彼の人達と狂詩曲

つちやながる

文字の大きさ
9 / 84

ぬくもり

しおりを挟む
ずるずると体が引っ張られて伸びるのがわかった。伸縮しても基点が固定された場所になるから、掴まれた所に向かって縮むのが俺の弱点なんだ。伸びて伸びきって、もう無理だ。

シュッ!

「うおっ!」

びたん!

「は、はははは!痛えな、クソ」

ぶよぶよと黒シリコンもどきの塊の俺を持ち上げたのは人だった。

「モル、ただいま」

キングスだった。顔はしわが増えて髭も口を囲むラウンドになってたけど、これは間違いなくキングスだった。右のこめかみから頭に向かって大きな傷があったり少し痩せてたりしたけど。

目の前に、キングスのおっさん。

「お、おお?」

べちゃっ

俺は脱力して溶けキングスの手から滑り落ちた。シリコンから、片栗粉で作ったあんかけのあん位ゆるゆるな物になったのがわかった。
キングスを見たまま体中の水分が抜け出る感じがした。
実際、黒い体の周りに水のような液体が染み出てきて、段々体が小さくなっていたのだったが知る由もない。

「お、おおおお?!おいモル!水分!出すな出すな!縮んで無くなりそうだからストーップ!」

そうなの?どうやったら止まるのかな。
えーと、寿命かもしれないよ?

「消えるなよ!」

走って視界から消えたキングスは家の中をガタガタと、何か探していたと思ったら大きなタライを持って来た。そこに俺をポイって投げ入れた。

ぽちゃん

水入りだった。そこに滲み出た水分を、スクレーバーか何かですくっては必死に入れるキングス。俺は無意識に吸収してるようで、またぷにぷにと復活してきたようだった。

「はああぁ・・・モル、驚かすなよ」

それはこっちの台詞なんですが。生きてたんだね。俺は目をパチパチとしながら、ゆっくり触手を伸ばしてみた。キングスは微笑んでそれを見ていたけど、恐る恐るおっさんの頬を押してみた。成長したからか力加減がわからなくて押しすぎたようだ。めっちゃ頬がつり上がり頭が傾く程の力だったようです。

「おーいモル、押し過ぎだぞー」

ほんもの、だ。

「頭の怪我で混乱してなあ。家が分からなくなってたんだよ。頭に浮かぶのに道と場所が全然わからなくってさあ。流れで仕事して放浪してたらアイリと遇ってな。いい歳して迷子だから連れて帰ってもらったんだ。はは」

あご髭を擦りながらボヤくキングス。

「お前の事言ってたぞ。魔物が人の形になれるって。可愛くって驚いたってさ。魔物に取り付かれそうだって慌てて飛び出したんだと。あいつ堅物だからなあ」

アイリもちゃんと生きてたんだ。俺、可愛かったかな?前世のあれは美少年じゃ無かったはずなんだけどなあ。年齢が少年ってまずかったのかな。瞬きしてキングスを見る。

「雪に埋もれてるわ、裸だわ、可愛いわで驚いたぞ?」

タライの中の俺を指でつんつんしてから撫でた。まだ少し軟体なようで久しぶりに、ふよふよんと揺れたのがわかった。感覚機能は相変わらず無いのが勿体ないと思った。

ただカサカサになった武骨な手をみて暖かそうだなあと、いつまでも見つめていた。


「また犬っころでも人でもいいから、仲良く暮らそうなモル」


後日、驚いたり衝撃を受けすぎると防衛反応で水分を出し、最小になって逃走するのが本能だと本でわかったらしい。俺、ナマコみたいだなと思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...