公爵様、地味で気弱な私ですが愛してくれますか?

みるくコーヒー

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yromeM 話81第

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 母は、幼い頃から俺を欠陥人間と呼んだ。

 他人よりも感情が乏しく、思ったことを口にしてしまう。
 それは母にとって余りにも気味が悪く、大変気に障っていた。

「アレクセン、どうしてお前はジオンのように器量良く出来ないの?」

 そうして頬を叩かれたのはいつのことだっただろう。
 いや、それは日々当たり前のように行われていたことだった。

 母は、いつも良く出来た兄のオラジオンと俺を比べては、俺に毒を吐いた。

 父と兄はそんな母を宥めていたが、母の態度はいつまでも変わることはなかった。

 何故、こんなにも俺は母に嫌われているのか。それは単に俺が"ちゃんと"出来ないからだ。

 全部俺がいけないのだと思い込ませ、俺自身が母を嫌いにならないように努めていた。

 俺には、たった1人の母だから。
 きっと上手くやれば褒めてくれる日が来ると思いたかったから。

 しかし実際問題、俺の存在意義はあるのかどうかと幼いながらに考えていた。

 ロベルタ家の跡を継ぐのは兄で、じゃあ俺のいる意味は??
 なぜ俺は生まれてきたのか、こんなにも生きていることを望まれていないのに。

 毎日がつまらなくて仕方がなかった。
 目標なんて一つもない、夢なんてものは持ち合わせていない。

 ただあるのは、母の恐ろしい形相と厳しくてナイフのように鋭い言葉だけ。

 そんな日々に変化が訪れたのは、12歳の冬のことだった。

 兄が病気で死んだ。
 誰も彼もが悲しんだ。俺だって例外ではなかった。

 涙も流したが、母の目に俺の悲しんでいる様子など映っていなくて「なぜ兄が死んだというのにそんな冷たい表情が出来るの!?」と罵られた。

 母の瞳に俺は正常に映らない。
 彼女の思い込みによる偏見は、年月をかけて随分と深く浸透してしまっていた。

「お前が死ねば良かったのに!!!」

 そう言われた時に、俺の心は砕けてしまったような気がする。
 無価値な人間で、存在する意義もなく、他人への関心も無くしてしまった。

 ただ、これ以上傷つきたくない。
 その一心で"完璧"を演じてきた。

 母は兄を亡くして生きる活力を無くしてしまったようで、以前のように俺を罵ることはなくなった。
 俺に興味を示すこともなく、しかし苦虫を噛み潰したような表情でいつもこちらを見ていた。

 そして、18の時に両親は亡くなり俺は若くして公爵家を継ぐこととなった。

 だがそれからも母の言葉が時折頭の中を渦巻く。

 "欠陥人間"という言葉は呪いのように俺に着いて回って、人を愛することなど一生出来ないのだと思わせる。

 何よりも、自分自身がそうして壁を作っていたように思う。

 俺が誰かを傷つけないように、俺が誰にも傷つけられないように。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 そうして話し終えた時、ティミリアはとても苦しそうな顔をしていた。

 その顔を見て、話してしまったことは正解だったのか失敗だったのか不安になる。

 彼女は受け止めてくれるだろうか。
 母から愛されたことのない欠陥人間を、彼女も気味が悪いと拒絶するだろうか。

 ティミリア、君にも拒絶されてしまったら、俺は本当に、生きていけないかもしれない。

 俺はただ、かろうじて生きていただけだ。夢も目標もなく、だけれど父と兄のために公爵家を守らなければという使命感だけが俺を突き動かしていた。

 父と兄は、俺を愛してくれていたから。2人の想いは受け継いでいたかった。

「今まで、1人で抱えていたのですか?」

 ティミリアが、そっと俺の手を握って真剣に、それでいて包み込むような優しい声音で問いかけてくる。

「幸い俺には友人がいる、きっと内情を知っていて支えてくれていたことだろう。だが、口にしたのは初めてだ。」

 はは、と渇いた笑いが漏れる。
 無理矢理に口角が上がって、笑いたくもないのに笑ってしまう。

 むしろ、いつも笑うことなんて滅多にないのに。どうしてこんな時に限って。

「本当は、泣きたいのでしょう? アレク様は感情を表現するのが下手ですね。」

 ティミリアの言葉に、ぽろりと涙が零れる。

 そうか、俺は泣きたかったのか。
 小さな頃から、母が突き刺してくる言葉に涙を流したことなど一度もなかった。

 だが、今やっと気付く。
 俺は痛くて、苦しくて仕方がなかった。

 次々と溢れてくるものが止まらない。
 横からふわりと暖かさが伝わる。

「これからは、私が何でも話を聞きます。だから、1人で抱えないで下さい。もしもアレク様が傷つくことがあれば、私も一緒に怒りますから!」

 ティミリアが俺を抱きしめながら、いつだか俺が彼女にかけた言葉を返してくれる。

「痛みも苦しみも哀しみも……そして嬉しさも楽しさも一緒に共有しましょう。」

 その言葉を聞いて、俺はやっと夫婦としてスタート地点に立てたような気がした。

 2人の間を隔てる壁が無くなって、ここから始まっていくのだと感じさせる。

 あぁ、そして確信するのだ。
 俺は彼女を"愛して"いるのだと。
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