事故つがいの夫が俺を離さない!

カミヤルイ

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番外編Ⅱ

モンテカルスト公爵夫人の独り言

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*このお話は、1巻でふたりが2回目のつがいになってから結婚式を挙げるまでの、10か月間のうちのどこかのお話です

· · ───── ·✧· ───── · ·

 我が家のお婿さんになるエルフィーちゃんが可愛い。

 エルフィーちゃんは容姿からして可愛いのよね。
 ピンクベージュの髪にグリーンの瞳だなんて、我が家の庭園の一角に咲く薔薇のようじゃないかしら?

 風にふわふわっと揺れるロゼット咲きの花びらのような髪。若葉のように瑞々しい艶を持つ大きな瞳。陶器のようになめらかで白い肌。

 オメガ性にしか現れない可憐さをすべて持って生まれたようなエルフィーちゃんだけど、仕草もとっても可憐なの。

 なにかを考えるときに自然と小首が傾くのも、声をかけたらどんなときでも明るい笑顔で応じてくれるのも、お話の最中にウサギのお口みたいにちょっぴり口角を上げて、いいタイミングで相づちを打ってくれるのも。

 当たり前のようだけれど、どの仕草にもエルフィーちゃんの素直さが滲み出ていて、とっても可愛いらしい。

 それに、エルフィーちゃんはすぐに内心が顔に出るから、裏表がないことがひしひしと伝わってきて、とても可愛いらしいのよね。

 あら……「可愛い」ばかり言い続けて、私ったら語彙力がないわね。

 まあ良しとするわ。我が家のひとり息子、クラウスは表情も言葉も少ない子だから、くるくると変わるエルフィーちゃんの表情は朝から晩まで一年中見ていても飽きそうにないわ。

 けれど……

 近頃少し心配です。

 二度目のつがいを結び、クラウスとの来秋の挙式を控えている今、急いで大人になろうとしているように感じるの。

 大好きなカシスジャムとクリームチーズのスコーンを口にする少しの時間さえも惜しむかのように……これは、好きなものさえも断とうという気持ちも感じるわ……公爵家婦人教育に邁進し、セルドランラボでの研究にも心血を注いでいる。

 その姿はがむしゃらにも見えて、十中八九、心の中にニコラちゃんへの罪悪感があるのでしょうね。

 そうしていないと気持ちが落ち着かないというのもあるのでしょう。
『立派にやらないと』そして『自分だけが幸せを感じてはいけない』という思いがエルフィーちゃんを突き動かしているのね。

 それも仕方がないことなのかもしれないわ。ニコラちゃんはまだ治療院にいて、毒抜きの治療を受けている最中さいちゅうだもの。

 ニコラちゃんの容体は快方に向かい、心身ともに落ち着いてきているとはいえ、ニコラちゃん自身もエルフィーちゃんへの大きな負い目を抱いているから、まだ顔を合わせる勇気がないの。
 そんなふたりの互いへの悔恨の念が……いいえ、それよりも、お互いへの愛情が強いばかりに想いの糸が絡まってしまうのよね。

 でも、大丈夫よ。あなたたちの絡まった糸は必ずほどける。ニコラちゃんの治療が終わったら、私も尽力しますからね。

 そう内心で語りかけていると、不意にエルフィーちゃんが私に目を向けた。

「――夫人、俺の顔になにか付いていますか?」
「あら、可愛らしい瞳とお鼻とお口が付いているわね♡エルフィーちゃんはいつ見てもどの角度でも可愛らしいわねぇ。お勉強姿も絵師に描いてもらおうかしら」

 今日もラボでのお仕事のあと、モンカルスト邸を訪れて公爵夫人教育に励むエルフィーちゃん。
 私がうふふ、と微笑んで答えると、気恥ずかしそうに首をすくめた。
 こういう仕草も小動物的で可愛いくて好きよ。

「ご冗談ばかり。そんなに俺を褒めてくださるのは夫人とクラウスだけですからね。お外では言わないでくださいね」

 上目遣いのジト目で言われて、胸の端っこがこそばゆくなっちゃう。

「んん~エルフィーちゃんったら、本当に可愛いわ。こんなあなたの顔を見ることができないクラウスが気の毒になるくらいよ」

 クラウスは今、じき感染症が終息を迎えると言われているカロルーナ地区で任務に就いている。もう二月ふたつきほどになるわね。

「だけど、クラウスはあと半月もすればいったん帰ってくるわね」

 私が付け加えると、エルフィーちゃんの頬がほんのりと桃色に色づいた。
 クラウスはエルフィーちゃんの発情期のサイクルに合わせて「つがい休暇」を取っているのよ。

 ちなみにこの特殊休暇を推進し、国王陛下に進言したのは私です。今までなかったのがおかしかったのよね。オメガ性のお婿さんを戴いて初めて気づくなんて、私も主人も配慮が足りなかったわ。

「はい。あの、そのときは離宮に宿泊させていただいてもよろしいですか?」
「あたりまえじゃないの。成婚はまだ先でも、あなたはもうモンテカルスト家のお婿さんなんですからね! クラウスが不在の間もずっと泊まってくれていたらいいのに!」

 遠慮がちに言ったエルフィーちゃんを胸の中でぎゅっと抱きしめる。
 つがいと過ごす時間が嬉しいはずなのに、遠慮なんてしなくていいのよ。
 
「ねえ、エルフィーちゃん。クラウスはあなたの笑顔を見たくて仕方ないでしょうね。二月ふたつきの間、カロルーナで奮闘したクラウスをたっぷりと癒やしてあげてね」
「癒やしてもらうのは俺なんですが……でも、クラウスを労いますね」
「ええ、ふたりでいい時間を過ごしてね」

 エルフィーちゃんがオメガ性で、クラウスがアルファ性でよかったと心底思う。
 理性を解き放ち、つがいに愛し尽くされる期間が強制的に訪れてくれるんだもの。
 どうかどうか、エルフィーちゃんが『幸せを感じてはいけない』なんて、思う時間が少しでも減りますように。

 願いと愛情を込めて、もう一度ぎゅううぅぅぅ~~。

「ぐ、ぐるぢいです、ぐるぢいっ」

 途端にエルフィーちゃんが私の胸の中でジタバタする。
 うふふふ。開放してあげなくちゃね。

「エルフィーちゃんったら可愛いんだから♡さてさて、あなたは根を詰めすぎよ。このスコーンを食べてくれないと、あなたのために腕によりをかけて創ったコック長が悲しむから、今日という今日は食べてあげてちょうだい」

 息を整えるエルフィーちゃんに声をかける。先ほど侍女たちが運んでくれたワゴンを手で示した。そこにはカシスジャムとクリームチーズを挟んだスコーンと、フルーツティーが置いてある。

「あ……そうか。俺、ここのところ頂かなかったから……コック長さん、気にされていました?」
「そうね。お下がりのものは使用人たちで分けるとはいえ、コック長はエルフィーちゃんの美味しい顔を頭に浮かべながら作っているんだもの」

 この話からも気づいてくれるといいわね。エルフィーちゃんが幸せでないと悲しむ人間がいるってこと。

 私も、セルドラン夫妻もそうよ。そして、クラウスが誰よりも悲しむことを、エルフィーちゃんもわかっているでしょう?

「はい! じゃあ、今日はたくさん頂きますね」

 私の内心での問いかけに、タイミング良くエルフィーちゃんが微笑む。けれど、どこか作ったようなぎこちなさがある。

 それでもいい。いつの日かまた近いうちに、必ず以前のような天真爛漫な笑顔が戻ってくることを私は確信している。

 だから今できるのは、この場を楽しく過ごしてもらうこと。

「さあ、頂きましょう。今日は私もふたつ頂いちゃおうかしら」

 そうして私は侍女に指示し、テーブルにスコーンとお茶を用意させた。

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