枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

文字の大きさ
3 / 149
枕営業? ウソだろ?

やっぱり無理

しおりを挟む
 
 俺が逆らわないことがわかったのか、権藤さんは手首を固定する手をはずした。
 代わりに、その手は再び俺の胸を撫で、もう一方の手は太もものあいだに分け入っていく。
 
 ……気持ち悪い……。
 童貞、しかも理由わけあり不感症の俺には恐怖と不快でしかない。

 耐えろ、俺。これは芸能界でのし上がるための試練なんだ。

「なんだ、反応しないな。後ろはどうだ」
 権藤さんは上半身を俺の体から離し、サイドテーブルからローションを取り出した。

  後ろ……? 後ろって、まさか……!?

「! はぅッ……」 
 無理やり開かれた太ももの最奥にローションが垂らされ、冷たさに体がびくん、と跳ねる。

 権藤さんが薄い唇を釣り上げ、指にもローションを塗りたくるのを見て、一気に血の気が引いていく。

 そして、その指は巨大隕石のように俺に向かって…………!
「~~~~やっぱり無理ーーーー!!」
 俺の叫び声と「ゴンッ」という音は同時だった。

 我にかえると、権藤さんが股間を押さえて震えている。
 
 ──ス、スマッシュヒットぉ……。

「ゆ、りぃ……」
 権藤さんの呻き声が地を割く地響きに聞こえた。

 ヒイイィィ。やっちゃったよ。

 権藤さんの目は演技の時以上の凄みだ。
 俺は背中にひっかかっていただけのバスローブを腹側に寄せ、腰紐を掴んでベッドから飛び降りた。

「待て、ゆ……り……」
  震えながらに股間を押さえたまま、権藤さんも動く。

  待ってられるか。逃げても待ってもヤバいなら俺は逃げる!



  部屋を飛び出したのはいいけど、すぐに廊下の先からマネージャーと体格のいい男が向かって来た。

  捕まってたまるか!

  ダンスで鍛えた敏捷性……があるかは知らないけど、小刻みに動いて、俺を捕らえようとする腕をかいくぐって走り抜けた。
 ラッキーにもエレベーターがすぐに開き、中にいた一人が降りる。俺の姿にギョッとするのを尻目に、エレベーターに乗り込みドアを閉じた。

 一階に着くまでのあいだにバスローブをできる限り整える。エレベーターが開けば警備員が待ち構えているだろう。

 大きく息を吸う。
 さっきみたいに上手くかいくぐるんだ。とにかく逃げろ!



  エレベーターのドアが開いた途端、案の定、ニ人の警備員が仁王立ちになっていた。 

 ダンスの要領で腰を落とし、片手をついて、揃えた両足をグルンと回す。
「わ、わわわっ」
  動きに意表を突かれた警備員は、オタオタと足をバタつかせた。

 その隙をくぐり、出入口の自動ドアへと駆ける。受け付けに座っている女の子やロビーを歩くスーツの男、端役で見たことがある気がするタレントが歩いてはいたけど、皆、何事かと目を見開いているだけだ。

  大丈夫、逃げられる。

 俺はバスローブがはだけないようにだけ気を使い、外に出た。
 アスファルトに転がっている小さなゴミや石が素足に吸い付いて気持ち悪い。 服も、靴も、スマートフォンもなにもかも置いてきた。助けを呼ぶ連絡もできなければタクシーに乗る金もない。まさに体ひとつで必死に走った。

  けれど、警備員は後ろからずんずん追ってくる。俺よりずっと年を食ってるくせに意外と足が早い。このままじゃ追いつかれてしまう。

「戻れ!」
 警備員の声が背中のすぐ後ろで聞こえた。

 そう言われて戻る馬鹿はいないでしょ?
  でも、このままじゃいずれは捕まる。どこにも逃げ場なんかないんだから──いや、あった。

 綺麗に整備された道路の下の川を横目で見る。
 このくらい高さの手すりなら乗り越えられる。川の深さはあるだろうけど、時々酔っ払った学生やサラリーマンがおめでたいニュースのあとに飛び込んだりもする川だ。泳ぎはそこそこ得意だし、なんとか逃げ切ることができるかもしれない。

  俺は欄干に手をかけ、勢いをつけてその上に乗り上げた。川を見下ろすと、思ったよりも高さがあって足が震えた。口の中には唾が溢れ出す  。

 こりゃシラフで飛び込むのはキツイな……でも……。

  振り向けば、魔物に操られたヘビみたいに俺に絡もうと伸びて来る警備員の四本の手。

  ──構ってられない。

  覚悟を決めて目を閉じ、十一月の冷たいであろう川へと身を投じた。


  ゴボゴボゴボ……濁った水泡音が鼓膜をなぶる。


 体勢を取って飛び込んだつもりが、バスローブが水分を吸収して重くなり、水中に引きずられていく。
 なにより水が冷たくて、体は一瞬で固まった。藻掻くこともできずに、口や鼻に水が侵入する。

 どうしよう。このままじゃ明日にはニュースで「若手俳優、パフォーマンスで川に飛び込み死亡」とか「若手俳優、仕事依頼がないことを苦に身投げか」とか、真実は隠されて馬鹿みたいな死にかたで放送される。いや、若手俳優とか言われたらいいほう……「俳優志望の無職の少年」とかが関の山か……ギリ未成年だし。

  がーーーーっ! 死ねない、死にたくない。俺は芸能界でナンバーワンを取るんだ。こんなところで死んでたまるか……!


 だけど息がもう続かない。
 肺や気管が圧迫される。
 苦しい。
 悔しい。
 苦しい。

  …… ああ、ほんと、あっけない人生だったな……。
しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

処理中です...