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視線
視線に気づかない攻め×視線に気づいてもらえない受け①
しおりを挟む学校のリーダー的存在の攻め君は、周囲を照らす太陽のような人で、万人の目を惹く。
だからクラスも別で、平凡よりももっと目立たない僕が見ていることには気づかないだろう。
もし気づいていたとしても、攻め君に熱い視線を送る大勢の中のひとりだと思う。
でも、初めて話したとき…あれは、入学式から数日経ったある朝のことだ。
満員電車に慣れずに気分が悪くなった僕は、電車を降りてすぐ、黃線のライン上でうずくまってしまった。
皆の通行の邪魔になるし、電車が動くと危ないとわかっているのに、少しでも動くと吐きそうでどうすることもできない。
すると僕を抱えて肩を貸してくれる人がいて、ホームの椅子に座らせてくれた。
それが攻め君だ。
攻め君は「日直で行かなくちゃならないから、ここでごめん」と、うつむいたままの僕の顔を確かめることもなく行ってしまった。
だから攻め君は僕の顔を知らない。
攻め君は本当に素敵な人だ。
わけ隔てなく、さり気なく困っている人を助ける姿を何度も見た。
好きにならないはずがない。
僕も大好きな攻め君を真似してみたけれど、平凡以下の僕がやっても「真似以下」で、余計に迷惑をかけたり不審がられたり。
はあ…人の力になるにも才能が必要だなんて知らなかった。
だから代わりに植物を育てることにした。
園芸部は僕みたいに人付き合いが苦手な人の集まりで、自分のペースで楽しむことができた。
そうしたら思わぬ才能ができたんだ。僕はとても上手に花を咲かせることができる。
バラも、ユリも、チューリップやグラジオラスに紫陽花も。
そうして、せめて攻め君に僕の得意を見てもらいたくて、定期的に教室に花を飾りに行っている。
ひとつのクラスだけにしたらおかしいから、順番に全三学年15クラスを回るんだけど、苦じゃなかった。
だって、そうすれば堂々と攻め君の姿を見ることができるんだから。
園芸部キャップを目深にかぶり、花を飾りながらチラ見する攻め君はやっぱり輝いていた。
「先輩、あの人が好きなんですか?」
「え?」
僕と一緒に花活動をするようになった後輩ちゃんが、ある日僕の視線に気がついた。
「いや、そんな、そんなことは」
「モロバレじゃないですか」
「えっ、じゃあ攻め君にもバレてる?」
「はい引っかかった~認めましたね」
「あっ」
僕が慌てて口を押さえると、後輩ちゃんはふふふ、と笑う。
「気付いてないと思いますよ。もっとしっかり視線を送らないと。まあ、あ私はああいう陽キャは苦手なんで、先に出ます。どうぞごゆっくり」
「え、待って待って、僕も出るよ」
「別にいいのに」
そう言いつつ僕が一緒に出ると、彼女はニコッと笑って一緒に次のクラスへ行った。
見た目は僕と同じく内気そうなのに、話すと明るくて、明るい笑顔を見せる人だとわかった後輩ちゃんは、それからも僕と花活動を続けてくれて、卒業間際の最後の花活動の時に言った。
「受け先輩、ホントに見てるだけでいいんですか」
「だって僕は男だし、認識されてないし…」
週に一度花を変えに来ているのに、声をかけられないどころか、全く視界に入らないんだもの。
「花持って告ってみれば? 後悔したくないでしょ」
後悔。そう言われて、僕は決意した。どうせ後悔するならやらなかった後悔よりもやった後悔の方がいい。
そして卒業式の朝。
園芸部の温室で育てた向日葵を花束にしていた僕は、それを持って意気揚々と家を出た。
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