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6 獏2
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彩香と尚夫妻が思わず耳を押さえた。霊獣の声とは思えない恐ろしいそれを聞いても、瑛景だけは平然としている。
ぼたり、と獏の口から黒いもやが流れ出る。
煙とも霧ともつかないそれは床には落ちず、重油のようにどろりと空を漂いながら、寝台の上へと這い寄っていく。
「静蘭!」
慧華が娘の名を呼ぶ。
黒いもやは、眠る静蘭の胸元に触れた途端、吸い込まれるようにして体内へと溶け込んでいった。
次の瞬間、静蘭のまつげがかすかに震える。
力なく閉じられていた唇が、ほんの少しだけ開いた。
「……お父さま……お母さま……たすけて……」
痛ましいほどに掠れた声。
それでも確かに聞こえた娘の言葉に、泰然と慧華の顔色が変わる。
「静蘭!」
「動かないでください」
寝台に縋りつきそうになる慧華を、彩香が止めた。
天井すれすれに浮かぶ獏は慧華をぎろりと睨むが、再び鎖に引き絞られ苦悶の声を上げる。
そしてまた、黒いもやが吐き出される。もやが静蘭の胸に吸い込まれるたび、彼女の顔はさらに苦しげに歪んでいった。
「獏は人の悪夢を食べてくれる、慈悲深い霊獣です」
彩香は泰然たちに向き直ることなく、獏と静蘭を見据えたまま言った。
「けれどあの鎖で縛られて、無理やり悪夢を吐き出させられています。……お嬢様の中に、延々と流し込まれる悪夢は蓄積して……恐らくは命までも蝕んでいます」
「そんなっ」
慧華が両手で顔を覆い、泰然がくずおれそうな妻を支える。
そんな夫妻の姿に何を思うのか、獏の目から大粒の涙が零れ落ちた。
「召喚獣という事は、召喚士の仕業か」
低く呟いたのは瑛景だった。彼は鎖の伸びる先をじっと見つめている。
「はい。あの鎖は、契約を組み替えるための術です。本来、夢を食べる獏を夢を吐き出す器に変えている。そんな無茶なことをされて、獏も傷ついているんです」
(悪夢を食べてくれる獏の力を、逆にするなんて……どれだけの術を組み替えたの?)
怒りを押し殺し、彩香は状況を分析する。
養父から教えられた数多くの符が、頭の中で駆け巡る。
「……どうすれば、獏を殺せる」
震える泰然の声に、彩香は首を横に振った。
「獏は狩りません」
「しかしこのままでは娘が!」
「お静かに。まずは、獏を捕らえている鎖を断ち切ります」
そう言って、彼女は筆先を再び紙へと滑らせた。
ぼたり、と獏の口から黒いもやが流れ出る。
煙とも霧ともつかないそれは床には落ちず、重油のようにどろりと空を漂いながら、寝台の上へと這い寄っていく。
「静蘭!」
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黒いもやは、眠る静蘭の胸元に触れた途端、吸い込まれるようにして体内へと溶け込んでいった。
次の瞬間、静蘭のまつげがかすかに震える。
力なく閉じられていた唇が、ほんの少しだけ開いた。
「……お父さま……お母さま……たすけて……」
痛ましいほどに掠れた声。
それでも確かに聞こえた娘の言葉に、泰然と慧華の顔色が変わる。
「静蘭!」
「動かないでください」
寝台に縋りつきそうになる慧華を、彩香が止めた。
天井すれすれに浮かぶ獏は慧華をぎろりと睨むが、再び鎖に引き絞られ苦悶の声を上げる。
そしてまた、黒いもやが吐き出される。もやが静蘭の胸に吸い込まれるたび、彼女の顔はさらに苦しげに歪んでいった。
「獏は人の悪夢を食べてくれる、慈悲深い霊獣です」
彩香は泰然たちに向き直ることなく、獏と静蘭を見据えたまま言った。
「けれどあの鎖で縛られて、無理やり悪夢を吐き出させられています。……お嬢様の中に、延々と流し込まれる悪夢は蓄積して……恐らくは命までも蝕んでいます」
「そんなっ」
慧華が両手で顔を覆い、泰然がくずおれそうな妻を支える。
そんな夫妻の姿に何を思うのか、獏の目から大粒の涙が零れ落ちた。
「召喚獣という事は、召喚士の仕業か」
低く呟いたのは瑛景だった。彼は鎖の伸びる先をじっと見つめている。
「はい。あの鎖は、契約を組み替えるための術です。本来、夢を食べる獏を夢を吐き出す器に変えている。そんな無茶なことをされて、獏も傷ついているんです」
(悪夢を食べてくれる獏の力を、逆にするなんて……どれだけの術を組み替えたの?)
怒りを押し殺し、彩香は状況を分析する。
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「……どうすれば、獏を殺せる」
震える泰然の声に、彩香は首を横に振った。
「獏は狩りません」
「しかしこのままでは娘が!」
「お静かに。まずは、獏を捕らえている鎖を断ち切ります」
そう言って、彼女は筆先を再び紙へと滑らせた。
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