枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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枕営業? ウソだろ?

なにこれ、聞いてないよ!

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 俺は今、権藤さんの鋼鉄のような体に組み敷かれている。
「ぐ、ぐぇ……」
 苦しい……俺の役はまた殺られる役なのか?

「権藤さん、とりあえず台本を……」
  権藤さんの下では小学生並の小ささしかない俺。もぞもぞと体を動かして呼吸ができる隙間を探した。

「必要ない。読んだんだろう。その上で来たんじゃないのか? いまさら怖気づいたか」
 顔を上げ、俺を見下ろしながら権藤さんが凄む。これはコワイ。かなりキョワイ。

 怒らせてしまったかと思うと、体がプルプルと震え出した。でも、権藤さんは意外にも柔らかく頬を緩めた。
 あれ? 怒ってないみたい? 良かっ……
「初めてか」
 思考が終わる前に権藤さんが問いかけた。

「は、はいっ。きちんとしたのは……すいません」
 台本ホン読みのことだよな?
 役名がつくのは初めてだから、正式な台本読み合わせはしたことがない。頼りないと思われたかも……恐る恐る顔を見上げると、権藤さんはいたく満足げに頷いている。
「大丈夫だ。一から全て任せろ。優しくしてやる」

「は、はい。お願いします……ひゃうっ」
 脈絡もなく、突然権藤さんが俺のバスローブの紐をほどき、ごつい手のひらを平らな胸に這わせた。驚きで変な声が漏れる。

「いい声だ。もっと聞きたい」

 ほえっ? ちょ、ちょ、ちょ……! いったいなにが起こってるんだ?

 権藤さんの手のひらは胸を回し撫で、腹に下り、そして太ももを辿った。

「ひゃっ……」
 普段どころか通常、人に触らせることがない場所を、男の分厚い手のひらで撫で回され反応を凝視されている。  
 得体のしれない気持ち悪さに寒気がして、俺は身をよじらせた。

「感じているのか、かわいいな」

 感っ……!? いやいやいやいや違いますから……必死に首を振っているのに、涙目になって震える姿が権藤さんの悦に入ったらしい。

「そんなに目を潤ませて。煽るのが上手いな」
 権藤さんの手が俺のボクサーパンツにかかった。

「……!」
 抵抗しようにも巨体にのしかかられ、両手首を鋼のような片手で固定されている。優しい言葉の裏で俺を服従下に置こうとしているのがわかり、言葉が喉の奥に詰まった。

 ───待って。これっていわゆる枕営……あーーーー! パンツぅーーーー!

 考えているあいだに、するり、と手際良くパンツが下ろされ、脚から一気に引き抜かれた。

「ご、ご、ご、ごんどさん……」
 やっと出た声はヘビに睨まれたカエルの如く、ひしゃげて情けない。

「初めて会った時もそんな声を出していた。チンピラBの役だったな。震えた声がとても良かった。そして死体になる前のあの涙の表情……あれを見た時、悠理の芸も体も俺が開発してやらねばならないという使命感が生まれたんだ」
 権藤さんは瞼を閉じて、感慨深げに俺の頬を片手で包んだ。

 いやァァァ。待って待って。使命感ってなに? しかも芸だけでなく体の開発? 俺の演技が大御所の性欲まで掘り起こしちゃったってこと!?

「今回、ヤクザの兄貴の俺を慕う弟分と情を交わすシーンがあると聞いて、すぐに悠理を推薦したんだ。受けてくれて嬉しいよ。悠理も同じ気持ちだったんだな」

 違います、違いますから! しかも情ってじゃないでしょ!? どうやったらそんな結論に結びつくの!? 権藤さん、思考ヤバイって。とにかくこれはまずい……逃げなきゃ……!

 俺は必死で体を揺すった。

「安心しろ。この仕事が上手くいけば悠里と菊川事務所の今後は全て俺が保証してやる」
 だが、上手くいかなかったら──

 最後まで言わなかったけど、権藤さんの目はそう言った気がした。同時に、社長の顔が頭に浮かぶ。

『いいか悠理。絶対に逃げるんじゃないぞ。これがポシャったらお前は、いや、この事務所はもう終わりだ』

 ああ社長、そういうことか。全部知ってて……だからあんな、浮かない顔をしていたのか。 

 社長は悩んだに違いない。でも結局は社長も欲と芸能界の圧力に逆らえなかったんだ。説明はしてくれようとしたのかもしれないけど、断らなかったのなら結局一緒だ。

 ……これが芸能界か。男色が多いのは知っていたけど、まさか自分がこんな場面に遭遇するなんて。……それでも、俺は芸能界で生きていきたい。そして、裏切られても、俺を世話してくれた社長に恩返しをしたい。社長に恨みごとを言うのはそのあとだ……!

 全身の力を抜き、権藤さんの背中に腕を回す。

  ──もう、決意するしか道はない。  
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