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事故つがいの夫は僕を愛さない
顔を見ながら、たくさんされて
しおりを挟む「ふ、んん……」
達た余韻に浸りながら、震える手を理人に伸ばしかけた。
もう一度、キスしてほしい、と。
けれど手が理人の肘に触れる直前、中にいる理人がまた大きくなり、理人は腰を振り始めた。
「ま、待って。もう僕……」
二回も前で達して、お尻でも達った。今までで一番感じたセックスに、身体はもうとろけきっている。
発情期じゃないのにこれ以上されたら、僕はきっとおかしくなってしまう。
「まだまだだよ、天音」
「え? ぁん……!」
唇を塞がれて、最初から舌の根まで絡め取るような深いキスをされる。
「ん、んん、りひ、苦しい、息、できなっ……」
顔の角度が変わる短い合間に、息継ぎしながら訴える。なのにキスも抽挿も止まらなくて、胸の先まで弄られてしまう。
「ふぁっ、や、理人、あぁっ!」
先をクニクニとよじられて、僕は大きく背を反らした。
反動で唇が離れる。
「天音、愛してるんだ。怖がらないで。俺はずっと、こうなってしまう自分を抑えたくて、ベッドも別にしたし、ヒートのときしか天音を抱かなかった。そのときも、ヒートを癒すことだけに集中して必死で我慢してた。ラット化抑制剤を使う日もあったよ……。怖がらせたくなかったから。でも、もう我慢しなくていいって言ったよね?」
「へ……」
揺さぶられながら、僕にとっては新たな衝撃の事実に頭が真っ白になる。
色欲を孕んだ目つきにごくりと唾液を呑み込むと、間の悪いことに、頷いたようになってしまった。
瞬間、理人の体から大量のアルファフェロモンが発せられる。
フェロモンは僕の肌を滑り、身体を包み込む。鼻や口からも入ってきて、僕の奥深いところに浸透していく。
「り、ひとっ……!」
体温が一気に上昇して僕のうなじはカッと熱くなり、僕のフェロモンも溢れてしまう。
「ああ……天音の香り。俺の、大事なつがいの香りだ……愛しい、愛しい、愛しい、愛しい……」
僕のフェロモンに酔ったかのよう。
熱に浮かされたように繰り返しながら、理人は僕の太ももをしっかりと広げると、最奥に入ってきた。
ズン! という衝撃に身体が揺れる。
「ぁ。やあぁ! 理人、理人、そこ、へん、変だからぁ!」
お腹の中は、すでに理人の大きな熱塊でぎちぎちなのに、最奥の「ある部分」がさらに窮屈になった感覚がした。そこを突かれると、甘い鎖で身体を縛られたように痺れる。
「もう数時間は離れられないよ。俺の亀頭球が、天音の胎に入ったから。残念ながら天音は発情期じゃないから赤ちゃんはできないけど、今から広げて準備しておこうね」
亀頭球は狼や犬が持つ生殖器官で、狼の遺伝子を持っているとされるアルファにも備わっている。
これが大きくなると女性の子宮やオメガの胎に絡みつき、満足を伴う射精が終わるまで抜けることはない。
「そんな……。あ、ぁあっ……理人、理人のおっきいの、僕のお腹の中にいるぅっ……」
「そうだよ、ここに、いるでしょ?」
お腹の上からそこを撫で圧されて、新しい快感に襲われる。
僕は陸に打ち上げられた魚のように、全身をびくびくと震わせた。
「愛しい、愛しい、可愛い……天音、大好きだ。この世の中で一番大事な、俺の愛するつがい……!」
胸を唇で挟まれ、しこりになった先を舌で転がされる。同時に、萎んでいた熱芯を握られ、段差を伸ばすようにゆっくりとこすられる。
その合間にも理人の熱塊は僕のお腹の中でうごめいていて、身体中で快感を感じ、頭の天辺から手足の先まで、余すことなく甘く痺れた。
「理人、もう無理、もうなにも出ないからぁ。いったばっかりだからぁ」
いやいや、と涙を流して首を振るけれど、理人はさらに昂揚して、反対の胸にもしゃぶりつき、手の動きを早めてくる。
「ひ、ああぁぁ……! や、理人、おかしくなる、おかしくなるからっ……!」
「……っつ、締まるっ……」
僕は、駄目だと言いながら理人の腰に足でしがみつき、お腹に力を入れていた。
理人は苦しそうに息を詰めて抽挿を早め、僕の骨盤まで砕いてしまいそうな強さで穿つと、二度目の熱を僕に放った。
「あ……は……ふ、ぅん……!」
僕の身体にも快感の大波が駆け抜け、理人の手に包まれていた熱芯から、透明に近い液が飛び散った。
それから、もう前からはなにも出なくなっても、お尻だけで数度達かされた。
それでも理人はまだ抜いてくれない。
僕の上に重みをかねて、皺くちゃのシーツに縫い付ける。
もう指一本も動かせないよ……。
「……理人も、もう達けた……? 僕、疲れちゃった……眠ってもいい?」
息も絶え絶えだ。
理人は僕の額や鼻、頬にキスの雨を降らせながら「うん」と言ってくれた。
のそりと起きて、ゆっくりと腰を引く理人。
お腹の奥の充満感が解けていき、安堵と少しの寂しさを感じていると……。
「えっ……? 理人……!?」
「眠ってていいよ。後は俺がしておくから」
理人が僕の腰骨を掴み、また身体を前後し始める。
「……うそ、まだ?」
「まだまだだって言ったでしょ? 五年分の思いだからね。でも大丈夫、かわいい寝顔を見てるだけでもイけるから、天音は寝てて?」
「ね、寝れるわけないじゃない!」
アルファの性欲が凄いとは知っていたものの、改めて、どれだけ理人が欲情を抑え込んでいたのかに気づかされる。
かといって、僕はもう限界だ。
「無理、無理無理無理……!」
せっかく、念願の顔を見ながらのセックスなのに、僕は自分からうつ伏せになってシーツを掴み、理人から逃げようとした。
まるで、窓に張りつくヤモリみたいな格好だ。
でも勿論、はまりこんだ亀頭球は外れないし、理人は僕の身体を追い、重みをかけてうなじに歯を立てた。
「逃がさないよ? 俺の執着心は凄いから、これからも覚悟して。……ほら、顔をそらさないで? かわいい顔、見せて……」
甘ったるい声を耳の中へ囁き入れられる。
「う……理人……」
もう無理だって思うのに僕の身体は震えて粟立ち、理人にすがりつく。
「愛してるよ、天音」
「うん、うん……僕も、僕も理人を愛してる……!」
────結果、僕は先に気を失ってしまったけれど、朝陽が瞼を差して目を覚ましたとき、理人は僕を後ろから抱きしめ、うなじに唇を置いたまま、まだ僕の中にいた。
「おはよう、天音」
「お、おはよ……理人、もしかしてまだ抜けないの……?」
「ううん。もう抜けるけど、天音と繋がっていたくてそのまま挿れてた」
「ええ……」
抜ける状況なのに、まだお腹に質量を感じるんだけど?
そう驚きつつも自分の体を見ると、裸ではあるものの、昨夜付着した二人の愛液は綺麗に拭き取られているようだった。
よいしょ、と言いながら、ようやく理人が繋がりを解く。
「ぁんっ……」
勃起していなくても大きさのある理人のものが、ずりゅ、と抜ける。
閉塞感を解かれ、中からぬるま湯のような液が溢れ出て、僕は身をよじらせた。
「ごめんね、たくさん出しちゃった。あ……また謝まっちゃった……ごめん」
「そのごめんはいいけど……そうだ、理人も手紙を書いてよ。僕に謝りたいとき、スマホからじゃなくて、メモでもいいから紙に残して。僕も理人からの手紙が欲しい」
お尻を綺麗にしてもらいながらねだると、理人の動きが不意に止まった。
「理人?」
「……俺、字が下手なんだよ……だからそれは許して。天音の綺麗な字を見たら書くのが嫌になる」
「ええー? そうなの? そんなの全然思わないのに……ふ、ふふ」
笑いがこみ上げる。
「あ、莫迦にしてる?」
「ううん。違う。嬉しいの。中学のころから理人はかっこよくて完璧で、欠点がない人だと思っていたけど、理人の中ではいろいろと葛藤や悩みがあったんだなって昨日知れたし、字にコンプレックスまであって、理人も僕とおんなじ人間なんだなって」
「同じだよ。俺だって悩んで間違っての繰り返し……でもこれからは、なんでも天音に相談できるね。俺のかっこわるいところ、支えてくれる?」
理人が僕の頬を優しく包んで問う。
僕はその手を両手で包んで答えた。
「うん! 僕のことも、支えてね? ねぇ理人、僕たちこれからはたくさん話そうね。まだお互いの知らない部分もたくさんある。話し合って、考え合って、そうやって毎日を積み重ねて、それで大人になっていけるよね。時間はたくさんあるもんね」
十五歳でつがいになって、十八歳で結婚して二年目の僕たち。
同じ年頃の人たちの中には、今これから恋をする人もいる。つがうのも、結婚も、まだ先だと考えている人もいる。
でも僕たちは、早くに唯一の人に出会うことができた。失敗しても間違えても、何度だってやり直しができる。
互いを信じ、支え合う心さえあれば、ずっと一緒にいることができるはずだ。
アルファとオメガの「つがい」としてだけじゃなく、一対一の人間として、これからもずっと。
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