枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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陰間道中膝栗毛!?

咲華 牡丹 壱 ❁

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  牡丹さんの舌が俺の中に入っている。

 なに? どうなってるんだ。俺、どうして牡丹さんにキスされてるんだ? 奉仕の手順って……。

 牡丹さんは俺の頭と首を固定し、息をする隙さえ与えない。女形だけど、やっぱり男なんだと実感するような強い力だ。

  「ん……んっ……」
 舌は滑らかに滑り、生き物のように俺の中を這い回った。
 俺より頭が高い位置にある牡丹さんの唾液が、口の中いっぱいに降りてくる。牡丹さんはそれを溢れさせないよう、片手で俺の顎を固定して唇を塞いでいて、熱が逃げ場なく喉の奥に流れていく。

 ……苦しい。鼻から息はしていても窒息しそう。苦しくて頭の中がぼうっとしてくる。

  「百合、お利口。ほら、舌を出して」
  「ふ……は……」
 手懐けられた犬みたいに、言われた通りに舌が出てしまう。絡め取られ、滑るように舐められ、優しく甘噛みされると、体がふわふわと浮くような感覚に陥った。

  「ん……ふぅ……」
 もうわけがわからない。なんでこんなんになってるんだっけ……。

  どれくらいそうされていたんだろう。ようやく俺を固定する力が緩み、牡丹さんの首元に顔を置かせてもらえた。牡丹さんは優しく俺のうなじを撫で始める。

  「感じやすいんだね、百合。いけない子だ」

  「だって……牡丹さん、上手すぎ……」

  「ふふっ。仕事ではお前がお客にするんだよ。お客さんはこうされると骨抜きになるからね」

 おっしゃる通り。こんなキスをされたらお客は夢中になるよ。情けなくとも俺、意識喪失しかけたもん。陰間の技術って凄い……いや、牡丹さんが凄いのか。前に見た「褥仕事」も凄かったもんなぁ。

  「百合、こちらから仕掛けて、お客にはなるべく無茶させないように上手く誘導するんだよ。増大寺さんにも色々なクセの方がおられるからね。お前みたいに感じやすいとすぐに潰されてしまうよ。私らはお客より先に達してはいけないし、あくまでも理性を失ってはいけないからね」

  「はい……」
 権さんにも言われたことだ。

 陰間の褥仕事も「舞台」と同じだと。お客に気持ちよく帰って頂くための褥であり、自己満足になってはいけないのだと。

 わかっているし、保科様とした以上に気持ちいいことなんかないだろうから、そうそうは潰れるはずない、なんて思ってたけど、流石に牡丹さんはプロだ。めちゃくちゃ気持ち良かった……。
 
  「さて、そろそろ時間だ。今日は私の座敷に入るんだったね。しっかり頼むよ」
 牡丹さんの体が離れると、牡丹さん付きの金剛がタイミング良く顔を出し、準備を手伝い始めた。


  ***


 部屋に戻った俺も、権さんに手伝われて準備を終える。
  「なんか今日の着物いつもより豪華じゃない?」  

  「ああ、おめぇの旦那も見えるからな」

  「えっ、早速?」

  「そりゃ女将としては一刻も早く儲けたいだろうしな。これを皮切りに差紙出してる客からイイのをバンバン付けて行きてぇんだろ」
 
  「はぁ、そう……」

 イイの=金持ち、だ。
 それにしても、いったい何人の客と褥を交わすことになるんだ……。俺の体、持つのかなぁ。



 陰間も客を取る手順は遊女とほぼ同じだ。
 若草は大抵一回目の申し込みをしてすぐに褥を買える。小花はランクにより変わり、交渉が必要な場合もある。

 華になると吉原の花魁と似た形式を取る。
  初回は「初会」と呼ばれ、華は一段高い場所に鎮座して客を品定めする。

 この時、客と触れ合うことはもちろん、会話を交わすこともない。そして、華のお眼鏡に叶えば、客に二回目の逢瀬の機会が与えられる。

 その二回目は「裏返し」と言われ、初会と同じく、華は上座から客の遊びかたを観察し、納得すれば上座を降りて客の席に近づき、初めて会話を許す。しかし、初会同様に体に触れるのは指一本でもお断り。また、ここまでで客を気に入らなければ、華自ら袖にすることわることもできるのだ。

 そうして、三回目の逢瀬を許せばようやく「馴染み」として認定し「夫婦固めの盃」を交したのち、褥を共にする。
 その三回全てに座敷や食事の料金、さらには褥の料金が発生するのだから、多大な揚げ代しはらいが必要と言うことになる。

 それを出せる客ってそんなにいるのかと思うけど、どの時代にもどの世界にもいるんだよなぁ……。

 ちなみに俺は今回、小花のナンバーワンとして華の略式で水揚げする客デビュー相手と対面することになっている。褥を共にするのは華と同じく三回目。ただし初会のうちに夫婦盃を交して契約をとってしまえと言われている。
  華と同じのようで、小花の俺には華みたいな拒否権はないのだ。

  「はあ……やるしかないね」

  「おっ、殊勝だな。前の百合なら泣きを言ったもんだが」

  「流石にここまで来たらね。頑張るよ」

  「おぅ。褥の時だって安心していいぞ。襖の後ろには俺が付いてるからなァ」
 権さんがニカッと笑った。

 そうそう、そうなんだよ。
 褥仕事の時、金剛は契約時間の管理と守り番で廊下に控えている。なにか危険あれば褥を中断して陰間を守る為、と言うのが名目だけど、実際は陰間が仕事を全うしているかの監視が主のようだし、褥仕事の中身を駄目出ししてくる時もあるそうで……しかもそれだけじゃない。若草や小花の下なんかは、薄い襖続きの部屋の中、ついたて一枚で仕切られただけの場所で褥をやるのだ。
 つまり個室をもらえる華や上客が当たって個室に入る場合以外は、金剛だけでなく陰間同士でも互いの褥仕事が丸見えの筒抜けってこと。
 
 安心と言えば安心だけど、恥ずかし過ぎる。だから「陰間は褥で感じるな」が、容易なように思えてくるし、客もそれで本当に褥に没頭できるのかと疑問だ。
 江戸時代花街事情、摩訶不思議。


  「ま、頼りにしてますよ」
 深呼吸代わりのため息をひとつ。
 そして俺も、皷を掴んで座敷へ入った。



*独自にアレンジしていますので、実際に花魁や傾城を買う手順とは異なります
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