枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎

Crash landing on love 2

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「え……なにこれ……」
 瞬は悠理の肌の美しさに魅入ってしまった。
  しかも悠理の肌は良い香りまでする。カブトムシが樹液に誘われるかのように、蝶が花の蜜に吸い寄せられるかのように、瞬は本能の赴くままに悠理の肌に手を伸ばして首筋の匂いを嗅いでいた。

「ちょ、ちょっと、花房さん!」
 悠理はビクッとしてあとずさる。頭の中には彬との約束。

 ──他の人に触らせちゃ駄目だよ。

(今日楓真しごと以外に触られるなんて、例え相手に下心が無くてもダメ、絶対)
「花房さん、触らないで下さい。見るだけ」
 悠理は顔を赤くして焦りながら体をひねった。

 だが、その様子がまた可愛らしかった。相手は悠理おとこだと言うのに、瞬の目には悠理が、時代劇で襲われそうになっている初心うぶな町娘に見える。

「いいじゃない。ちょっと触るだけ……」

「や、ちょ、花房さん、やめて……!」  


 ガタンっ!!……悠理の声が少し大きくなったのと、衣裳室の扉が開いたのは同時。
 瞬と悠理、二人でドアの方を見れば、そこには仁王立ちの楓真。

 察しの良い楓真は気づいていたのだ。数日前から瞬の腹黒が発動して、良からぬ計画を立てているらしいことに。そしてその矛先が悠理だということにも。

  だから二人揃って姿を消したのを知ると、撮影のカットがかかるなり思い当たる場所を探しに来た。

(江戸で牡丹に騙されたこともあるのに、悠理はどうやら人を疑うことは習得していないようだな)
 そしてドンピシャ……目の前には瞬が悠理を凌辱しかけているように見える光景。
 楓真の目は、悠理の手首と腰を固定している瞬を睨んでいる。
「瞬、お前……」

「ふ、ふぅまクン?……」


 ────寒い。急に凄い冷気だ。なんで?
 悠理は思わずエアコンの設定温度を確認していた。


 ***


 あれから楓真は瞬の腕をねじり上げ、顔に表情筋を駆使した微笑を貼り付けて、悠理には聞こえない声で言った。
「悠理に手、出したら芸能界から永久追放するからな……次はないぞ」
と。

 瞬はわけがわからないながらも無言でこくこくこくと頷き、衣服を正してスタジオに逃げると、しばらくマネージャーの後ろで動悸と戦った。
 勿論、滅多に見ない楓真の本気の怒りに恐れをなしたのだが、それだけではない気がした。
(ちくび……すっごい可愛かった……あの真っ赤な顔、すっごい美味しそうだった……ヤダ、D0KID0KIするっ……この気持ち、なに……?)

「それは……恋だよ」

(ふぐっ!?)
 瞬は数メートル先から聞こえた悠理の声に顔を上げた。

 今はタツキとリョウタの教室でのシーンを撮影している。
「タツキは……フミヤを好き……なんだよ」
「違う! 俺はフミヤを友達として」
「タツキ! 俺は隣でずっとタツキを見てきたんだ。だからわかる。タツキはフミヤに恋をしてるんだ」

 この先はリョウタが「フミヤの代わりになる」とタツキに告げようとする大事なシーンだ。 
 目を潤ませて唇を噛む悠理のアップがモニターに映っている。


 ……トゥンク……。
 瞬の心臓がときめきの収縮を始める。
(恋…? ボク……鏑木クンに恋を……?)
 モニターをウットリと眺める瞬。

 しかし。
 途端に楓真のアップに切り替わり、
楓真が厳しい視線を投げてくる。

「ひぃっ」
 瞬は再びマネージャーの背中に隠れた。

 しかし、楓真が睨んだのは瞬ではなく対面のリョウタだ。

「なんで……なんでそんなこと言うんだ。俺の気持ちがわかるって? リョウタ、全然わかってない!」
 タツキの顔が切ない表情に変わる。

「なにがフミヤの代わりだよ……代わりになんかなるわけないだろ」
「タツキ……でも、俺……」
「俺が好きなのは、リョウタ、お前だよ!」
「……………!!」

 放送時はここで「不時着の恋」がバックに流れる。

 そしてタツキはリョウタを引き寄せ、激しく唇を奪う。そのまま二人は教室の床に倒れ込み……。



「はい、カットー!」
「お疲れ様でしたー」
 監督やスタッフの声が響く。

 悠理の上に体を重ねていた楓真が、髪をかき上げながら上体を起こし、床に背中をつけている悠理の腕を引いて起こした。
「悠理、お疲れ。良い演技だったな」
 楓真が微笑む。

「うん、楓真も流石の演技だね!」
 悠理が答えると、周りからスタッフが集まり、二人のキャストに賛辞の言葉を送った。
 それぞれのマネージャーも来て、本日のヤマベッドシーンが無事に終わったことを喜ぶ。

 別々に楽屋に戻りながら、楓真は悠理の背中を盗み見た。

(演技、か……。江戸むかしみたいに触れたのに、悠理には演技に見えたんだな……)
 撮影だから、当たり前に下半身は服を身に着けているし、教室のガラス窓越しの撮影だからあくまでも「ふり」だ。それでも頬や上半身を触る手のひら、口づけをする唇には熱を込めた。

(江戸で、そうやって触れてやると体を震わせて目に涙を溜めていたのに)

 けれど悠理は、少しも演技から乖離しなかった。少しもの欠片を出さなかった。
 モニターを見ていたスタッフ達は恍惚のため息をつき、頬を染めていて、素晴らしいラブシーンだったのは間違いない。
 悠理は「鏑木悠理のリョウタ」を演じ切ったのだ。

(撮影だから当たり前だ)
 それでも。
 ほんの少し。少しはの感情を出せるんじゃないかと楓真は期待していたのだ。

「はぁ……」
「はぁ……」
 楽屋に帰る通路。楓真と瞬のため息がいやに大きく聞こえていた。



「じゃあ篠宮さん、お願いします」
 スタジオの地下の駐車場。迎えに来た彬の車に悠理が乗り込んだのを確認して、マネージャーは頭を下げて二人を見送った。

 車内では悠理が今日の撮影の報告をしている。
「スタッフさんにもマネージャーさんにも凄く褒められてね。特に表情が良いって」

「そう。悠理が納得の演技ができたなら良かった。……楓真は?」

「楓真? 楓真もお互いにいい演技だったな、って笑ってたよ」

 運転の為に表情までは見ることができないが、声色からは悠理がなんの後ろめたさもなく話しているのが伝わった。

(本当に演技、で終わったんだな)
 情けないがホッとする自分がいる。

 悠理が彬だけを思っているのはわかっていても、一度は心を通わせたふうまと、演技でも肌を重ねれば、なんらかの感情が掘り起こされるのではないかと内心危惧していたのだ。

「あぁ、でもやっぱり疲れた。ねぇ、彬さん、今日はもう夕飯はいいから早く眠りたい。たくさん抱きしめて欲しい」 
 マンションの玄関に入るなり、悠理が明るく話す。
 どうやらこれは夜のお誘いではなく、彬を抱き枕にして早々に熟睡したいという意味なのだろう。

 だが、彬はわかっていて意地悪く言う。
「いいよ。朝まで抱き潰してあげる」

「! ち、違うよ。そっちじゃないよ。俺は単純に早く寝たいって……!」
 悠理が真っ赤な顔で彬の腕にしがみついた。

 ちゅ……その頬にキス。
「わかってるよ。でも、キスだけはたくさんしよう? ……おかえり。悠理」

 ────おかえり。
 誰の元へもふらつかず、俺の元へとまっすぐ帰ってきてくれてありがとう。

 そんなふうに思いながら、部屋に上がりもせず、玄関の扉に悠理を押し付けて、彬は再び悠理にキスをするのだった。



Crash landing on love end
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