枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

文字の大きさ
127 / 149
ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎

Love continues 2

しおりを挟む
  後ろから包んでも十分に腕の尺が余る細い身体が揺れ、ひゅ、と喉を鳴らして息を吸い込んだあと、百合の目から涙がこぼれ落ちて宗光の腕を濡らした。
  体を回して振り向かせると、瞳が溶けてしまいそうなほどに涙が溜まっては、とめどなく流れていた。

(俺の為に泣いてくれるんか。でも……)
  泣かさないと誓った。
  願いは全て叶えてやると約束したのだ。

「絶対幸せになるんやで」
  ────この必ず百合ちゃんを幸せにしたるんやから。

  背中を押すと、百合はもう宗光を振り返らず、まっすぐ前だけを見て目指す道へと足を進め、回廊の曲がりで姿を消した。

   一人残った部屋、宗光は痺れるほどに締め付けられる胸を庇ってその場に膝をついた。敷居に百合の涙が落ちた跡が見えて、自分が泣けない変わりにそこをそっとなぞった。

   これからも百合には辛いことが待っているかもしれない。でも、もうあの子は大丈夫だ。百合は譲れない自分だけの道を見つけたのだから。 
  きっともう、寂しさに心を揺らされることはないだろう───その背中を押したのは俺だ。


  (そうや、俺は捨てられたんちゃう。俺が百合ちゃんを旅立たせたんや。猫の子に自分でエサを獲らせる母猫みたいにな)
  うん、と頷いて自分の考え方に満足した。
  

  そうとなればいつまでも一人、出会い茶屋ラブホテルで寝ているわけにはいかない。
  たぐり込んだ勃たなくなった息子に精をつけて新しい出会いを探す為、旨いもんでも食いに行こか、と襟足にかかる長さの髪を撫で付け支度する。

  すっかり、きつく抱けばすぐに姿勢が折れてしまう華奢な体躯と、ひくひくと痙攣しながらも男を咥え込む菊座に骨抜きにされていたが、宗光は元は男色ではない。
  本当は先程の八重のような揉みしだき甲斐のある胸と、戸惑いなく男を受け入れる熟した蜜壺が好きなのだ。



「鰻やな、鰻。肝吸いつけて、精つけて、昔みたいに女はべらすで~」 
(そうや、俺は過去を振り返らん気持ちのいい男や)

  小さく独りごちて老舗の鰻屋に向かう。
  その道先、宗光はふらふらと歩く子供を見た。  
  着物は薄汚れ、髪も顔も整えられていない。おおかた、家族を貧乏か病で亡くしたのだろう。

「子供……女の子か」

  天下の台所、華やかな大阪の町にも、こんなふうなみすぼらしい人間が混じっている。
  成功する人間がいる裏で、世から見捨てられたようにボロボロになる人間もいるのだ。宗光もまた、体の弱かった母親が淀橋屋の妾でなければそうなっていたかもしれない。

  宗光は「早道」と呼ばれる、革で出来た小銭入れから銭を一枚掴んで少女に声をかけた。
  情けをかける、というより、過去の自分を慰めたい、そんな気持ちからだった。

「なあ、これでなんか食べ」

「……! 結構です」
  少女は汚れた顔を赤くして立ち去る。
「みゅううぅぅ」
  その時、少女の着崩れた胸元から小さな仔猫が顔を出して、つるりと滑るように地面に降りた。

「あっ……!」
「お、トラ猫か」

  足元にすり寄ってくる仔トラ猫を、宗光は掬うように拾い上げた。
  目をくりくりさせて宗光を見上げる様子が、江戸で宗光を見上げていた愛しい顔に似ている。

「可愛いなぁ」

「か、返して下さいっ」
  少女が宗光の袖を引っ張る。
  その姿があまりに必死で、宗光は仔猫を抱いたまま聞いた。

「自分、そんなナリしてんのに、この仔ちゃんと育てられるんか?」

「……っ、そんなん、なんとかします。早く返して。その仔がいないとあたし」

「わたし?」

「本当にひとりぼっちになる……」
  少女の目が潤み、仔猫の頭に手が伸びる。
  やがて、頬にひと粒ふた粒と涙が滴って、宗光の手を濡らした。
  仔猫は少女を慰めるようにみゃうみゃうと鳴いている。

「……俺と来るか?」 
  気づくと宗光は呟いていた。

  手を濡らす涙が?
  本当は一人が怖いのに、必死に耐えて生きようと震える少女が?
  それとも、その哀しみなど知る由もなく可愛らしく撫で声を出す仔猫が?

  それらが百合を思わせたからかはわからない。けれど、姿を見ていると胸がきつく締められ、放っておきたくないと思った。

「……え……? なんで……? あたしのことなんかなんも知らんのに。なにが目的ですか?」

(ふ、百合ちゃんを初めて買うた時とおんなじこと言いよる)
  宗光は口の端を上げて笑ったが、少女はあとずさる。

  身なりは良い男だが、もしかしたらどこかのくるわ女衒人売りかも知れないと思ったのだ。

「別に、気まぐれや。まぁ、猫は欲しいから、お前はついでやな」
  宗光は猫を抱いたまま鰻屋の暖簾をくぐる。

「ま、待って、返して」
「とりあえず、鰻食わん? 話しはそれからや」

  鰻屋の扉が引かれて、甘いタレの匂いが少女の鼻を抜けた。

「淀屋橋の若さん、いらっしゃい!」
  店の女が顔を綻ばせて宗光を招き入れる。

(よ、淀橋屋……?)
  貧しさから体の発育は悪いが、十七になる少女にも男が誰で、どれだけ身元がはっきりした人間であるかはわかった。

「入らへんの?」
  宗光が体は店に、顔だけを外に出して少女を見る。

  少女は生唾を一度飲み込むと、意を決して店に足を踏み入れた。



  この日、宗光が拾ったもの。

  一匹の仔トラ猫。
  一人の小汚い、儚げな少女。


  ────これが、また次の時代を継いで行く始まりの日。






Love continues  end

nextupdate 5/21


しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...