公爵様、地味で気弱な私ですが愛してくれますか?

みるくコーヒー

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THE END

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 アレク様の話を聞いて、とても胸が苦しくなった。

 アレク様の苦しみがどれほどのものだったか、私には計り知れない。
 大変でしたね、辛かったでしょうね、なんて軽々しく声をかけることも憚れる。

 今までならば、黙って俯いてしまっていた。下手なことを言うよりは何も言わずにいる方がいい、私が声をかけたところで何も変わらない。そんな風に考えて、相手を見ることさえしなかった。

 だけれど、それでは何も変わらない。

 アレク様と過ごす中で少しずつ上を向けるようになった。そうではない時もあったけれど、少なくとも彼の言葉が、行動が、私に小さな勇気と自信をくれていたように思う。

 だが、今はどうだろう?
 今度はアレク様が、今までの私のように下を向いてしまっている。

 私に出来ることは、彼がしてくれたことを次は私がすることだ。

「今まで、1人で抱えていたのですか?」

 そっとアレク様の手を握り、問いかける。どうにか彼を包み込んで上げたくて、暗い闇の中にいる彼に光が届くように。

 アレク様は不自然に口角を上げる。
 それはどう見ても歪で、笑いたくなんかないのではないかと直感的に感じた。

「幸い俺には友人がいる、きっと内情を知っていて支えてくれていたことだろう。だが、口にしたのは初めてだ。」

 そういうアレク様は、ははっと乾いた笑いを溢す。

 本当に不器用な人だ。
 そう思わずにはいられなかった。

 笑っているのに、本当は泣いてしまいたいのだというのが思いがひしひしと伝わる。

 歪な笑顔の奥の心情が、真剣に対面して初めて読み取れた。

 あぁ、きちんと彼と向き合ったら、こんなにも貴方のことがよくわかる。

「本当は、泣きたいのでしょう?アレク様は感情を表現するのが下手ですね。」

 私は、アレク様のことを受け止めたくて、微笑みながら告げた。

 すると、彼の頬に涙が伝う。
 それを皮切りに、どんどんと涙が溢れていた。唐突にあふれ出た感情にどう対処していいかわからず、アレク様はただただ涙を流していた。

 自然と身体が動き出す。
 私はアレク様をギュッと抱きしめて、あなたの味方なのだと全身を使って伝える。

「これからは、私が何でも話を聞きます。だから、1人で抱え込まないで下さい。もしもアレク様が傷つくことがあれば、私も一緒に怒りますから!」

 それは、私がいつだかアレク様から言われた言葉。

 "これからは、俺が君の話をいくらでも聞こう。だから、耐えるのはやめてくれ。もしも、また誰かが君を傷つける言葉を投げかけたなら、俺が君の代わりに怒ろう。"

 アレク様から受け取った優しさを、今度は私が返す番だ。

「痛みも苦しみも哀しみも……そして嬉しさも楽しさも一緒に共有しましょう。」

 そうして、夫婦になっていこう。
 急がなくていい、ゆっくりでいい、私たちのスピードで。

 ここからまた始まるのだ。
 いや、今まではスタート地点にすら立っていなかった。ようやく、そこに立てたのだと感じる。

 ゴールはきっとない。
 けれど、私たちがお互いに幸せを享受できるように。その日まで少しずつ歩みを進めよう。

 胸を張って貴方に"愛しています"と伝えられる日まで。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「無理して式をあげなくても良かったんですよ?」

 大きな式場の外。
 目の前の扉の先には、大勢の招待客が私たちが現れるのを待っている。

 そうして隣には、むすりとしかめ面をした私の旦那が立っている。

 真っ白なタキシードが彼の端正な顔立ちとスラリとした背に良く似合う。

「結婚式を挙げなければ面目が立たないだろう。」

 おそらく、それは私の顔が立たないということなのだろうが、昔の私だったらそうは感じていなかった。

 相変わらず言葉が足りず不器用だが、彼の真意を汲み取れるようになった私はかなり成長したのではないか? と前向きに考えよう。

 私たちの関係を心配した家族は、結婚式をするという報告に喜びの声を上げた。

 私の相談相手であり良き友人となったランさんも満足そうだった。

 私たちの挙式について多くの人が祝福してくれている。勿論、全員ではなかったけれど、昔のようにウジウジと考えることは少なくなった。

 2人にとって大切だと思える人たちが祝福してくれれば、それで良い。

「では、その仏頂面もやめてニコリと笑って下さらないと。」

 私が進言すると、難しそうな表情を見せる。

「随分とハッキリと言うようになったものだ。良いことなのか、悪いことなのか。」
「良いに決まっています。」

 2人で顔を見合わせて、クスクスと笑う。この一時だけでも、私は幸せを感じていた。

「さあ、そろそろ行きましょう。。」
「ティミリア。」

 私が歩き出そうとすると、アレクが私の名前を呼んだ。優しい眼差しが注がれる。

「この先も俺が君を幸せにする。」

 その言葉はただ真っ直ぐで、私は笑みを浮かべてコクリと頷く。

「愛しているよ、ティミリア。」
「えぇ、私も、愛しています。」

 扉が開かれる。
 きっと、ただ幸せでいられるひびではないだろうけれど、アレクとならば進んでいける。

 そんな未来を信じて、私たちは一歩ずつ歩き始めた。



              ー THE END ー






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