枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎

Love so sweet 1

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  濃青のSUV車に乗せられて着いた場所は、一種どこかの会館なのではと見紛う外観をしていた。
  周りを囲む高い壁といクスノキ、モミジやサツキなどの植栽。そしていくつかのセキュリティカメラが二棟に別れた三階建ての建物を守っている。

  居なれない場所にキョロキョロするしかできない悠理は仔猫のようで、隣を歩く男はそれを愛しげに眺めていた。

   「こっちだよ。おいで」
  エレベーターを降りると、男は自然な動作で肩を寄せ、一番奥の部屋の前まで悠理を誘導する。

  扉を開けるとすぐに開放的で明るい空間が目に飛び込み、とてもマンションとは思えない間取りに、悠理は再びキョロキョロと目だけを動かした。

  「どうぞ」
  出されたスリッパまでもが高級品に見えて、三足千百円の靴下の足を入れても良いのかと一瞬躊躇する。

  「あの……保科様……江戸まえの家も凄かったけど、ここ……俺、ホントに入っていいんですか?」

  「ふ。本当も嘘もないだろ。俺にはここにしか家はないから入ってもらえないならホテルにでも行くしか」
 「ホッ、ホテル!?」

  男の言葉を遮った悠理の頭の中には安っぽいラブホテルが浮かび、そこにはあられもない姿で抱き合う自分達。

  「……いま、ヤラシイこと、考えた?」
  不意に体が接近し、耳の中へ囁かれてビクッと肩が揺れる。

  「ち、違います!」
  悠理は顔を真っ赤にして嘘をついた。
  途端に男が吹き出し、ごめんごめん、と言いながら背を撫でる。

  「~~保科様、なんか性格が違う~」
  ソファーに促されながら、悠理は面映い気持ちで彼を見上げた。

  「そうかな。……そうかもね。もう「保科様」じゃないし」

  容姿だけでなく、話し方もすっかり現代人だ。だが、悠理には話し方よりもその言葉の意味の方が重要に思えた。

  江戸で離れ離れになる前、彼は言ったのだ。
「保科の名を捨てる」と。それは悠理の為に全てを捨てるのだという意味だった。


  「今はね、彬って言うんだ。篠宮彬しのみやあきら。それが現代いまの俺の名前」
  指で宙に字を書いて「彬」の字体を示す。


  「篠宮……彬さん」
  忠彬の「彬」がついているのは巡り合わせのようなものか。

  炭酸の入ったミネラルウォーターのグラスを差し出され、悠理の思考は中断される。

  彬は悠理の隣に腰掛け、手のひらで頬に触れた。
  「もう、ただの「彬」だ」

  その言葉に喉が詰まり、悠理の目に涙が溢れる。
  フラワーアップの通路で彬を見つけた時もそうだった。



   つい一時間ほど前、追い求める人の声に悠理の体は硬直した。最後に会った時よりも幾ばくか若くはあったけれど、顔がはっきり見えた途端、間違いないと確信して涙が溢れた。

  彬は涙は流さないまでも、初めて出会った日の姿そのままの悠理を見て、一瞬声を失った。

  だが、実は────
  彬はその瞬間まで江戸の記憶は持っていなかった。


  なぜ忘れていたんだろう、と思う。前世で全てを失ってでも共に生きたいと願った相手を。
  今だって、本当は狂おしいほどの愛情をぶつけ、心も体も自分だけで埋め尽くしたいほどに悠理を求めている。

  「……ああ、だからかな。もし記憶を持ったまま今日まで生きていたら、きっと狂っていた」
  悠理を見つけられないもどかしさで。

  「保科様? ……わっ」

  彬の重みが悠理にかかり、クッション性が高いソファに二人で倒れ込む。そのまま彬は悠理の唇を力任せに塞いだ。
  驚きの声を出したままの悠理の唇も歯列も開いていて、舌は容易に入る。

  「ん、んっ……」
  舌を絡ませ上顎をなぞるとすぐに、悠理の唇から甘い声が聞こえた。

  (相変わらず感じやすい)
  彬は悠理の腕を取り、自分の首に巻きつけた。悠理は腕に力を入れ、彬の舌に必死に応える。

  それだけで切なく耐え難い気持ちになり、彬の手は悠理のシャツをまくり、胸に萌える小さな小さな蕾をひねり始める。

  「あっ、や。……ふ……んッ」
  悠理の声が一段と甘くなり、既にしこっている反対側の蕾に舌が這うと、体を大きく反らした。

  「ん、や。やだ、保科様、俺恥ずかしい。ゆっくりして……」
  だが、既に涙を溜めている目は彬の昂りをより煽った。彬の舌と指は自我を越えて忙しく動く。

  (ゆっくりなんて……できるならしてやりたい)
  優しくしてやりたいと、いつもそう思っていた。過去にトラウマがある為に、仕入れから逃げ出した百合が怖がらないよう、陰間の仕事に対して希望が持てるように。

  でもそれが百合への純粋な愛情に変わるのはすぐだった。
  保科の屋敷で百合と過ごした日々は一ヶ月にも満たないのに、別れの日には既に永遠に愛を捧げると誓っていた。

  人を愛するのに時間は関係ないのかもしれない。  
  人から愛情を投じられることに慣れすぎて、自ら他人を求めたことも深く興味を持ったことも無かった忠彬が、川岸に揚げられた百合を初めて見た瞬間には目を奪われていた。
  あの時は歌舞伎座の将来の花形を見抜く目がそうさせるのかと思っていたが、きっともう心ごと奪われていたのだ。

  「愛してる。愛してるよ、悠理」
  言葉が自然に溢れ出る。

  「……保科様……! 俺も、俺も愛してます」

  まだ慣れないのか、悠理が昔の名を呼んでしまうのも可愛いく思う彬だが、今、目の前の自分を見て欲しい。

  「彬って呼んで、悠理」
  耳たぶを食みながら囁く。
  「もう、悠理だけの俺だから」

  彬にしがみついていた悠理の手の力が一瞬抜ける。
  目には大粒の涙。そして、またきつくしがみついて彬の名を重ね呼ぶ。

  言いしれない多幸感が二人を包んだ。
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