専務、その溺愛はハラスメントです ~アルファのエリート専務が溺愛してくるけど、僕はマゾだからいじめられたい~

カミヤルイ

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いじめられオメガの秘密

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(命令してください専務。眼鏡を床に落として、ひざまずいて拾え、とか、這いつくばってその高級そうな革靴を拭けとか!)

 だが、期待に満ちた眼差しに反し、春風のような軽やかさで微笑んだ光也は千尋の前髪に指を入れた。
 優しく、くすぐるように。

 ぞぞぞぞぞ。
 またもや悪寒が背中を走る。

「顔を隠していては印象がよくない。秘書のセンスが社のイメージアップにも繋がることはわかりますね? 視力に問題がないなら眼鏡は外しましょう。表情が明るく見えるよう、髪も早急に整えて……そうですね、スーツも身に合った仕立てのよいものを着せたいですね。きっとかわいいですよ?」
「か、かわっ……!?」

 本日三回目の、ぞぞぞぞぞ。
 専務らしいことを言っていたのに、最後は私情を挟んだように聞こえた。
 氷の貴公子たる男が終始顔をほころばせているのも不気味で、一気に鳥肌が復活する。

「というわけで、藤村君。こちらの成沢さんと一緒に身支度から始めましょう。成沢さん、お願いします」
「かしこまりました。さ、藤村さん、こちらへ」

 すっかり見落としていたが、光也の後ろにはグレーヘアの男性秘書がずっと控えていた。
 秘書はすすっと光也の背中側から現れ、阿吽の呼吸で千尋の肩をかかえると、専務室外へと連れ出す。そのまま「さあ、こちらへ」と繰り返して社外に出て、運転手付きの車に千尋を押し込んだ。


***


 成沢の人のよい笑顔に逆らえないまま、千尋が連れられた先は高級紳士用服飾店だった。

「華奢でおられますが、腕も脚も真っすぐですし、背のラインがお美しい。お仕立てのしがいがあります」

 店主らしき男にうやうやしく接せられ、既製品ではあるが取り急ぎ、と言われて艶のあるブルーグレイのサマースーツを着せてもらった千尋は気後れするばかりだ。

 その後は数枚のオーダー用紙にサインをし終えた成沢に、一等地の美容院へ連れて行かれた。

 呆然とするばかりの千尋の髪に鋏が入り、あれよあれよという間に流行りのシースルーマッシュヘアにされている。

(うわ、短い、短すぎ。これじゃ顔を隠せない)

 焦って成沢を探すと、彼はアシスタントの美容師に案内されてすぐ後ろまで来ていた。

「ああ、華奢な骨格に良くお似合いですね。はい、藤村さん、いいお顔、くださーい」

 成沢は持参していたタブレットの背面を千尋に向けると、待ったなしにシャッターアイコンを押す。

「いいですねー。いいですよー。さあ、もう一枚!」

 あなたはカメラマンですか!? というかなぜ撮影を? と唖然とする千尋だが、成沢は画像の千尋を見て満足気にうなずくと、車を呼んで社へ戻る手筈を整えた。
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