公爵様、地味で気弱な私ですが愛してくれますか?

みるくコーヒー

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第18話 Memory

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 病院へ行き、特段大きな怪我はなく足と細かな傷の手当てだけで済んだ。

 私は、公爵邸へ戻り大人しく部屋で過ごしている。

 アレクセン様は無事だろうか。ネイト侯爵を捕らえることは出来たのだろうか。

 そんなことを何度も考えるが、きっと心配はないだろうという結論に辿り着く。

 むしろ、私の心配はもっと別のところにあった。アレクセン様と何を話したらいいだろうか。まずは謝罪をすべきだ、そこから私の気持ちを伝えて……だけれど一方的に気持ちをぶつけるだけではいけない。

 ぐるぐると考え込んでは答えが出ない。

 コンコン、と扉が叩かれた。
 侍従だろうか、と私は扉を開くと目の前に立っていたのはアレク様だった。

「ア、アレク様……!」

 まさか、こんなにも早く戻るとは思っていなかったため、私は驚きの声をあげる。

 声が上ずっていたかもしれない。

 私はドギマギとしながらも「ど、どうぞ。」とアレク様を部屋の中へと促す。

「ティミリア、すまなかった。」

 アレク様は部屋に入る前に私に頭を下げた。

 どうしてアレク様が謝るのか。
 謝るべきは私の方だというのに、理解が追いつかない。

「ちが、違います! アレク様が謝ることは何もありません!!」

 私は咄嗟にアレク様の腕を掴んだ。
 アレク様は頭を上げてジッと私を見つめる。

 それから、アレク様の腕を引いて部屋の中まで入り、少しだけ離れて背筋を正す。

「謝らなければいけないのは私です。申し訳ありませんでした。」

 私が謝罪をし深々と頭を下げると、先ほどの私と同様にすぐさまアレク様が駆け寄ってきた。
 私の肩を掴んで、身体を起こさせようとするが少しだけ抵抗をする。

 出来るだけ長くこうしていたかった。
私の勘違いが、つまらない嫉妬が、そもそも私の卑屈な性格のせいでアレク様にたくさんの迷惑をかけたのだ。

 だけれど、アレク様の力の方が強くて身体を起こされる。辛そうな顔をする彼の視線と私の視線が交わった。

 あぁ、そんな顔もするのね。

 今まであまり感じられなかった"人間らしさ"を今になって感じる。

「私が勝手に勘違いをして怒っていたのです。貴方には心に決めた人がいて、その人と密かに逢瀬をして、そして前の夜会でキスをしていたと思い込んでいたのです。」
「俺が? 一体誰と逢瀬をしていたと思ったのだ?」
「ランさんのことを私は男だと思っていて、バルコニーで話していたのが逢瀬の相手だと……しかし、ランさんからそれは自分のことだと聞かされました。」

 私は目を伏せて、彼の顔を見ることができなくなった。

「つまり、それは、君が、嫉妬をしてくれていた……と?」

 一体何を言っているんだ? とつい顔を上げると、アレク様は頬を染めてなんだか嬉しそうにしていた。

 この状況がよく分からず、私は目を泳がせながら「えぇ、まぁ、そういうことになります。」と答える。

「いや、ティミリアが誤解するのも当然だ。ランを友人としか紹介していなかったし、何より今までの俺の態度が良くなかった。」

 私は、アレク様の発言に驚いて目を丸くする。
 アレク様が自身の行動を思い返して、それを悪いと思っているのだ。

「俺は、どこまでも愚かだと自覚している。君が勘違いをしてもおかしくない発言を多数してきた。特に、当初俺がかけた言葉でティミリアがどれほどに傷つき悩んだかなど、考えたこともなかった。」

 確かに、初めて夕食を共にした時にかけられた言葉は今でも心に深く傷を残している。

 私の淡い期待も何もかもが崩れた瞬間だったから。

「……えぇ、確かにとても傷つき、悩みました。それは真実です。だけれど、今思うとそれは何かの考えがあっての言葉だったのではないかと思うのです。」

 彼の真意を知ることを私はずっと避けてきた。それを知ることが怖くて、彼の心に触れることをどこか重荷に感じていた。

 だが、それが2人にとって大きな問題を生んでいたのだ。

 だから、私は全てを受け止めなければならない。2人のために。

「俺は……欠陥のある人間だ。今まで誰も愛してこなかったし、その資格だってないと思っている。俺の妻になることでティミリアに愛を享受することを諦めて欲しくなかった。勿論、何不自由ない生活を保証するつもりではあったし、幸せな生活を送って欲しいと願っている。だが現実問題、後継ぎは必要だ。だから、結果としてあのような発言になってしまった。」
「そう、でしたか。」

 彼はどこまでも私のことを考えてくれていたらしい。
 だが、不器用すぎはしないだろうか?

 呆れたような目を向けていると、アレク様は申し訳なさそうに眉を下げた。

「いや、よく分かっているんだ。言い方の問題だと。」

 しゅんとしたアレク様が可愛く見えて、ふふっと笑ってしまう。

「もっと教えてください、アレク様のこと。」

 彼の腕を引き、椅子に座るように促す。対面して、ジッと彼が話し出すのを待った。

 話すことを躊躇っているようで、話し出すまでに随分と時間がかかっている。

「ティミリアにとっては重い話かもしれないが……俺の話を聞いてはくれないだろうか。」
「はい、勿論です。」

 アレク様の搾り出したような声に、私はすぐさま呼応する。

「母は、幼い頃から俺を欠陥人間と呼んだ。」

 そうして始まったアレク様の話は、とても痛くて、辛くて、哀しいものだった。
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