枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

文字の大きさ
46 / 149
陰間道中膝栗毛!?

水揚げ 弍

しおりを挟む
 廊下から「キシ、キシ」と、板を踏む足音が近付き、権さんが襖を静かに開けると、隆晃様の足先が見えた。

 俺は頭を下げたまま「お帰りなさいませ」と教えられた通りに言って、更に頭を低くした。

  「百合、会いたかったよ。さ、おもてを上げて愛しい顔を見せておくれ」
 隆晃様がかがみ、俺の頬を両手で挟んで持ち上げる。頬を染め、瞳を揺らすその表情は初めて恋を知った高校生のようだ。

 そうなんだよな、可愛いんだよなこの人。初心どうていだって言ってたしなぁ。
 えーと、とりあえずスマイル。隆晃様の手に手を重ねて……にこっ。

 どうだ!

  「ああ、なんと愛おしいのだろう」
 途端に隆晃様が俺を抱きしめ、腕にギュムッと力が込められる。

 ぐえっ。く、苦しい。 とりあえず落ち着け、坊主!
  「隆晃様、まずは中の方へ。ここではお身体が冷えます」

  「これは済まない。そなたも冷えてしまうな。つい気持ちが早ってしまった。このような男は嫌われるから余裕を持てと言われて来たのに情けない……」
 隆晃様は申しわけなさそうに俺を立たせて、火鉢の前へと移動した。

 そう。 陰間茶屋でも遊廓でも、性急な客は嫌われる。江戸っ子なら余裕の振る舞いを見せるのが粋ってもの。
 若草や小花の一切り二時間コースでは、華のような三回の逢瀬が無く、時間をかけて客の品定めができない為、おとこの余裕を特に重視している。
  
 しばらくのあいだは他愛もない会話で時間を楽しみ、打ち解ければ少しのスキンシップを許す。基本的には小花や若草に初回の褥の拒否権はないけれど、この時間の良し悪しでサービスの質を低くしたり、二回目を断ることはできる。だからわかっている客は紳士的に振る舞う。

 反面、陰間にとっては手練手管の力量の見せどころだ。この時間を長く取って、いかにほんばんの時間を短くするか──陰間は褥に入ればどんな無茶な要望にも答えなきゃならない。一夜に何人もの客を回す時もある──まさに客との駆け引き。

 焦らし、焦らされる分、また、客の位が高ければ高くなるほど、充実した時間を求められ、陰間の質が問われることになる。
 美貌、知性、教養、品の良さ。これが全て揃ってこそ一流。それを認められたのが吉原の花魁であり、華屋で言えば「大華」だ。

 つまり楓は華屋の、いや、この湯島花街の数ある陰間茶屋の中でも一番の陰間と謳わる最高級の存在だと言うこと。
 実際、楓が持っている特有の空気は他人を圧倒する。カリスマ性ってやつなんだろうな……高校中退で、躾もまともに受けていない俺が、どこまで近づけるのだろう。

  「百合、触れても良いか?」
 「は、はいっ」

 しまった。大事な初褥仕事だというのに上の空になってしまうとは。しっかりお相手しなきゃ!

 隆晃様は正座のままソワソワと指を動かしたりと、落ち着かない様子だ。隠そうにも隠しきれないその気持ち、わからないではない。

 俺は、シナを作って微笑み、隆晃様に寄りかかってお声に応じた。隆晃様は真っ赤な顔をして俺の肩に手を回し、手を握る。

 さて、ここからどうするか。略式だったとは言え、隆晃様には裏まで返してもらったから、あまり焦らさず早めに褥に流れるようにと権さんにも言われている。
 隆晃様のこの様子だとしばらくスキンシップをしたあとに素股で対応できるかな……と言うか、そうしたい。

 よし。仕掛けるか。まずは軽くしごいて達してもらい、二度目は素股で達してもらえば、今日は満足してくれるだろう。
 ごめんね。隆晃様。ワルい陰間で。でもこれも「駆け引き」だからね!

 それでは、陰間初褥の定型句を。
  「隆晃様。こうして隆晃様と初夜を迎えられること、一生忘れ得ぬ嬉しいことに存じます。どうぞ優しく……」

 ぐえっ。ニ回目のぐえっ。
 隆晃様は衝動を抑えられない様子で俺を羽交い締めにし、ズルズルと布団へ引きずった。
 そのまま膝を折り、上半身は半ば倒れるように俺に覆い被る。

  「百合、百合、どんなに恋しかったことか」
 うわ言のように繰り返し、緋襦袢を剥いでいく隆晃様。けれど俺の体があらわになると、その手が止まり、表情が固まった。

  ん? 膨らみのない胸と下に付いてるブラりんこを見て幻滅でもした? だぁよね~。見た目は女にしてても中身は男。江戸時代とはいえ、最初の相手が男って、やっぱりないと思うんだよ。

 けど、どうする? これで契約が切れたら俺の評判が下がるのは必至……いたしかたない。ささっと手でやっちゃって、とりあえず悦くなってもらうしか……。

  「……すまない、出てしまった……」

 はん?

 隆晃様が泣きそうな顔で自分の股間を押さえている。

 え、まさか。

  「百合の美しい裸体を見ただけで堪らない気持ちになり、私の性が仏の情けを超えて独りでに……」
 
 ちょっと言葉が良くわかんないけど、体を見ただけて射精したってこと? ……ホントに!? どこまで初心うぶなんだ。
 ……………………ラッキー!

 嬉々として体を起こし、権さんが枕元に用意していてくれた縮緬和紙ティッシュを取り、隆晃様の下帯の脇から手を差し込む。優しく、優しく丁寧に、隆晃様の太ももを濡らした跡を拭き取ってやった。

  「隆晃様。嬉しゅうございます。それだけ私に恋がれて下さっているのですね」
 頬へのキスも忘れない。わざと「ちゅ」と音を立てる。
 それから、股に当たる部分だけが濡れてしまった浴衣と下帯を外してやり、お互いの素肌がしっかりと触れるように抱きしめながら、今度は俺が褥の中へと誘った。

  「放たれるとお疲れになるでしょう? 今宵はこうして互いの温もりを楽しみましょう」
  「百合……情けないと思わないでくれ。次回は必ずや」
  「とんでもございません、百合は幸せ者にございます」
 もういっそ毎回これでお願い申し上げます。そしたら俺、チョー幸せになれますわよ!

  「コホン」……襖の向こうからと小さな咳払いが聞こえた。
 襖の向こうには権さんが用心棒の役割も兼ねて備えている。
 権さん、隆晃様の初心さと俺の考えに気づいて笑いそうになったな?

  「百合、お前は本当に私の理想の人だ。私は幼い頃から多くの女きょうだいに囲まれ女子衆おなごが恐くなった。だから女人禁制の寺に入門したのだが、間違いではなかった。そなたに巡り会うためだったのだな」
 隆晃様は外にいる権さんにはお構い無しに、クサイ台詞を紡いでいく。

 う・わー、大丈夫かな、この人。随分思い込みが激しそうだ。

 でもそれは顔に出せない。
  「嬉しゅうございます。隆晃様のお心、どうかそのまま私に」

 ちゅっ。唇の端にキス。

 ちゅうう。首筋にも。

  「百合……!」
 隆晃様も俺の首筋に吸いついた。そして、手のひらと唇を身体に滑らせる。その触り方さえ辿々しくて、くすぐったさに身がよじれそう。
 俺はもう、笑わないようにだけ気をつけて、隆晃様の好きなように触らせてやった。いわゆる「マグロ状態」だ。

  「ああ、またこれだけで……」
 隆晃様のものが再び硬い茎になり、触らずとも中心から精が爆す。
 そんなことを眠るまでに二回。

 若いからっていうか、童貞だからっていうか、立ち上がりも早いけど達するのも早い。

 ……女将さん、ほんっと(俺にとっての)上客をありがとう。
    
しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

処理中です...