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お兄さん
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「凄いなぁ!あのアレクサンダーが一瞬で倒されるなんて!リチャード、どこで拾ってきたんだ?」
そう言って、現れたのはリチャードと同じ金髪に、同じくらいの身長、ただ、彼程綺麗な人では無かった。顔は確かに整っているが、まるで中身の意地の悪さが滲み出てきた様にオーラが濁っていた。雰囲気がまるでリチャードと正反対で、見ていてもちっとも心が揺るがない。
あの、リチャードに会った時の衝撃が微塵も無いのだ。
あれが恐らく、第一王子、リチャードの兄であり、彼の命を脅かす張本人。エドガーなのだろう。
アレクサンダーはエドガーが見ていない所で物凄い嫌悪感を前面に押していた。
ユキはそれを見て目を丸くし、可笑しそうに笑って彼を立ち上がらせた。どうやら多少彼の事が気に入った様だ。
「お嬢さん、話によるとそこの愚弟に仕えているんだって?そんな貧相なやつ止めて、私に仕えれば良い。許可するぞ?」
まるでユキが彼の元に下りたいとでも言うような口振りだった。
「ごめんなさいねぇ、私、リチャード以外に仕える気ないの。他を当たって下さいな」
本来ならば殴りかかっているだろうに、流石に今彼に何かをすると面倒になると理解し、我慢してくれた。額の青筋が凄まじいが。
エドガーは一瞬信じられないと言うように驚愕し、顔を怒りで歪めた。彼女に怒鳴りつけるその時に、今まで黙っていたリチャードが口を開いた。
「兄上、私のものに手を出さないで頂きたい。彼女は既に私に永遠の忠誠を誓ってくれた身だ」
そう言ってユキとエドガーの間に入ると、エドガーを睨みつけた。酷く不快そうに顔を歪めた彼だったが、鼻で笑うと、まるで汚物を見るかのような目でリチャードを見つめた。
「何もできない役立たずが何を言う。貴様が持っていたら世の中の役に立たないだろう?有難く私が使ってやろうと言ってやったのにその意味すら分からない程オツムが足りていないのか?……ふんっ、まぁ良い。お前が居なくなったら有意義に使わせて貰うさ」
それはある意味、殺人宣告だった。
言葉の途中からユキの殺気が膨れ上がった。アレクサンダーを始め、何人もの兵士が彼女を見つめ震えていた。殺気を向けられている当の本人は全く気付いていないが。
しかし、何も兵士達が震えているのはユキのせいだけでは無い。確かに彼女の殺気で恐怖感が湧き上がったのは事実だが、もう一つ、殺気の発信元があった。
彼女の殺気が鋭く突き刺さる様なものならば、もう一つの殺気、カイトの殺気はまるで纏わり付くような、身体の芯にまで届き、内から理性を削ぎ落とされるようなものだった。
最後まで何も気付かず、誰にも反論され無かった為に上機嫌で演習場を去っていくエドガーを見つめた。
死にたいと強張り、狂うほどに辛い目に合わせる。だが、それは今じゃ無い。
ユリウスが声を上げた。ご飯の時間だ。
「……?どうした」
こちらを凝視するユキと、血の気の引いたアレクサンダーや兵士達の顔があった。
「いや、……久々に、カイトマジギレしたなって思って」
カイトはそこで初めて殺気が漏れている事に気付いた。リチャードだけが嬉しそうにこちらを見つめていた。
「悪い。きつかったか?…………何で笑ってるんだ?」
「ふふっ、私の為にそこまで怒ってくれた事が嬉しくてね」
そう言うと、アレクサンダーの方を見た。
「彼らが居れば心強いだろう?」
誇らしそうに笑う彼に何も言えず、カイトは小さく笑った。
アレクサンダーも神妙に頷くと、こちらに体を向け、頭を下げた。
「すまなかった。見た目で判断するなど三下の所業だったにもかかわらず、私は、君たちの実力を見定めることすら出来なかった。数々の無礼、許して貰いたい……!!」
日本で言う土下座の勢いで謝ってきた彼にカイト達は顔を見合わせた。確かに失礼極まり無かったが、ここまでされて許さない程でも無い。それに、これから彼には協力して貰いたい事もある。
ユキも潔いアレクサンダーの様な人物は好ましいと感じていた為、許す事にした。
「いいよ、さっきぶん投げたし。だいぶすっきりした!」
その後はアレクサンダーが兵士達にカイト達の紹介をし、演習場を後にした。
「あぁ、アレク。この後用事あるか?無いなら昼食を食べて行かないか?」
「え、いや、リチャード様と食事を囲む等恐れ多い……」
いいからいいからとリチャードは自身のの部屋へと歩みを進めた。
「カイトの料理は絶品だ。君も食べたら驚くよ」
当たり前の様に彼が作る事になっていたが、正直城でエドガーの手が何処まで届いているのか分からなかった為、元々カイトは作るつもりではいた。
ただ、作る場所にも問題がある。厨房等は料理と同じ理由で使えない。一度宿に戻ろうと考えていたのだが。
「え?あぁ、私の部屋に簡易的な厨房があるよ。野営でも作れていたカイトなら十分な設備だと思うんだが……」
そう言って案内された場所は確かに十分な設備であった。正直日本での一般的なキッチンよりもずっと充実していた。冷蔵庫まで完備しているとなると、この部屋だけで生きていける。
これなら宿を取っておく必要も無いな、そう言うと、リチャードはアレクに宿の方の荷物とそのキャンセルを頼んだ。彼は了解し、部下に命令しに五分程部屋を出た。
食材はその荷物にもあるし、今も少し鞄に入っている。冷蔵庫を見ると新鮮な野菜も入っていた。
「それは安全だよ。私が保証する。そもそも兄上は私の部屋に厨房がある事すら知らないのだけどね」
何だか、お兄さんは随分と頭の回らない人なんだと思ってしまった。
そう言って、現れたのはリチャードと同じ金髪に、同じくらいの身長、ただ、彼程綺麗な人では無かった。顔は確かに整っているが、まるで中身の意地の悪さが滲み出てきた様にオーラが濁っていた。雰囲気がまるでリチャードと正反対で、見ていてもちっとも心が揺るがない。
あの、リチャードに会った時の衝撃が微塵も無いのだ。
あれが恐らく、第一王子、リチャードの兄であり、彼の命を脅かす張本人。エドガーなのだろう。
アレクサンダーはエドガーが見ていない所で物凄い嫌悪感を前面に押していた。
ユキはそれを見て目を丸くし、可笑しそうに笑って彼を立ち上がらせた。どうやら多少彼の事が気に入った様だ。
「お嬢さん、話によるとそこの愚弟に仕えているんだって?そんな貧相なやつ止めて、私に仕えれば良い。許可するぞ?」
まるでユキが彼の元に下りたいとでも言うような口振りだった。
「ごめんなさいねぇ、私、リチャード以外に仕える気ないの。他を当たって下さいな」
本来ならば殴りかかっているだろうに、流石に今彼に何かをすると面倒になると理解し、我慢してくれた。額の青筋が凄まじいが。
エドガーは一瞬信じられないと言うように驚愕し、顔を怒りで歪めた。彼女に怒鳴りつけるその時に、今まで黙っていたリチャードが口を開いた。
「兄上、私のものに手を出さないで頂きたい。彼女は既に私に永遠の忠誠を誓ってくれた身だ」
そう言ってユキとエドガーの間に入ると、エドガーを睨みつけた。酷く不快そうに顔を歪めた彼だったが、鼻で笑うと、まるで汚物を見るかのような目でリチャードを見つめた。
「何もできない役立たずが何を言う。貴様が持っていたら世の中の役に立たないだろう?有難く私が使ってやろうと言ってやったのにその意味すら分からない程オツムが足りていないのか?……ふんっ、まぁ良い。お前が居なくなったら有意義に使わせて貰うさ」
それはある意味、殺人宣告だった。
言葉の途中からユキの殺気が膨れ上がった。アレクサンダーを始め、何人もの兵士が彼女を見つめ震えていた。殺気を向けられている当の本人は全く気付いていないが。
しかし、何も兵士達が震えているのはユキのせいだけでは無い。確かに彼女の殺気で恐怖感が湧き上がったのは事実だが、もう一つ、殺気の発信元があった。
彼女の殺気が鋭く突き刺さる様なものならば、もう一つの殺気、カイトの殺気はまるで纏わり付くような、身体の芯にまで届き、内から理性を削ぎ落とされるようなものだった。
最後まで何も気付かず、誰にも反論され無かった為に上機嫌で演習場を去っていくエドガーを見つめた。
死にたいと強張り、狂うほどに辛い目に合わせる。だが、それは今じゃ無い。
ユリウスが声を上げた。ご飯の時間だ。
「……?どうした」
こちらを凝視するユキと、血の気の引いたアレクサンダーや兵士達の顔があった。
「いや、……久々に、カイトマジギレしたなって思って」
カイトはそこで初めて殺気が漏れている事に気付いた。リチャードだけが嬉しそうにこちらを見つめていた。
「悪い。きつかったか?…………何で笑ってるんだ?」
「ふふっ、私の為にそこまで怒ってくれた事が嬉しくてね」
そう言うと、アレクサンダーの方を見た。
「彼らが居れば心強いだろう?」
誇らしそうに笑う彼に何も言えず、カイトは小さく笑った。
アレクサンダーも神妙に頷くと、こちらに体を向け、頭を下げた。
「すまなかった。見た目で判断するなど三下の所業だったにもかかわらず、私は、君たちの実力を見定めることすら出来なかった。数々の無礼、許して貰いたい……!!」
日本で言う土下座の勢いで謝ってきた彼にカイト達は顔を見合わせた。確かに失礼極まり無かったが、ここまでされて許さない程でも無い。それに、これから彼には協力して貰いたい事もある。
ユキも潔いアレクサンダーの様な人物は好ましいと感じていた為、許す事にした。
「いいよ、さっきぶん投げたし。だいぶすっきりした!」
その後はアレクサンダーが兵士達にカイト達の紹介をし、演習場を後にした。
「あぁ、アレク。この後用事あるか?無いなら昼食を食べて行かないか?」
「え、いや、リチャード様と食事を囲む等恐れ多い……」
いいからいいからとリチャードは自身のの部屋へと歩みを進めた。
「カイトの料理は絶品だ。君も食べたら驚くよ」
当たり前の様に彼が作る事になっていたが、正直城でエドガーの手が何処まで届いているのか分からなかった為、元々カイトは作るつもりではいた。
ただ、作る場所にも問題がある。厨房等は料理と同じ理由で使えない。一度宿に戻ろうと考えていたのだが。
「え?あぁ、私の部屋に簡易的な厨房があるよ。野営でも作れていたカイトなら十分な設備だと思うんだが……」
そう言って案内された場所は確かに十分な設備であった。正直日本での一般的なキッチンよりもずっと充実していた。冷蔵庫まで完備しているとなると、この部屋だけで生きていける。
これなら宿を取っておく必要も無いな、そう言うと、リチャードはアレクに宿の方の荷物とそのキャンセルを頼んだ。彼は了解し、部下に命令しに五分程部屋を出た。
食材はその荷物にもあるし、今も少し鞄に入っている。冷蔵庫を見ると新鮮な野菜も入っていた。
「それは安全だよ。私が保証する。そもそも兄上は私の部屋に厨房がある事すら知らないのだけどね」
何だか、お兄さんは随分と頭の回らない人なんだと思ってしまった。
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