【完結】人見先輩だけは占いたくない!

鳥居之イチ

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 「ねぇ、放課後にタロット占い見に行かない?」
 「タロット占い?あ、もしかして噂の?」
 「そう!二年の教室で放課後やってるらしいの!」
 「めっちゃいいじゃん。私も占ってもらえるかな……。」
 「ウチも占ってほしいー。」

 鮫島高等学校では現在ある噂で生徒はもちろん教師陣までもが噂する話題がある。それは授業が終わった放課後、二年のとある教室にて行われる的中率が九十五パーセントを誇るタロット占い。一日の占い数に上限はあるものの、お菓子やジュースを手数料として支払えば誰でも占ってくれるという噂だ。

 ——しかしそれは単なる噂ではない。事実である。


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 鮫島高等学校は階数に応じて学年が変わるスタイルを取り入れている。一年生が三階、二年生が二階、三年生が一階という構成だ。部活も盛んで野球部やサッカー部などの使用するエリアが広いスポーツの部活こそないが、スポーツであれば剣道部や弓道部といった道場系の部活であったり、文化系であれば美術部をはじめ将棋部や文学部といった様々な部活展開がある。
 そのため放課後ともなれば教室のある本館からはほとんどの生徒が部室のある別館へ移動したり、帰宅する生徒がほとんどだったのだが、ここ数ヶ月は放課後になると本館二階のとある教室が大賑わいとなっている。そして今まさに大賑わいの原因が始まろうとしていた。

 「タロットカードを使って『過去』『現在』『未来』を視ていきます。占いは当たるも八卦当たらぬも八卦です。そうなんだぁと思っていただくだけでもいいですし、結果を聞いてもっとこうしたほうがいいのか?なんていう考えであったり、行動に移していただいたりするものです。事前にご承知おきください。」
 「はい、大丈夫です。」

 二階の隅の教室では中央の席を向かい合わせにして僕と女子生徒が座っており、それを取り囲むように生徒や教師までもがその光景を見守っていた。
 僕の前には裏を向いたカードが並べられており、前に座っている女子生徒に確認を取ってから二十二枚のカードの内、三枚をめくる。

 「ありがとうございます。ではまず『過去』のカードから。これは太陽の逆位置ですね。気持ちが沈んでいたり、モチベーションが低かったりを表しています。そして『現在』のカードは法王の逆位置ですね。誠実じゃない何かが近づいてくるというのを表しています。」
 「誠実じゃない何か……?」

 女子生徒はめくられたカードを見つめていたが、現在のカードが示したことに何か思い当たる節があったのか顔を上げタロット占いしている僕を少し不安そうな表情で見つめた。
 僕は女子生徒の表情を特に気にすることなく淡々とカードが示した結果についての解説を始めた。

 「そうですね……。大きなカテゴリで言ってしまうと詐欺とか偽善とかでしょうか。過去のカードで太陽の逆位置が出ているので、気分が沈んでいたり、モチベーションが低かったりしていたんだと思います。なので現在はそんな負の感情に漬け込んで誰かに声を掛けられている状態ではないでしょうか?これはあくまで例ですが、例えば付き合っていた方と別れてしまい、気分が沈んでしまった。そんなところに『俺なら悲しませないよ』とかそんな感じの声を掛けて長友さんに接触しようとしている人がいる。そんな状態でしょうか。」
 「つ、続けて……。」
 「……『未来』のカードは力の正位置です。これは強い意志を持って目標へと突き進みましょうということを暗示しています。現在のカードで法王の逆位置である、誠実じゃないなにかが近づいてくるとお伝えしたと思いますが、それを判断する必要が出てきます。その判断した結果に自信を持って突き進みましょうといった感じでしょうか。いかがでしょうか?」

 それを聞いた長友は俯いてしまい、そのまま数秒間黙ってしまった。表情こそ見えないが右手で口元を覆い、左手はスカートを強く握りしめ大きなシワを作っており、それだけで動揺していることは目に見えてわかった。
 僕はそんな長友さんを見ながらめくったカードを拾い上げカードの束に三枚のタロットカードを戻していく。

 「…………てる。」
 「え?」
 「……当たってる。まさにそうなの!最近彼氏と別れてすごく落ち込んでたんだけど、それを見かねたユキがこの間他校の男子とのカラオケ会をセッティングしてくれたんだけど、そこで他校の男子に告白されたの!まだ返事はしてないんだけど……。ねぇ新島くん付き合うべきなのかな?それとも占いでは誠実じゃないなにかって出てるってことは付き合っちゃだめなのかな?」

 長友さんは顔を上げ、僕に迫る勢いで質問を投げかけてきた。それに対し僕は「それを決めるのは長友さんですよ。」と返した。それに彼女は「そうね……」といい、お礼を告げた後、袋いっぱいに入ったお菓子を手渡してきた。

 「え、いや!こんなにもらえませんよ!」
 「いいの!占ってくれたから。受け取って。」
 「そ、そういうわけには……。そうだ!もう一枚だけ引かせてください。ワンオラルクといって一枚のカードだけめくる占いです。悩みの解決のタネになるようなアドバイスくらいならできるかと思います。」

 僕がそう言うと、長友さんが席に座ってくれた。僕はホッとしつつも目の前の長友さんに「何についてのアドバイスがいいか」と尋ねる。すると被せる勢いで長友さんは「恋愛一択」と答えた。僕は軽く相槌を打つと、カードを一枚めくる。

 「……。」
 「え?ダメなカードだった?」
 「いえ、ダメというわけではありません。これは魔術師の逆位置ですね。」
 「逆位置ってことはマイナスな感じなの?」
 「そうとは限りません。まさにこの魔術師がそうですね。恋愛としての意味は信頼できる人かどうか見極めましょうといったところでしょうか。」
 「見極める?」
 「はい。今は男性の方に告白されてどうしようか悩んでいる状態でしたよね。それであればすぐに付き合うとか。付き合わないとか。すぐ決断しようとするんじゃなくて、もっと時間をかけて判断してもいいと思います。何度か食事に行くとか定期的に連絡を取ってみて食べ物の好みだったり、趣味だったり、共通点などを見つけてから徐々にその方の人となりを知りながら判断するといいと思いますよ。」

 長友さんはそれを聞いて、何度も頷きながら「そうよね。まだ判断するのは早いわよね。」と自分に言い聞かせるように呟きながら突然立ち上がり、僕に占いのお礼を再度告げると勢いよく教室を飛び出していった。
 それを僕含め、周りで見守っていた教師や他の生徒たちはその姿を目で追う。長友さんの姿が見えなくなると一人の生徒が拍手をし始めた。それを境に拍手は伝染していき、教室にいる僕以外の人間が拍手を始めた。拍手の合間に「今日もすごかった!」「私も占ってほしいぃ」などの声が聞こえた。

 「よし、じゃあ今日の占いはここでおしまいかな。そろそろ暗くなるからお前らも早く帰れよ!俺は職員室でもう少し仕事片してからもう一度この教室くるから、それまでには帰ってるように。」

 僕のクラスの担任である澤村先生はそれだけ伝え、教室を後にした。澤村先生は僕の占いをするときの監督役を務めてもらっている。何かあったときのためのボディガードのような頼れる先生だ。そして占いの対価としてお菓子やジュースを提案してくれたのも澤村先生だ。
 一年のときに成り行きで入った占い研究部で初めて占いというものに触れ、そこからドハマりしたのだが三年の先輩が卒業してしまったこと二年生の部員のいない占い研究部は部員が僕だけになり、部から同好会へと形を変えてしまった。そんなときに声を掛けてくれたのが、占い研究部のときから顧問を務めてもらっていた澤村先生だ。それは至って簡単なモノで他の生徒を占ってみてはどうか?という内容だ。最初は澤村先生を対象とした公開占いをクラスで実施し、それが功を奏したのか占いの噂はクラス中だけではなく、学年全体そして学校全体へと広がっていった。
 思春期真っ只中の高校生にとって恋愛とは切っても切り離せない存在であり、その恋愛の行く末を視てくれるという僕の占いは結果として、大きな賑わいをみせた。毎日五件以上の占いを約半年以上続けてもその人気が衰えないほどだ。正直ここまで大きなことになるとは考えていなかった。成り行きで入った占い研究部で初めてタロットカードというものに触れ、そこからのめり込むようにハマってしまた占い。こんなにも自分自身が熱中するものがあるなんて思ってもみなかった。
 僕はそんなことを考えながら、帰路に付くために帰る準備をし、教室を後にした。


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 よく勘違いされることなのだが、タロット占いをしていると占いを信じきっていると良く思われる。いわゆるスピリチュアルと言うやつだ。正直な話、僕個人としては占いを百パーセント信じているわけではない。僕が占いをするときに最初に伝えている「占いは当たるも八卦当たらぬも八卦」という言葉。まさにこれだと考えている。占いが当たるときもあれば外れることもある。占いはあくまでアドバイス程度の認識だ。
 しかし占いは百パーセントだと思っている人間もいる。それ自体は個人の自由なので特に気にしてはいないのだが、問題になるケースがある。それが澤村先生が僕のボディガードを務めている理由でもある。
 僕は過去に占いの最中にとある生徒に暴行を受けたことがある。暴行といっても殴られたり蹴られたりしたわけではなく、マイナスな面が多く出てしまったことに対して、感情を抑えられず、スクールバッグの中から全てのモノを投げつけられた程度だ。それが教科書やノートだけなら大したことはなかったのだが、ペンケースの中身をも投げつけてきたのだ。ペンケースの中にはハサミやカッターも入っており、その刃が頬を掠め、少しではあるが流血をしてしまった。
 そんな事件は一度だけではない。記憶に残っているだけで五回はあっただろう。そんな状況から占いの言い出しっぺである澤村先生が償いというわけではないが、僕のボディガード役を買って出てくれたのである。澤村先生がボディーガードを務めてくれてからというもの流血するような事態には現在陥っていない。ただその場で泣きじゃくったり、占い中に耐え切れなくなり教室を後にする生徒もいる。
 つまり僕のことを嫌っていたり、憎んでいたりする生徒は少なからずいるということだ。しかし僕はそのことを忘れていたのかもしれない。ここ最近は澤村先生のおかげで自身に危害を加えられることがなかったからだ。
 教室を出て靴箱を通り、校門を潜った僕はいつも通りの道を通って家へと向かう。近道である裏路地に入ったところで僕は思い出した。

 今僕の目の前にいる男の目は、僕を憎んでいる人の目だということを。
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