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30 ダニエラ・おもちゃで遊びたいわね

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 この本に書かれている魔術は、短い呪文を唱えるだけで対象者に呪いをかけられる優れものだ。欠点があるとすれば呪う対象に触れなくてはならないのだが、それだけならどうにでもできる。

「この本、面白い魔術が沢山載ってるのよねー」

 無邪気に笑うダニエラは天使そのものだけれど、口から吐き出される言葉は恐ろしい内容だ。

「これは人間を豚に変えてしまうんですって。こっちは毒を飲んだように死んでしまう魔術なのよ。もしお姉様が戻ってきたら、私も魔術を使えるんだって教えてあげようと思うの。きっと驚くわ……驚きすぎて、死んじゃったりして」
「ダニエラお嬢様。流石にそのような魔術を使うのは……」
「なに?」

 折角楽しい気分になっていたのに、水を差したメイドをダニエラは睨み付ける。

「お前に試してもいいのよ」
「申し訳ございません」
「貴方たち、この事を口外したらどうなるか、分かるわよね? 言っておくけど、この魔術書を使えるのは私とお母様だけなの。他人が魔術書に触れると、手が爛れて死ぬんですって」

 魔術書を使うには契約が必要なのだとあの男は言った。生け贄と、契約する者の血が必要なのだと、用心棒達から散々に殴られて瀕死の男は呻きながら全てを話して助けを乞うた。

 勿論、母も用心棒達も男を許すことなく、金になりそうなものは全て取り上げ路地裏に放置した。ダニエラも彼らと共に暴行に加わり、屈強な用心棒達から褒められた。あの日のことは、今でもダニエラの最高に楽しい思い出として心に刻まれている。

(あのぼろきれのような男の腹を蹴り上げた時の感触、最高だったわ。アリシアお姉様も蹴ったら、ヒキガエルみたいな声を上げるのかしら?)

 母エリザは生け贄として魔術師を殺すと、自らとダニエラの指先をナイフで薄く切りその血を混ぜて教わったとおりの儀式を行った。

(お母様が与えてくださったチャンスを、私は何としてでも生かさないと。まあそれとは別に、ちょっとおもちゃで遊ぶくらいはいいわよね)

 既に今の国王には妃がおり、夫婦仲は非常に良いと評判だった。付け入る隙がないと悟ったエリザは、すぐに標的をレンホルム公爵へと変えたのである。
 読みはまんまと当たり、妻のレアーナがお人好しであったことも幸いしてエリザは簡単に後妻の座を手に入れて今に至るのだ。

「お嬢様、そろそろ夜会の準備を……」
「あら、もうそんな時間? 早くマレクに会いに行かなくちゃ。あの人、私がいないと何もできないんですもの」

 魔術書を引き出しにしまうと、ダニエラは夜会用のドレス選びを始めた。

「とこで最近、お父様を見かけないけれど。また魔獣狩り?」
「実は……」
「ふうん」

 メイドの一人に耳打ちされ、ダニエラは少し考える。だがすぐ気持ちを切り替えた。

(使えない男だし、マレクとの婚礼が終わったら用済みね)
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