッと見つめていたためかログレス様が「ジェシカ嬢が気になるのか?」と声をかけてきた。

「……彼女、何か言ってた?」

 つい普段と同様の話し方をしてしまうが、この際もうどうでもいい。

「ふむ……去り際にルートが何たらとか言っていたが……良くわからなかった、すまない。」
「そう、ありがとう。」

 私は尚もジッとジェシカ嬢を見つめてしまう。

 ログレス様の言葉を聞いて確信が持てた。
 ジェシカ・アンジークスは、私と同様に前世の記憶を持つ転生者であり『逆ハー』を狙っているのだ。

 いよいよおかしな方向に物語が進んでしまうのではないかと、私は危惧せずにはいられなかった。
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