親友と同じ顔の騎士団長に、猛烈に口説かれています

鳥居之イチ

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第5話 評価されました

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 ——なんでサポート部の人間が討伐遠征に参加してるんだよ
 ——ただのお荷物だろ……その名の通り荷物持ちしてもらうか?
 ——まぁそれしかやることないだろ
 ——邪魔しなければなんでもいいだろ


 討伐遠征当日、そんな声がチラホラと聞こえてくる。
 俺としても言われることはある程度覚悟をしていたためそこまで気分が落ち込むことはないのだが、言われて気分が良いものではない。むしろ苛立ちを覚えるほどだ。
 そう思っているのは俺だけではないようで、エリースとサジも表には出してはいないものの、苛ついているのが見てわかる。

 今回の討伐遠征の指揮はエリースが取るらしく、第一騎士団が先陣を切り、その後ろに医療班とサポート部の俺、後方からの襲撃に備え後ろには第三騎士団というフォーメーションで今回の討伐遠征は行われる。
 第一騎士団は俺のことを知っているため、変な陰口を言われることもなければ、後ろ指を刺されることもないのだが、第三騎士団とは関わりがないため言いたい放題のようだ。現に先ほどから俺の悪口は後方から聞こえてくるため第三騎士団の人間が言っているに違いない。
 いくら所属している騎士団が異なるとはいえ、武器や備品の修理を行っているのは俺なのだから少しは配慮があってもいいとは思うのだが、これはわがままなことなのだろうか。少なくとも第二騎士団は俺に多少なりとも感謝していたのだが、所属する騎士団が異なるだけでこうも考えが変わるものなのだろうか。

 「——を踏まえ現時刻より討伐遠征に向かう。今回の討伐遠征は初の試みもあるため、いつも通りの遠征とは少しやりづらく感じる部分があるかもしれないが、不満があるのであれば俺に言ってほしい。以上だ。何か質問がある者はいるか?」

 そんなことを考えているとエリースは討伐遠征に向かうための挨拶を終えたタイミングだったようだ。おそらくエリースの耳にも俺への陰口は入っているのだろう。最後は俺を気遣うようなことを言ってくれた。
 やはりエリースは俺のことを息子のように気にかけてくれているようだ。

 エリースの問いかけに誰も質問をすることがなかったため、そのまま遠征に出発することとなった。
 今回の討伐遠征は事前に三週間ほどの中距離であることは聞かされていたが、その間の移動は基本的に馬車に乗って移動をする。しかし第一騎士団からはともかく、第三騎士団からの騎士からは良くは思われていない現状で馬車に乗るのは少し危難な行為と感じたため俺は魔法を使って移動することにした。
 属性を使わない魔法であれば呪文を唱える必要もないし、ひどく魔力を消費するわけでもない。魔法で飛ぶこともできなくはないのだが、風の属性魔法を使用する必要があるため今回は体を軽くする魔法を行使し、水面を跳ねるような一歩でだいたい五十メートルほど移動が可能になっている。
 これであれば馬車に乗らずとも馬車においていかれないようなスピードで行動することが出来るし、騎士団の面々と同じ馬車に乗り合わせる必要もない。さらに周囲の状況を確認しながら移動することが出来るため一石三鳥のも効果を感じている。
 周囲の状況確認といっても、魔物を観測したりしているわけではなく、ただたんに景色を見ているだけだ。実はこの世界に転生してきてからは、ほぼエリースに付きっきりにされていたため転生してからの二十一年間、転生したこの国の外に出たことがないのだ。
 外がどんな状態になっているのかが気にならなかったわけではないのだが、俺は魔法を学ぶことを優先していたため、魔法の勉強とサポート部での仕事に追われてそれどころではなかったのだ。

 外の様子は案外元いた世界とそこまで大きな違いがあるわけではなかった。
 国内もアスファルトの道路にコンクリートで作られた建物という訳では無いが、石畳でありながらも丁寧に舗装された道に、家や騎士団寮も木材であるが温かみがあり隙間風などが一切通る隙間のないほどの立派な建物だ。一部の建築物は石やレンガで作られており、中世のヨーロッパを連想させるような街並みだ。
 見慣れているわけではなかったが、違和感はほとんど感じることはなかった。
 国外の様子もそうだ。完璧に舗装こそはされていないものの何度も馬車や人が行き来するためか轍ができており、たとえ馬車に乗っていたとしても変に酔ったりすることなく快適な移動ができていたことだろう。それに変に目移りするような視界に映り込むような建造物もなく、のどかな世界がそこには広がっていた。

 俺は魔法で風を切るように移動出来ることに快感を覚えながら、先ほどまで言われていた陰口を忘れるかのように目的地へと向かった。


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 実戦は稽古とは全く違うのだと思い知った。
 稽古のときは各団長と副団長が魔物の名前を叫んでもらい、それに合わせて剣に魔物の弱点となる属性の付与を行っていたが、実戦はそうもいかない。
 全員が今から戦闘を行う魔物の名前を叫ぶわけではないため、俺が実際に目視で魔物を見てそれにあった弱点属性をその魔物と戦闘をしようとしている騎士の持っている剣に付与していくのだ。
 やっていることは単純であるとは理解しているものの、それを上回る量を俺一人で捌き切る必要があるのだ。
 該当の魔物に一番近い騎士の剣に弱点属性を付与しても後方の騎士とスイッチするタイミングであったりも、魔物と騎士の位置関係だけではなく、どの騎士が誰とスイッチのペアを組んでいることの理解や、どの騎士がどの魔物との戦闘を得意としているかの知識も必要に鳴ってくる。
 そんな様々な要因を考えながら俺は五つある各種属性を複数の騎士に同時に付与していく。
 また俺がやっていることは弱点属性の付与だけではない。この国で俺だけが唯一使用出来る武器の修理も行っているのだ。修理魔法は属性付与よりも時間がかかるため騎士がスイッチをしたタイミングを見て、交代した騎士の剣に修理魔法を施していく。

 自分で言うのも恥ずかしいが、俺は今めちゃくちゃ高度なことをやってのけている自負がある。ここまでの移動手段としても使用していた自身の体を軽くする魔法を使用し、戦場をものすごいスピードで駆け巡りながら目に入るすべての魔物と騎士にあった魔法を行使していく。

 更に俺のやることは続く。
 医療班に依頼するほどでもない魔物との戦闘で傷を負った騎士たちの簡易回復も戦場を駆け巡りながら同時に行っているのだ。そうすることで変に気を逸らされることなく騎士たちは戦いに専念出来る。

 (火スラに水スラ……水蒸気爆発でも起こすつもりか?土属性を近くの騎士に付与して衝撃を吸収しよう。同時に簡易回復も掛けて……。あっちはビックスパイダーか!毒は属性ではないが、糸と硬い爪甲には火属性で突破できるはずだ、いやスイッチか。なら前線に出た騎士に火属性を付与して、後退した騎士の剣を修理するか。)

 「ぐあああぁぁぁぁぁぁっ!」

 戦況を見ながら俺は俺に出来ることをしていたが、俺が見切れていない箇所で騎士が怪我をしたようで、耳を劈《つんざ》くような断末魔が森中に響き渡った。
 俺は瞬時に断末魔の聞こえた方へ属性付与と簡易回復と修理魔法を使いながら向かう。
 怪我をした騎士はビックスパイダーの爪甲にやられたようで、糸で身動きを封じられたところで腹部を貫通させるほどの大怪我を負わされたらしい。幸いにもペアの騎士がすぐにスイッチし、魔物に食われるようなことはなかったようだが、この状況では彼は動けそうにない。
 俺はその騎士に簡易回復を施しながら彼を担ぎ、医療班のいる戦場中央へと向かう。その間にも目に入る魔物と騎士の位置情報や弱点属性を鑑みて、属性付与や修理魔法を使う。

 「腹部に重症一名です!お願いします!」
 「助かります!こちらに!」
 「あっ、ありが……とう……」

 俺は医療班に重症の騎士を預け、また戦場を駆け巡る。
 正直魔物との戦闘がここまで過酷であるとは思っても見なかった。危険な仕事であることは理解していたし、何度も騎士団寮内で包帯を巻いている騎士や床に伏せている騎士を何人も見てきていたため覚悟はしていたが、あんな過酷な訓練を受けている騎士たちですらこうもあっさり怪我を負ってしまうことに恐怖を感じていた。

 しかしそんなことは言っていられない。
 俺は今戦場にいるのだ。
 騎士候補生のときから”死”と隣合わせであることは何度も聞かされた来たことだ。
 今更言ったところで何も変わらない。
 俺は今の俺に出来ることをやるだけだ!


■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 ここら一帯の魔物の討伐が全て完了したようで、まだ一部の騎士たちは周りの警戒をしているものの、大半の騎士は地べたに座り込んだり、木に凭《もた》れ掛かったりと体を休めることに専念しているようであった。
 俺もかなりの体力を消耗したため、体を休めるべく騎士たちとは少し離れた場所にある木に背中を預け、体力の回復に専念をする。息が今でも上がるほど疲労が溜まっているわけではないが、戦闘開始前とは服の重さが明らかに違うほどの汗は搔いているようで、次の移動の前に少しは乾かそうと一旦上着を脱ぎ、火・水・風の複合属性魔法で洗濯と乾燥を同時に行う。

 この討伐遠征のために騎士団より新たに貸与された戦闘服は防御術式が組まれた服で、エリースが動きやすさ重視にしてくれたのか他の騎士や医療班の服とは異なっており、下は黒のトレンカの上に七分丈の紺色のパンツ。上は白のTシャツに黒のオーバーサイズなマウンテンパーカーといった元いた世界で着ていても何ら問題ではない服装であった。

 この服を貸与されたとき、元いた世界過ぎないか?と疑問に思ったが最近はこの世界でもこういった服装がトレンドだそうで、鍛え抜かれた体のラインがよく見える騎士たちが着ているような紺色のワイシャツに胸筋を強調させるかのようなハーネス。足の太さがわかるジョガーパンツのようなパンツの組み合わせも、これはこれで動きやすいし、元いた世界で着ていたも変に注目されない服装であるとは思うのだが、エリースからこれがトレンドであると言われた以上はこれを着るしかない。

 ちなみにこのトレンドの服装をしているのは今回の討伐遠征で俺だけのため、俺だけ浮いているような気がする。とはいえサポート部の人間は俺だけのため、服装だけが浮いている要因ではないとは思える。
 そんなことを考えていると俺の周りにはいつの間にか騎士たちの姿で溢れかえっていた。

 「………………え?な、なんですか?」

 腕についている腕章からして、第一騎士団と第三騎士団の両方の騎士のようだ。なぜか第一騎士団の騎士たちは何か誇らしげな表情を浮かべており、逆に第三騎士団の騎士たちは打って変わって申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 「え、ほんとに何?」
 「……その本当にすみませんでした!」

 第三騎士団のうちの一人が急に謝罪を行い頭を下げたかと思えば、それに続くように他の第三騎士団の面々も頭を下げ始めた。

 「申し訳ございませんでした。」
 「俺も失礼なことを言ってすみませんでした。」
 「第三の備品修理も対応していただいている方とは知らず、すみません。」
 「さっきの属性付与のタイミング神がかってました!」
 「討伐遠征で死者ゼロはトーラスさんのおかげですよ!」

 謝罪だけではなく、お礼もちらほら聞こえてくる。
 普段から感謝の言葉を掛けてくれることはあるものの、第一騎士団以外の人間から直接声を掛けられることは本当に珍しく、それに慣れていない俺は「あ、いやいや、そんな……」と謙遜しながら早くこの会話を終わらせたくて、未だに誇らしげな表情をしている第一騎士団の騎士たちに目配せで合図を送る。
 それに気づいたのか一人の騎士が話を変えてくれた。

 「トーラスさんの魔法って洗濯とか乾燥も出来るんですか?もしよかったら俺のもやってくれないですか?遠征中は着替えがあるにはあるんですけど、毎日着替えができるほどは流石に持ってこれなくて……」
 「え!俺もお願いしたいです!いいですか?てかトーラスさんサポート部なのに意外と筋肉あるんですね!」

 俺はそこで自分が現在上半身裸であることを思い出した。
 急に恥ずかしくなり、急いで服を乾かして着込む。
 服は柔軟剤を使っているわけではないため、柔らかくふっくら仕上がっているわけでもなく、いい匂いがする訳では無いが、それでも汗臭さや変なベタつきは一切なく、この世界の服にしてはいい着心地であると思える。

 「う、うん。良いよ。じゃあ洗濯してほしいものがあれば脱いでくれる?」

 そういうと第一騎士団だけではなく、第三騎士団の騎士たちが一斉に服を脱ぎ始めた。
 そんな状況を見ていた他の騎士たちも俺に近づき、同じく洗濯してくれと懇願してきた。

 「なんだお前たち。トーラスに何でも依頼し過ぎなんじゃないか?」
 「いやいやエリース第一騎士団長も洗濯してほしくて、もう上脱いでるじゃないですか。俺たちは今日の飯の一部をトーラスさんに上げようと思ってるからいいんです!」
 「なんだと?トーラスは俺と食べるもんな?トーラスは俺の息子同然なんだから親子で食べるもんだろ。」
 「いやいや何いってんスカ。いつもトーラスさん独り占めしてるじゃないですか!子離れしてくださいよ。それにトーラスさんも俺たちと飯食いたいですよ!」
 「ナニ?言うようになったな!……それにしてもトーラス。本当に今日は助かったよ。死者も出なかったし、怪我人も過去一で少ない。属性付与のタイミングも完璧で今までで一番早い討伐だった。本当にありがとう。明日もよろしく頼むぞ。」
 「はい……!よろしくお願いします!」

 騎士たちの宣言通り今日の夕食は俺だけ豪華なものになった。洗濯のお礼や属性付与のお礼といった御礼の品としてたくさんのおかずが俺のプレートを埋め尽くそうとしていた。
 しかし俺としてもこんな量を食べ切れるわけもなく、「お礼は気持ちだけで……」と言いおかずをすべて返却することにした。
 それに騎士たちが一番動いているわけで、その分エネルギー摂取もしてもらいたいと思っていたため、断る理由ができて良かったと思っている。
 その代わりといっては何だが、騎士たちは討伐遠征中の夜間警備を代わってもらえることとなった。正直これが一番ありがたい。

 明日からの討伐遠征も忙しくなるなと感じながら、俺は目の前のご飯をかき込んだ。
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