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XIV 訪問者-II
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彼を仕事に送り出し、家事を全て終わらせた14時半。
遣るべき事が尽きてしまった今、その退屈さから1人テーブルに突っ伏し、今日何度目になるか分からない深い溜息を吐いていた。
貴族が暮らす屋敷の様に大きな家であれば、1日に熟すべき家事の量も多く、こうも退屈を味わう事は無かったのだろう。
私が生まれ育った屋敷でもそうだった。9人の使用人が1日休み無く働き続けても、仕事が終わるのはいつも夜遅く。勿論、屋敷での業務は家事だけで無く主の身の回りの世話迄含まれているが、それでも家事の量は圧倒的に多い。
この家の大きさに不満を持っている訳では当然無く、屋敷での暮らしに比べれば幸せではあるが、やはり“退屈”な時間を過ごす事は少しばかり辛かった。
では、探索がてら街へ散歩に出掛ければ良いのでは無いか。街で暮らしていくにあたって、より多くの物を知っておくべきだ。
今の私を見る者が居るとすれば、きっとそう提案する事だろう。
だが残念な事に、今の私はこの家から出る事が出来なかった。
その理由は言わずもがな、私が屋敷を抜け出してから3日しか経過していないからである。
セドリックの話によると、今のところはまだ新聞に行方不明や誘拐等を仄めかす記事は掲載されていないらしい。だが、相手は上流階級の人間だ。最も考慮すべき事は、娘の居場所よりも世間体。
令嬢が消えただなんて事が記事になれば、社交界でも街でも噂になる。事実、キャヴェンディッシュ家の令嬢が消えた際、父は“社交界での良い話題になる”と言って書斎に山済みになる程新聞を集めていた。
そんな父の事だ。決して私の失踪を、新聞の記事になんてさせないだろう。
新聞社を買収し、情報を隠蔽。そして独自に警察を雇い、私の失踪を世間に知らせない様徹底的に街を調べ尽くすか。もしくは、私そっくりの替え玉を用意し、新しい“エル・エインズワース”を造り上げるか。それとも、病死や事故死扱いにして私の存在その物を抹消するか。
どちらにせよ、父の行動が読めない今は下手に動くべきではない。この街を知りたい気持ちは山々だが、セドリックと話し合った結果、外出はある程度期間が空いてからにするべきだという話に至った。
――だがやはり、退屈である。
朝食で使用した皿は既に洗い終え、丁寧に水気を拭き取り食器棚に片付けた。洗濯も早朝のうちに終え、全て干し終わった。窓拭きも、ベッドメイキングも、部屋の掃除も、全て終えた。どれだけ考えてみても、もう家事は残っていない。其れこそ、今の私が出来る事は時計と睨み合う位だ。
こんな時に、本の1冊でもあれば幾らか退屈を凌げたのだろう。屋敷暮らしの時も、退屈な時はいつも書斎に籠っていた。
何か、退屈を凌げる物は無いだろうか。部屋の壁に沿う様に置かれた大きな棚に、視線を向けてみる。
だが、その棚は空っぽ。何故わざわざこれ程大きな棚を設置したのだろうと思う程に、そこには何も置かれていない。
期待するだけ無駄だった、と再び溜息を吐いた。
テーブルに突っ伏したまま、足をぶらつかせ時計を睨む。セドリックが仕事を終え、帰ってくるのは大体17時から18時。どれだけ忙しくとも、19時を過ぎる事は殆ど無い。
指を使い、現時刻から彼が帰宅するまでの時間を数える。早くてあと2時間半。遅くて、3時間半。
彼が帰ってくるまでの残り時間を、変わらず退屈なまま過ごしていたら間違いなく気がおかしくなってしまう。少し、外でも眺めていたら気が紛れるだろうか。
徐に席を立ち、陽の光が差し込む窓際にふらりと近付いた。
皮肉にも、今日は珍しく天気が良い。絶好の散歩日和だ。
窓から見える街路は、普段より人で賑わっている様にも見える。
今日の様な日に、セドリックと共に街を歩けたら。此処に来た晩の様に腕を組んで、店を見て回って、笑い合えたら。そんな妄想に耽り1人笑みを漏らす。
「――ん…?」
だが、瞬時にその妄想が“普通じゃない”事に気付き、顔に浮かんだ笑みが消えた。
遣るべき事が尽きてしまった今、その退屈さから1人テーブルに突っ伏し、今日何度目になるか分からない深い溜息を吐いていた。
貴族が暮らす屋敷の様に大きな家であれば、1日に熟すべき家事の量も多く、こうも退屈を味わう事は無かったのだろう。
私が生まれ育った屋敷でもそうだった。9人の使用人が1日休み無く働き続けても、仕事が終わるのはいつも夜遅く。勿論、屋敷での業務は家事だけで無く主の身の回りの世話迄含まれているが、それでも家事の量は圧倒的に多い。
この家の大きさに不満を持っている訳では当然無く、屋敷での暮らしに比べれば幸せではあるが、やはり“退屈”な時間を過ごす事は少しばかり辛かった。
では、探索がてら街へ散歩に出掛ければ良いのでは無いか。街で暮らしていくにあたって、より多くの物を知っておくべきだ。
今の私を見る者が居るとすれば、きっとそう提案する事だろう。
だが残念な事に、今の私はこの家から出る事が出来なかった。
その理由は言わずもがな、私が屋敷を抜け出してから3日しか経過していないからである。
セドリックの話によると、今のところはまだ新聞に行方不明や誘拐等を仄めかす記事は掲載されていないらしい。だが、相手は上流階級の人間だ。最も考慮すべき事は、娘の居場所よりも世間体。
令嬢が消えただなんて事が記事になれば、社交界でも街でも噂になる。事実、キャヴェンディッシュ家の令嬢が消えた際、父は“社交界での良い話題になる”と言って書斎に山済みになる程新聞を集めていた。
そんな父の事だ。決して私の失踪を、新聞の記事になんてさせないだろう。
新聞社を買収し、情報を隠蔽。そして独自に警察を雇い、私の失踪を世間に知らせない様徹底的に街を調べ尽くすか。もしくは、私そっくりの替え玉を用意し、新しい“エル・エインズワース”を造り上げるか。それとも、病死や事故死扱いにして私の存在その物を抹消するか。
どちらにせよ、父の行動が読めない今は下手に動くべきではない。この街を知りたい気持ちは山々だが、セドリックと話し合った結果、外出はある程度期間が空いてからにするべきだという話に至った。
――だがやはり、退屈である。
朝食で使用した皿は既に洗い終え、丁寧に水気を拭き取り食器棚に片付けた。洗濯も早朝のうちに終え、全て干し終わった。窓拭きも、ベッドメイキングも、部屋の掃除も、全て終えた。どれだけ考えてみても、もう家事は残っていない。其れこそ、今の私が出来る事は時計と睨み合う位だ。
こんな時に、本の1冊でもあれば幾らか退屈を凌げたのだろう。屋敷暮らしの時も、退屈な時はいつも書斎に籠っていた。
何か、退屈を凌げる物は無いだろうか。部屋の壁に沿う様に置かれた大きな棚に、視線を向けてみる。
だが、その棚は空っぽ。何故わざわざこれ程大きな棚を設置したのだろうと思う程に、そこには何も置かれていない。
期待するだけ無駄だった、と再び溜息を吐いた。
テーブルに突っ伏したまま、足をぶらつかせ時計を睨む。セドリックが仕事を終え、帰ってくるのは大体17時から18時。どれだけ忙しくとも、19時を過ぎる事は殆ど無い。
指を使い、現時刻から彼が帰宅するまでの時間を数える。早くてあと2時間半。遅くて、3時間半。
彼が帰ってくるまでの残り時間を、変わらず退屈なまま過ごしていたら間違いなく気がおかしくなってしまう。少し、外でも眺めていたら気が紛れるだろうか。
徐に席を立ち、陽の光が差し込む窓際にふらりと近付いた。
皮肉にも、今日は珍しく天気が良い。絶好の散歩日和だ。
窓から見える街路は、普段より人で賑わっている様にも見える。
今日の様な日に、セドリックと共に街を歩けたら。此処に来た晩の様に腕を組んで、店を見て回って、笑い合えたら。そんな妄想に耽り1人笑みを漏らす。
「――ん…?」
だが、瞬時にその妄想が“普通じゃない”事に気付き、顔に浮かんだ笑みが消えた。
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