枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

文字の大きさ
36 / 149
陰間道中膝栗毛!?

揚屋差紙

しおりを挟む
 女将と旦那が俺を前にニタニタと笑っている。

  「百合、評判は上々だよ。見てごらん、この揚屋差紙申し込み書。この中から一番の上客をつけてやろうねぇ」

 
 初見世の夜から一週間。多くの客が引手茶屋に押し寄せ、俺を買う為の差紙を置いていくらしい。中には冷やかしもいるけど、ほとんどは大金を支払う意思のある、身元の確かな客のようだった。

  これは盛られ過ぎたせいだろうなぁ。勿論、俺だって努力はしてるけど、現代で全く需要のなかった俺が、たった一度舞台に上がっただけでこんなに売れるわけがない。

  あの日の俺の出来が良かったこと……ビギナーズラックとも言える……に、女将と旦那の手腕。 なにより最初から湯島花街の話題に上がっている、保科様のお引き立て。
「保科の若様が預け先を華屋に決めて、自ら世話をした」ってだけで十倍は盛れる。
  これで本当に大丈夫なのかな……。実際にしとね仕事をした途端「はい終了~」とかありそうで。


  「実はな、お菊……」
 重なった差紙を前にして珍しく黙りこくっていた旦那が、意を決したように、女将に耳打ちを始めた。

  「……なんだって? そりゃ本当かい?」
  「ああ、先日参拝の際にな。でも増大寺様は牡丹のお得意だろう? 返事は濁して来たんだが……」

  増大寺? 牡丹さん? 聞こえにくい。なんの話?

  「まあ、ふたつ返事とはいかないね……」
 女将は腕組みをして唸った。が、ものの三分も経たないうちに、悪事を企てるような笑みをして俺を見た。

  「よし、百合決まったよ。あんたの初旦那さいしょのきゃく

 え? どういうこと?

  「最近、牡丹も固定客に胡座をかいてたところだ。ここでいっちょ百合に増大寺の客を回して競わせようじゃないか。互いに切磋琢磨するだろ……いいね、アンタ」

 言われた旦那は最初、呆気に取られていたけど、しまいには似たような悪党面で「名案だな、さすがお菊」と口角を上げた。

  「それは……もしかしなくても、牡丹さんの馴染みの客……お客さんを俺……わっちにつけるってことですか?」
  舞台外ではイマイチ慣れきらない女形言葉で問う。

 女将はもう、顔の筋肉全部を使って笑っていた。
  「その通りだよ。しっかりやるんだよ。華を目指すなら下克上のつもりでやんな!」

  「マジかよ……やばいって……」
 目の前がクラクラしてきた。牡丹さんはこの華屋の陰間の中で、唯一俺に優しくしてくれる人だ。そんな人の馴染みから客を取るなんて……「盗る」みたいじゃないか。
 頼むよ、これ以上俺の立場を悪くするのは辞めてくれ…………!



  ***


  「聞いたよ、百合。増大寺様からお客さんを取るそうだねぇ」

 稽古から華屋に帰ったあと、褥仕事前の休憩時間に牡丹さんの部屋に呼ばれている俺。目の前には美味そうな饅頭が置かれているけど、いつものように手は出せない。

  「いえ、あの、私の希望では……」
 体ガチガチ、心臓ブルブル。牡丹さんの目を見るのも怖い。

 牡丹さんも楓と同じく、現代でも美形と謳われるであろうくっきりとした目鼻立ちをしている。ただ、どちらかと言うと一見冷たい印象を与えるタイプの美形だけあって、時に睨まれてる? と感じることがあるのだ。

 実際、優しい人だけど……心のどこかでは、成り上がりみたいな俺に非難の気持ちがあってもおかしくない。どの陰間だってそうなんだから。でも、それを表に出すことはなく、努めて優しくしてくれる唯一の人なんだ。嫌われたくない。

  「ふふ。わかってるよ。そんなに怯えなくても良いんだよ。きっと気にしてるだろうと思ったからこうして話をしてるのさ」

  「え……」

  「そりゃあね、女将さんから聞いた時は流石に驚いたけど、私も華になってからはお寺の皆様のお相手が回らなくて、申しわけが立たなかったんだよ。そう思うと、こうして百合が増大寺様を少しでも手伝ってくれたら、益々お得意様として繋がりが濃くなるんじゃないかと思ってね。同じ得意先を持つというのは、お前とも兄弟の契を交わすようなものだし嬉しいよ。さ、お食べ。」
 牡丹さんはいつもの福の神みたいな柔らかな物腰で饅頭を手に乗せてくれた。

  優しさと饅頭の甘さが身に染みる~。なんていい人なんだぁ。
  「すいません。そう言って頂けると気が楽になりました。俺……私、頑張ります! むぐっ」

  「ふふふ。百合は素直で可愛いね。ほらほら。むせてるじゃないか。お茶をお飲み」

  「んむっ……すいませ……」
  ん?

 喉元を叩きながら牡丹さんの顔を見上げると、牡丹さんが至近距離に来ている。そして、顔がさらに近づき……唇が重なった。

 ゴクン。

 大きい嚥下音と共に、牡丹さんの口内から注がれたお茶と引っかかった饅頭が、俺の喉を通り過ぎる。

  「……? あの……?」

 俺の肩を掴む手に、ぎゅっ、と力が入った。
  「本当に……百合は可愛いね」
 そう言うと、牡丹さんは俺の口の端に付いていたらしい餡子をペロリと舐め取り、続けて言う。
  「教えてあげるよ。増大寺さんへの御奉仕の手順」

 え?
 「! ……んンッ……!」

 再び牡丹さんの唇が重なり、強く押しつけられる。そして、舌が俺の歯列を割った。

しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

処理中です...