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XXII 思い出せない記憶-II
しおりを挟む「おにーさん、どうしたの? 熱烈な視線を感じた気がしたんだけど……」
定型文の様な台詞を吐いた彼女が、俺の顔を見るなり「あっ!」と大声を上げる。
「もしかして、あの時のおにーさんじゃない!?」
アリアの顔に、より一層の笑顔が浮かんだ。
「……はぁ?」
彼女が向かいの席に座り、身を乗り出して俺の顔を覗き込む。
救いを求める様にマーシャに視線を送るが、マーシャは含み笑いを浮かべるだけ。
「私、おにーさんにもう一度会いたかったの! どうしても、おにーさんの事忘れられなくて……」
嬉々として話すアリアを見つめながら、深く記憶を巡らせる。
娼婦の女と顔見知りになった事など、今迄にあっただろうか。人との出会いはそれなりに多い方だが、出逢いう相手の職種は大体限られる。
「もしかして、おにーさん私と話した事忘れちゃった?」
「出逢った事すらも覚えてない」
「ひどーい!」
別人と勘違いでもされているのだろうか。これでは犯人グループの話を聞きだすどころか、暴行事件の話を切り出す事すら難しそうだ。
あまりに予想外すぎる展開に頭を抱える。
「ねぇ、その子本当に知らない子なの?」
今迄黙っていたマーシャが、耳打ちする様に俺に顔を寄せた。
「……知らない、とは言い切れないが……少なくても記憶には無い」
「でもその子、嘘はついてないっぽいんだよねぇ。記憶違いでもなさそうだし、今迄セディに迫った街娼の中の1人……とかなんじゃないの?」
「……だったとしても、そんなん顔なんかいちいち覚えてねぇよ」
マーシャと顔を見合わせ、共に溜息を吐いた。
見るからに軽薄で、尚且つ頭の悪そうなアリアになら知り合いのふりをして聞き出す事も可能だろう。しかし、当然ながらそれは相当のリスクを伴う。
まだ半分程残っている酒を一気に喉奥へ流し込み、アリアに追加で酒を持ってくるように告げた。
カウンターの方へ駆けていくアリアの背を見ながら、マーシャと顔を寄せ合う。
「本当、事件の後遺症無いのね。彼女から何も流れてこなかった事が一番吃驚よ」
「男に抱かれる事、慣れてるんだろうな」
視線の先のアリアは、店主と話しながら屈託の無い笑みを浮かべている。男性客に身体を触られても、気に留めるどころかアフターのお誘いをする始末だ。あの様子だと、彼女から満足のいく情報を得る事は難しいだろう。
舌打ち交じりに溜息を吐く。
「……そんな事よりセディ、さっきの主犯格の男……知り合いなの?」
「……んな訳ねぇだろ」
「えぇ……でも、あの男はセディの事知ってるみたいだったけど……。あんま変に隠し事とかしないでよね。私の能力だって、全部読める訳じゃないんだから」
「別に何も隠してねぇって。あの男が誰かなんて、俺が一番知りてぇよ」
肩に置かれたマーシャの手を、勢い良く振り払う。
彼女の首に付いた小さな傷は、出血はおさまったものの痛々しい跡を残している。
マーシャを黙らせる為だったとはいえ、彼女には悪い事をした。罪悪感を感じ、彼女から目を逸らす。
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