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幽韻之志
43/聚斂之島
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本家の御前は、灯景提灯が一張り。
門前払いは覚悟の上で、こっちも無理を承知で来ている。
随分と殺気立ってる男は「ごめんで済んだら警察いらねぇ」詰め寄る強面に舌打ち。仰け反って睨み返す小さな猛獣をあやしながら約束を交わす。
「いいかい、負けるが勝ちだよ」
半襟がめくれるほど引っ張られると左から刃物が差し込まれ、切先が上向きになり、振り抜くと相手の親指の付け根が飛ぶ。曲がった汚物を避ける俺の眼の中で指を詰められた男が怒りに吼える。
嘶きは戦いの咆哮であり、俺からの宣戦布告。
男達の掛け声で満身創痍が俺に集中すると、玲音は刀を構えて全方向からの攻撃に備える。刀一本で事足りるのか、お手並み拝見。
俺が先陣斬って敵視を集めながら力で押せるのは御前まで。
本家に一歩でも踏み込めば、そこは科戸忠興の絶対領域。予習無しで攻略は不可能な高難易度…故に、欺いて押し切る。
「本丸は九時の方向に西之宮、5分で応援が来るから封鎖して。廊下は正面突破で10時の方向に進んで!3つ目の扉に起動装置発動まで20秒…」
家出幼女はクロックポジションで先導。
俯瞰的な判断と持ち前の能力を解放して見通す眼となり、玲音が斬り付ける。ここまで無傷なのは刀と腕の長さが攻撃範囲で回転しながら寸分狂いなく刀を振り回しているから、まるで鋭利な球体が玄関から続く長い廊下を転がっているようなものだ。
「残り5秒…さん、にぃ…」
玲音が前傾姿勢で大きく息を吸って止まる。
血液とは異なる鉄分の香りが鼻を突く、左近寺の御出益しに玲音は息む。
鍛衡は呼吸で身体機能を高め、精神と肉体を隆起させた状態を維持させて大技を穿つ蓄電型に対して、兵器である左近寺は燃料源が切れるまで一定の可動域で強い攻撃を繰り返す。
かつて一騎打ちに遭った青輝丸直属の執行部顧問・丞が腕一本獲るだけでやっとだった、あの状況化に今、在る…ただの人間である俺達に勝ち目は無い。
「人ならざる者には神の一手、押忍て参る」
指の間に挟んだ金貨を投げて反対方向に飛び去る間際、赤々と燃える火の玉が貫通する。爆風の熱量に悲鳴が上がり人間…焼肉…食えない奴等だと嘲笑う俺を見つめる涼しい碧眼の瞳に愛を込めて。
「ここで一番強い鬼を倒した子に褒美を授けよう、何がいい?」
奴隷二匹は揃いも揃って 俺 を欲しがる。
おいおい、もっと真面目にやれよと目の前で起きる壮絶な死闘を見守る。
戦う欲求に憑りつかれると周りが見えなくなる連中は君主を護る使命感に鼓舞する光の楔が蜷局に立ち昇ると床を打ち付けながら突き進み、跳ね返される切先に玲音が飛び乗り、仰け反って攻撃を交わしながら左近寺に拳を振り下ろす。
激しい真空破に襖が折れて吹き飛ぶ激突に追い打ちを駈ける、雷鳴。
屋根を突き抜ける落雷が直撃。左近寺が膝を付く迄5分も掛からない猛攻に西之宮の人海戦術も虚しく飛び道具の一切が溶ける異様な合戦場に青鬼が出向く。
「今夜は月が綺麗ですね」
科戸忠興の登場に、周囲の反応は一変。
皆、退路を往く。
死の匂いを放ち踏み出す先に跪く傷ついた左近寺を見上げ、両手を伸ばす科戸さんは目を閉じて"何か"囁き額を合わせると動力の金属音にあおちゃんが耳を塞ぐ。
「お父様…怒ってる…こ、こわいよぅ」
玲音とアルサハが背中合わせで俺の前に立ち、拳を握る。
僅かな隙間から見えた白光に目を細めながら奥を見つめると科戸さんの背中から…鈍色の羽根が…大きな刃が幾重にも畳まれゆっくり膨らみながら広げると、逃げ惑う人々が細雪にも似た小さな羽根に貫かれ胸が弾けた。
壁に磔にされた男が恐怖から逃れようと指を這わせる先の闇に堕ちる。
「なにしとうやす!」
血相変えて飛び出してきたしづ子夫人が掴み掛る。
「お邪魔してます」
「大概におしやす、あんたぁ…アホみるで」
空気の振動から伝わる熱量を頬に感じる。
しづ子夫人を抱いて左に爪先を開いて飛ぶと小さな悲鳴を掻き消す爆風に息も絶え耐え、腕の隙間から這い出るあおちゃんは念珠を指に通して一心不乱に拝む。
俺の下で青褪めて震えるしづ子夫人の吐息が凍てつく。
……これは……起き上がり廊下に出ると、抜けた天井から降り注ぐ細雪が光の粒に変わり、眩しい光の中心から差し出された指先の方へ地面に氷濤が突き出して破壊。吹き飛ばされるアルサハは俺の足元で転がり、後退する玲音は血塗られた腕が上がらずに呼吸が乱れているのが見て取れた。
防御が硬すぎて攻撃が貫通しない。
着地点の攻撃が激しく後退するより他、逃げ場が無いのだろう。ここが東京都心とは思えない氷点下に太陽神の雷さえも封じられる危機的状況。左近寺を取り込み、大気を自在に操り、自らが"兵器"と化す科学の結晶は神の所業。
あの羽根を手折ることは不可能だ。
本家に張り巡らされた結界が壊れるのは時間の問題。
あおちゃんは緊張から息を詰まらせ、念仏を唱えている。体力は限界だ。
御経は思いを届ける言葉の楔。
どうか、俺達の願いが"あの人"に届くように。あおちゃんの後ろから手を伸ばして優しく握ると声に力が蘇り俺も一緒に唱え始めると意識が微睡む…仄暗いの暗い其処から見守る 小夜子 は悲しい顔で頷くと願いを受容れて凪ぐ。
六喩会の 夢 である小夜子の能力
それは"霊的な"ものではなく、永久の闇に陥れる廓の番人。
何者か、が…
純恋の花に呪を架けて小夜子を幽閉している。
魂の拠り所を失った小夜子は最愛の夫に再び会える事を待ち侘びて、黄泉に寂しさを漂わせていた。俺は青嵐の身代わりとして選ばれ、何度も溺れたが、本家で小夜子の存在にいち早く気が付いたあおちゃんが令朝参りの読経で「ママに会える」密かに明かしてくれた。
玲音とアルサハを盾に戦い、科戸さんの意識が無くなる絶命状態まで追い込むことが出来れば――廓に送り込める――勝機を見据えて…
立ち上がる玲音は刀を振り、雫を掃う。
再び飛び立つとアルサハが渾身の楔を打ち込み、羽根が変形できないよう捉えると氷点の力が暴発して科戸さんの足元に樹氷が立ち上がる。玲音は正面から伸びる樹氷を叩き割りながら間合いに飛び込み鍛衡の一打を穿つ。羽根の中に拘束される科戸さんは自滅しまいと耐え忍び、青い瘴霧を可燃させ劫火の渦を巻き起こす、アルサハの猛攻は止まらない。
水の中で青い花が揺らぐ。
それは美しい青羽蝶に変わり小夜子を背後から覆い、闇に融けようと身を寄せる小夜子に手を伸ばす。
今度は俺が護るから、おいで…
君が、今まで選ばなかった路地を俺と往こう。
「約束する。必ず……幸せ……に…なろう」
戸惑いながら指先を浮かべる小夜子を掴み、美しい羽根を散らしながら零れる泡が揺れ昇る果てに…小夜子は声にならない声で叫んだ。
門前払いは覚悟の上で、こっちも無理を承知で来ている。
随分と殺気立ってる男は「ごめんで済んだら警察いらねぇ」詰め寄る強面に舌打ち。仰け反って睨み返す小さな猛獣をあやしながら約束を交わす。
「いいかい、負けるが勝ちだよ」
半襟がめくれるほど引っ張られると左から刃物が差し込まれ、切先が上向きになり、振り抜くと相手の親指の付け根が飛ぶ。曲がった汚物を避ける俺の眼の中で指を詰められた男が怒りに吼える。
嘶きは戦いの咆哮であり、俺からの宣戦布告。
男達の掛け声で満身創痍が俺に集中すると、玲音は刀を構えて全方向からの攻撃に備える。刀一本で事足りるのか、お手並み拝見。
俺が先陣斬って敵視を集めながら力で押せるのは御前まで。
本家に一歩でも踏み込めば、そこは科戸忠興の絶対領域。予習無しで攻略は不可能な高難易度…故に、欺いて押し切る。
「本丸は九時の方向に西之宮、5分で応援が来るから封鎖して。廊下は正面突破で10時の方向に進んで!3つ目の扉に起動装置発動まで20秒…」
家出幼女はクロックポジションで先導。
俯瞰的な判断と持ち前の能力を解放して見通す眼となり、玲音が斬り付ける。ここまで無傷なのは刀と腕の長さが攻撃範囲で回転しながら寸分狂いなく刀を振り回しているから、まるで鋭利な球体が玄関から続く長い廊下を転がっているようなものだ。
「残り5秒…さん、にぃ…」
玲音が前傾姿勢で大きく息を吸って止まる。
血液とは異なる鉄分の香りが鼻を突く、左近寺の御出益しに玲音は息む。
鍛衡は呼吸で身体機能を高め、精神と肉体を隆起させた状態を維持させて大技を穿つ蓄電型に対して、兵器である左近寺は燃料源が切れるまで一定の可動域で強い攻撃を繰り返す。
かつて一騎打ちに遭った青輝丸直属の執行部顧問・丞が腕一本獲るだけでやっとだった、あの状況化に今、在る…ただの人間である俺達に勝ち目は無い。
「人ならざる者には神の一手、押忍て参る」
指の間に挟んだ金貨を投げて反対方向に飛び去る間際、赤々と燃える火の玉が貫通する。爆風の熱量に悲鳴が上がり人間…焼肉…食えない奴等だと嘲笑う俺を見つめる涼しい碧眼の瞳に愛を込めて。
「ここで一番強い鬼を倒した子に褒美を授けよう、何がいい?」
奴隷二匹は揃いも揃って 俺 を欲しがる。
おいおい、もっと真面目にやれよと目の前で起きる壮絶な死闘を見守る。
戦う欲求に憑りつかれると周りが見えなくなる連中は君主を護る使命感に鼓舞する光の楔が蜷局に立ち昇ると床を打ち付けながら突き進み、跳ね返される切先に玲音が飛び乗り、仰け反って攻撃を交わしながら左近寺に拳を振り下ろす。
激しい真空破に襖が折れて吹き飛ぶ激突に追い打ちを駈ける、雷鳴。
屋根を突き抜ける落雷が直撃。左近寺が膝を付く迄5分も掛からない猛攻に西之宮の人海戦術も虚しく飛び道具の一切が溶ける異様な合戦場に青鬼が出向く。
「今夜は月が綺麗ですね」
科戸忠興の登場に、周囲の反応は一変。
皆、退路を往く。
死の匂いを放ち踏み出す先に跪く傷ついた左近寺を見上げ、両手を伸ばす科戸さんは目を閉じて"何か"囁き額を合わせると動力の金属音にあおちゃんが耳を塞ぐ。
「お父様…怒ってる…こ、こわいよぅ」
玲音とアルサハが背中合わせで俺の前に立ち、拳を握る。
僅かな隙間から見えた白光に目を細めながら奥を見つめると科戸さんの背中から…鈍色の羽根が…大きな刃が幾重にも畳まれゆっくり膨らみながら広げると、逃げ惑う人々が細雪にも似た小さな羽根に貫かれ胸が弾けた。
壁に磔にされた男が恐怖から逃れようと指を這わせる先の闇に堕ちる。
「なにしとうやす!」
血相変えて飛び出してきたしづ子夫人が掴み掛る。
「お邪魔してます」
「大概におしやす、あんたぁ…アホみるで」
空気の振動から伝わる熱量を頬に感じる。
しづ子夫人を抱いて左に爪先を開いて飛ぶと小さな悲鳴を掻き消す爆風に息も絶え耐え、腕の隙間から這い出るあおちゃんは念珠を指に通して一心不乱に拝む。
俺の下で青褪めて震えるしづ子夫人の吐息が凍てつく。
……これは……起き上がり廊下に出ると、抜けた天井から降り注ぐ細雪が光の粒に変わり、眩しい光の中心から差し出された指先の方へ地面に氷濤が突き出して破壊。吹き飛ばされるアルサハは俺の足元で転がり、後退する玲音は血塗られた腕が上がらずに呼吸が乱れているのが見て取れた。
防御が硬すぎて攻撃が貫通しない。
着地点の攻撃が激しく後退するより他、逃げ場が無いのだろう。ここが東京都心とは思えない氷点下に太陽神の雷さえも封じられる危機的状況。左近寺を取り込み、大気を自在に操り、自らが"兵器"と化す科学の結晶は神の所業。
あの羽根を手折ることは不可能だ。
本家に張り巡らされた結界が壊れるのは時間の問題。
あおちゃんは緊張から息を詰まらせ、念仏を唱えている。体力は限界だ。
御経は思いを届ける言葉の楔。
どうか、俺達の願いが"あの人"に届くように。あおちゃんの後ろから手を伸ばして優しく握ると声に力が蘇り俺も一緒に唱え始めると意識が微睡む…仄暗いの暗い其処から見守る 小夜子 は悲しい顔で頷くと願いを受容れて凪ぐ。
六喩会の 夢 である小夜子の能力
それは"霊的な"ものではなく、永久の闇に陥れる廓の番人。
何者か、が…
純恋の花に呪を架けて小夜子を幽閉している。
魂の拠り所を失った小夜子は最愛の夫に再び会える事を待ち侘びて、黄泉に寂しさを漂わせていた。俺は青嵐の身代わりとして選ばれ、何度も溺れたが、本家で小夜子の存在にいち早く気が付いたあおちゃんが令朝参りの読経で「ママに会える」密かに明かしてくれた。
玲音とアルサハを盾に戦い、科戸さんの意識が無くなる絶命状態まで追い込むことが出来れば――廓に送り込める――勝機を見据えて…
立ち上がる玲音は刀を振り、雫を掃う。
再び飛び立つとアルサハが渾身の楔を打ち込み、羽根が変形できないよう捉えると氷点の力が暴発して科戸さんの足元に樹氷が立ち上がる。玲音は正面から伸びる樹氷を叩き割りながら間合いに飛び込み鍛衡の一打を穿つ。羽根の中に拘束される科戸さんは自滅しまいと耐え忍び、青い瘴霧を可燃させ劫火の渦を巻き起こす、アルサハの猛攻は止まらない。
水の中で青い花が揺らぐ。
それは美しい青羽蝶に変わり小夜子を背後から覆い、闇に融けようと身を寄せる小夜子に手を伸ばす。
今度は俺が護るから、おいで…
君が、今まで選ばなかった路地を俺と往こう。
「約束する。必ず……幸せ……に…なろう」
戸惑いながら指先を浮かべる小夜子を掴み、美しい羽根を散らしながら零れる泡が揺れ昇る果てに…小夜子は声にならない声で叫んだ。
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