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47 昔々のお話しです

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「昔々大昔、って程じゃないけど。この大陸は全土で戦乱が起こった。全ての国が荒廃し、滅びる寸前まで追い詰められた」
「酷い戦争だったと、歴史の教科書で読みました」

 貴族の子女であれば知っていて当然の知識だ。けれどアリシアの記憶にはなく、ヨゼフから魔術を習う合間に、基礎的な勉強で教えてもらった内容だ。
 領土を巡る争いはこの大陸全土に広がり長く続いた。
 国土は荒れ、作物など作る余裕もなく民は疲弊する。
 多くの犠牲が出てもなお戦いを止めない諸国の王達に、痺れを切らした一部の王が立ち上がった。

「その一人が、俺の爺さん。ロビス・ロワイエだ」

 まずロワイエ国、ラサ皇国など、魔術に特化した国々が立ち上がる。
 魔術を国の基礎としていた少数の国は、元々平和路線だったので足並みは揃っていた。
 どの国も消耗戦に疲れ切っていたので、説得は概ね順調に進んだ。領土に関しては多少揉めはしたが、最終的には全ての国が終戦に同意する。

「けれどどこが主導権を握るかが問題になった。そこでロワイエのような「害のない国」が和平協定の条文を製作する事になった」
「ロワイエ国は確か、他国には攻め入らなかったのですよね」
「そう、あくまで元々あった領土の維持に留めた。――傭兵も基本的には戦闘参加ではなく、魔術の指導だったらしい」

 ポーションを含め医療技術も発達していた魔術国家は、衛生兵としての役割を求められた。

「だが一つの国が大陸全土を監視するのは無理だ。そこで西方はラサ皇国、東はロワイエ国といったように魔術の盛んな国を中心として、和平協定が結ばれたんだ」

 この国で調印式が行われ、ロビスは「東方諸国で二度と戦争は起こさない」と宣言する。

「そこに至るまでに、様々な大魔術を使ったことで爺さんには「大魔術師」のあだ名がついたのさ」

 けれど殆どの国は、祖父の魔術を見聞きしても面倒だからと言う理由で魔術を捨てた。

「魔術が廃れたのは効率とか、王族の妬みだけが原因じゃない」

 多くの王族連中が自分の適性を棚に上げて憎んだけど、それでも戦争の初期は魔術師が必要だった。
 特に火の魔術は重宝されたと聞く。しかし次第に、魔術を学ぶ時間を彼らは惜しむようになる。
 結果として基礎訓練もなしに、新人魔術師は戦場へ送り出される。適当な術しか使えない兵士が増えて実戦で役に立たないとなれば、厄介者扱いされて当然だ。

「基礎魔術でそんな状況だから、時間のかかる大魔術が倦厭されるのも仕方ない……今じゃ魔術国家でも大魔術を探求する者は減る一方。特に君がやろうとしている召喚魔術は、ロワイエだとヨゼフ師匠くらいしか手を出そうとしない。俺も爺さんが使った大魔術を残したいと思っているけど。いまは自分の仕事で手一杯だからね」
「その件なんですが、実はもう一つ隠し事をしてるんです……」

 おずおずとアリシアは切り出す。

「まさか、召喚魔術を成功させたのか」
「はい」
「これから新しい魔術を試すときは事前に相談してくれ」
「そうですわね。ヨゼフ先生とマリーに叱られてしまいますものね」
「それもあるが、万が一が怪我でもしたらと思うと……」

 はあ、と再び大きなため息を吐くエアリスに、アリシアは申し訳無く感じる同時に、これだけ自分を心配してくれる彼を嬉しく思う。

「ありがとうございます」

 母やマリー達とも違う優しさは、なんだか胸の奥がくすぐったくなる。

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