悪役令嬢代わりました。【更新停止中】

みるくコーヒー

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第1章: 初等部

10歳の苦悩

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 4年生の6月。

 クラス替えも無事に終わり、私は当然1番上のAクラスになった。そこには剣士科ではそこそこ名の知れている人が多くて、クラスの人を覚えるのに時間はかからなかった。

 ああ、それにしても悔しい。

 結果として、私たちの代の剣士科でトップを飾ったのは雨香くんだった。2番目がイルマくんで同立3番目が私と雫といった具合だ。
 少しずつ周囲が……勿論私自身もではあるが、成長していくのが見えて段々と男の子と女の子の差が出始める。とは言ってもまだまだなのだが、筋肉のつき方に多少の差が出て来てしまうのだ。

 その差を埋めるのは、女子特有のしなやかさや技に対する丁寧さ。筋力で勝れないのならば細かいところで上を行くしかないのだ。

「三ヶ森さん。」

 席に座って思考を巡らせていると、誰かが近づいて来て私に声をかける。

「何かしら、イルマくん。」

 声からそれがイルマくんだと推測する。
 私が顔をあげると、予想通りそこにはイルマくんが立っていた。

 流石に4年目となれば、声だけで誰なのか判別できる。

「ほら、今日はおれたちが練習場の掃除当番だから。」

 ああ、そういえば! と私は立ち上がる。
 1週間に2回、私たちが普段授業で使う練習場の掃除を行うのだ。
 その当番は4年生から6年生で分担されている。
 頻度で言えば各々1年に1度行う程度、運が悪ければ2度巡ってくる。

 ペアは先生が決めているので一体どういった基準で組んでいるのかは知らないけれど。

「でも、三ヶ森さんとで良かったよ、他の人だと少しめんどくさいからね。」

 イルマくんがアハハっと笑う。

「何を今更、近くに女の子をたくさん侍らせてるくせに。」

 私が試すような口調で言うと、彼はニコリと笑った。

「勿論、女の子はみんな花のように愛でないと。」
「何それ、気持ち悪いわね。」
「心外だなぁ、紳士と言って欲しいね。」

 実はイルマくんとはずっとクラスが同じなこともあり、目立って仲良くしたことは無いがこうして軽口をたたける程には仲が良い。

 イルマくんは、来るもの拒まず去るもの追わずで、近くに寄ってくる女の子には言い寄られれば甘い言葉を返す。おいおい、小学生……と思っていたのだが今では見慣れたものだ。同性の友達だって居なくは無いが、それでも基本的には女の子といることを頻繁に目にする。

 そんなことしてるといつか刺されますよ。

「三ヶ森さんこそ、そういう話は無いわけ? 海里さんや梓さん、雨香とも良くいるのに。そういえば、過保護な執事さんもいるんだよね。」

 私は、あり得ないという様に首を振る。

 どう考えてもそういった対象では無い。
 私とて恋はしたいのだが、何せ好きになれる人がいないのでね。

 そもそも、そんなことに現を抜かしてる暇があるならもっともっと剣術を磨きたいのだ。

「良ければ、おれなんてどう?」

 ニコリと笑みをながら繰り出す言葉に、私は目を細めて身体を少し逸らす。
あからさまに引いていますよ、というアピールだ。

「バカなこと言わないで。」
「ちょっと即答? 酷いなぁ。」

 イルマくんは、酷いと言いながらまるで傷ついた様子も無く笑みを浮かべ続けている。

「少なくとも、私や雫にその手は通用しないわよ。」

 私はそもそも精神年齢おばさんだし、雫だって甘い言葉になびくタイプじゃない。

というか……雫はなんか姐御感が凄いし。

「雫さんは確かにそういう対象にはならないなぁ……おれにとっては頼れるお姉さんて感じかな。」

 イルマくんにとっても雫のポジションは私と同じようだ、確かにイルマくんは甘やかされるタイプだわ。

 雑談をしていると練習場に着いた。

 数日だけしか経っていないというのに落ち葉が異常に多くて困る。終わった後に軽く掃除はするのだが、それでは充分と言うには程遠いのだ。

「風の精よ、我の力となり従い吹け、風流れブロウ

 本当に基本中の基本である魔法を使い、風の流れを操って落ち葉を集める。

日常的に使われるのは「火塵ファイア」「水玉ウォーター」「光灯ライト」「闇紛れダーク」そして今使った「風流れ」の5つである。
この五つは基本中の基本で殆どの人が使うことが出来る。ただ、無詠唱となると話は別になるが。
氷玉アイス」や「土壁ウォール」が使われることもしばしばある。

 剣士といえど、こういう初歩的な魔法は基礎なので使えるが、無詠唱では使えない。魔法について細かく学ぶ魔法科の生徒なら容易いのだが。ただ、誰だってそれなりに学べば無詠唱で扱えるようになるし、より高度な魔法も使える。

 例えば、篤也お兄様のように。

 無詠唱というと魔法科だけで使われる言葉のようだが、そうではない。
 私たちも、剣術の奥義は詠唱しないと使用することが出来ない。少なからず魔力を溜めたりするからだ。剣術だけに頼っているように見える技でも、実は移動速度を早くしたりと魔力を使っているのだ。

 そしてその奥義にも無詠唱がある、と言った具合だ。

 ただ、まるで中二病のように奥義の名前を言っているわけではないのだ。

「そういえば、イルマくんって他の人のことは名前で呼ぶのに私のことは呼ばないわよね。」

 ふと思ったことを口にする。
 振り返って考えてみると、私だけ名字にさん付けなのだ。

「なになに、ヤキモチ焼いちゃった?」
「一回、死んでみたらどうかしら?」

 笑顔で聞いてくるイルマくんに、笑顔で私は毒を吐く。
 本当に、1度その軽口をどうにかして欲しい。

「冗談じゃないか。ん~別に意図は無いんだけどね、強いて言うなら名前で呼びづらいかなぁ。」

 私はイルマくんの言葉に目を丸くする。

「私って親しみやすい顔してるじゃない。」
「うん、そう思ってるなら大きな間違いだよ。」

 いやいやまてまて、前世と同様平凡顔のモブで産まれたはずなんだが! そもそも、モブ=平凡顔の方程式が出来上がっているのに!

 なんだろうなぁ、悪役顔でもないし特別可愛いとか美人でも無いはずなんだけど。
 この少し釣り上がった目が悪いのかしら。

「でも、三ヶ森さんがそこまで言うなら名前で呼ぼうかな。」
「いや、別に良いわよ、名字のままでも。」
「わかったわかった、よろしくね綾子。」

 まるで人の話を聞いてないわ、この人。

 魔法でかき集めた落ち葉をゴミ袋に詰め込む。ある程度集め終わったら魔法を解いて袋の口を結ぶ。

 それを2人で抱えてゴミ捨て場へと歩き出した。

「ねぇ、イルマくんさぁ。」
「うん?」

 それまで他愛のない話をしている最中に、一区切り付いたと見たあたりで話を切り出す。
 それに、イルマくんはこちらを見て首を傾ける。

「友達少ないでしょ。」
「ゔっ。」

 グサリと音が聞こえた気がした。
 痛いところを突いたようだ。

「べ、別にいないわけじゃないよ。」
「でも、とても少ないでしょ。」
「ま、まぁ、うん……。」

 イルマくんは、ははっと乾いた笑いをする。

「ほら、おれってこういう性格でしょ? だからあんまり男の子は寄って来ないんだ。それでいて、女の子好きみたいな態度取るから尚更ね。」
「みたいなじゃなくて女の子好きでしょ?」
「正直、別にそんなことないよ。」

 まさかな言葉を聞く。
 今まで、如何に多くの女の子をたらしこんできたか……といっても所詮、小学生だけども。

「女の子には優しく、それが昔から親に言われ続けていること。だから、女の子がおれの元へ来れば機嫌の良くなる言葉を送るよ、それだけかな。むしろ女の子は少しだけ苦手。」

 だって、怖いんだもん。

 そんなことを言われてしまえば、確かにと納得する以外に方法がない。
 目の前で言い争いが起きたり取り合いが起これば、それは嫌にもなるだろう。

 正直、イルマくんの近くにいる女の子は強い子ばかりだった。だから、いつも『うわー、怖いなぁ』なんて割と他人事のように見ていた。

 10歳にして既に苦悩しているとは……将来ハゲるな、これは。

「ホントはおれだって男の子と仲良しになりたいけど……。」
「雨香くんと仲良くすればいいじゃない。」
「雨香は、もう仲良いもん。でも雨香はあんまり人と群れるタイプじゃないから、多少話すくらいがいいんだよ。」

 確かに、雨香くんはどちらかというと一匹狼タイプだ。勿論、話すときは話すし一緒にいるときはいるけど、それはそこまで多くない頻度だった。

 思い返せば、イルマくんは他の人と比べると幾分多く雨香くんと話をしていたような気がする。

「普通科とか、魔法科は?」
「言ってしまうと、おれはコミュ力が低い。」

 ということはつまり、自ら話しかけられないと。

 なんだかこうじっくり話すと、どんどんイルマくんのイメージが崩れて行く。

「かくいう私も、友達は多くなかったわ。」

 2人して遠い目をする。
 何だか自ら話し始めたことなのに傷を負うとは思わなかったわ。

 ゴミ捨て場に着いたので、私たちはボスッと袋を投げ入れた。

「来年、枢木とルジアンナから留学生が来るし、その人たちに賭けてみようかな。」

 うちの学校では、同盟がある3学園で定期的に交換留学が行われている。
 大抵11歳、14歳、17歳だ。
 本人の希望によっては期間も伸ばせるし、転学試験をクリア出来れば留学先の学校に転校することも可能である。
その試験の成績によっては特待生として扱われる場合もある。

「たまには、私だって話し相手になってあげるわよ。」
「君も結局女の子だから、何の解決にもならないんだけどなぁ。」

 イルマくんは苦笑を浮かべる。

「まあでも、その気持ちはありがたく受け取るとするよ。」

 先程の苦笑を飛ばすように、イルマくんは二カッと笑う。私もそれに応えるように笑い返した。



「弥助、どういうことだ。」

 夕霧は怒りの表情を浮かべて弥助に詰め寄る。

「何がや、夕霧。」
「これだ! お前は一体何を考えている!?」

 そう言って、夕霧が提示したのは弥助の来年の留学申請書だった。

「そのまんまや、留学しようと思ってな。」
「私に許可無く勝手なことをするな!」

 夕霧がぐしゃりと申請書を握り潰して投げ捨てる。
 それを弥助は拾い上げて広げた。

「せっかくのわしの申請書がぐちゃぐちゃやないか。」
「弥助、貴様……。」

 夕霧はガッと弥助の胸倉を掴む。
 その瞬間、弥助は夕霧に冷酷な視線を送る。

「わしは、あんたの部下じゃないはずやけど。」

 それは、今までのような剽軽なものではなくどこまでも冷徹な声音だった。
 弥助は夕霧の腕をグッと掴んで自分の胸元から話す。

「だが、私はお前の身を預かっている。」
「あんた立場わかっとる? わしより上やったっけ?」

 弥助の言葉にぎりりと苦々しい表情をする。

「邪魔せんといてや。特別なにか無い限り好きにしてええって言われとるし、例えあんたでも邪魔するなら容赦しないで。」

 夕霧は下唇を噛みしめてから弥助をキッと睨みつけ、手を振り払って踵を返した。

「勝手にしろ!」

 夕霧は、そう吐き捨てて去って行った。
 見えなくなった頃に、弥助は深く溜め息を吐いた。

「はぁ、これやから下手に権力持っとるやつは嫌やねん、まるで自分の立場をわかっとらん。」

 弥助は、ぐしゃぐしゃでボロボロになった申請書を見てニヤリと笑った。

「やっと色々調べれそうやな……まあでもこれは書き直しせな。」

 1年後に思いを馳せた彼は、書き直しを判断した為に不必要になった申請書をビリっと破った。
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