親友と異世界トリップ

瀬尾

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逃亡

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 カイトは、彼を見た。全く動いて居ない。なら何故手が動いたのか。

 両手を彼の小さな体に重ねた。今まで出してきた最大の力で彼の体を治すため、魔法を使った。

 まだ助かるかもしれない。呼吸と心臓も止まっているかもしれないが、また動き出すかもしれない。必死に光を放ち続けるカイトに、リチャード達は顔を歪めて見つめていた。

 助からないだろう。そう思っていたからだ。

 確かに、もう死んでいるとも言える。しかし、日本、いや、前の世界では、心肺蘇生などと言うものがあった。ならば、蘇生出来るかもしれない。

 涙を止めて、ただただじっと力を注ぎ続ける彼に、リチャード達はとうとう見ていられなくなり、止めるため、歩みだした、その瞬間。

 子供の傷が治り始めた。
 
 今まで、力を注いでも全く治らなかった傷が、急に塞がり始めた。

 カイトはただただ力を送った。

 リチャード達は驚愕し、お互いを見合わせた。まだ希望がある。

 傷が全て治りきるであろうその時に、僅かに彼の胸が上下した。

 「…………っ!」

 呼吸の再開とともに、彼は目を開けた。こちらを見つめる彼は、今までだらりと力なく教壇の上に置いてあった腕をカイトに伸ばした。

 「ぅ、…………ふぇ、……ぇえっ、……ぅうぅぅ、っ、ふぇぇっ」

 まるで子猫が鳴くような、そんな小さな声で泣き始めた。

 カイトは再び涙が溢れるのを感じ、彼の傷が治りきり、顔色が良くなったその時に、その小さな体を抱き寄せた。

 生きてくれた。生きようとしてくれた。生き返った。

 リチャード達が嬉しそうに騒ぐ後ろからの声に、答えられない。

 抱き寄せ、謝り続けた。

 「ごめっ、……ごめんな、もう、こんな目には合わせないから。辛かっただろう?……っ、ごめんっ」

 力なく教壇の上で彼を見た時、確かに自分の姿がだぶって見えた。昔、父に殴られ、切られ、殺されかけた、昔の自分が。

 血の中で横たわる、無力で、弱々しい、小さな身体が、確かに昔の自分に見えたのだ。

 自分がもっと早く気づいていれば、自分の気持ちに正直に、この子に情を注いていれば、こんな事にはならなかった。

 自分のした事は、昔、父親が自分にしたことと同じだと、そう思った。

 「カイト!感動的な場面に申し訳ないけど、しっかりして!人が集まり出したよ。このままじゃ面倒い事になる。逃げないの?」

 ユキがカイトの肩を揺すった。

 後悔している暇はない。

 「……ユキ、………リチャード。…………旅の邪魔になるのは分かってる。…………リチャード、…………ごめん、君に、ついこの間、全てを捧げると、そう言ったのに……、…………この子を、一緒に連れて行っても……構わないか……?」

 森で、確かに彼は自分達が人に優しくする事に嫉妬を覚えると、そう言った。

 それなのに、カイトのやっている事は、彼への裏切りだ。

 目も合わせられず、それなのに、腕の中の温もりを手放すことが出来ず。

 「…………何を言ってるんだ?…………その子は君の息子なのだろう?私には子を親から離す権利など無いよ」

 勢い良く顔を上げ、リチャードと目が合った。何故か嬉しそうにこちらを笑って見つめている彼に、不思議に思ったが、それよりも感謝の言葉が勝り、彼には敵わない、そう思った。

 「…………俺の我儘を聞いてくれて、ありがとう。申し訳ないが、この街にはもう居られない。宿の金は勿体無いが、今すぐこの街を出る」

 そう言って、カイトは教会を出るため歩みを進めた。

 「あ、ちょっと待って、カイト!ここからなら誰も居ないよ!入り口はめっちゃうじゃうじゃ人いるけど」

 ユキがそう言って指差したの場所は、壁だった。何となく彼女の言いたいことが分かり、頷くと、彼女は拳を振り上げた。

 そこでようやくリチャードも気づいたのか、苦笑した。

 彼もそろそろユキの行動に慣れてきたようだ。

 凄まじい砂埃と騒音で一瞬赤児が驚き、辺りをキョロキョロと見回した。もう泣いていない。

 そこからユキはリチャードを抱き上げ、走り始めた。声を出し、驚き、降ろす様に頼む彼だが、こればかりは譲れない。

 「まともに休めなかったし、これからまた旅が始まる。悪いが、その方が出来るだけ君に負担が無いし、体力を温存できるんだ。……我慢してくれ」

 リチャードは観念した様に項垂れ、運ばれた。

 まず、馬小屋に馬を取りに行った。騒動は街中に広まっていたが顔までは分からなかった様で、スムーズに馬を引き取れた。そこからリチャードとカイトは馬に乗り、ユキには先に宿に行ってもらって荷物を取りに行ってもらう様に言った。

 結局、この街に入って一日も経たず、教会を出てから三十分も経たずにこの街を出ることになった。

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