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第9章:王都ー教会編
9-3. ラルム教の大聖堂に入る。俺は教会建築に圧倒される
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司教に導かれて聖女候補たちが聖堂の中に入っていく。
(……えっと。俺も入るのか? 外で待っていればいいのか?)
聖堂の正面は広場になっており、敷地は塀で囲まれていて、それに沿って樹木が植えられている。その木陰に、待ちあわせをしているのか、ちらほらと人影がある。
俺もあの集団のように、どこかで待っている?
メイが近寄ってきて俺の袖を引っ張ってきたから、とりあえずついて行く。
短い階段を上り、聖堂の中に入るとき、扉を支えている僧侶が俺の存在に気づいたが何も言わないから、このまま中に入っていいのだろう。
明るい屋外から暗い屋内に入り視界が闇にのまれるが、数歩進むと突如、色鮮やかな光に包まれた。
床が虹のように煌めいている。思わず立ち止まり、振り返って見上げると、入り口上部の壁面に女神が浮かびあがっていた。色硝子だ。本当にそこに女神が実在し、翼で本当に飛んでいるかのようだ。
僧侶達が入り口の扉を閉めて聖堂内の闇が深まると、女神はますます鮮烈に輝きを放ち、暖かな光で俺の全身を抱く。
言葉を失った俺は、気づいたら口を半開きにして放心しかけていた。なるほど。建物自体が南を向いていて、日の光が色硝子に当たるようにしてあるんだ。
それが、聖堂内を数歩進んでから気づくような角度にしてある。僧侶たちも、それを心得たタイミングで扉を閉じた。
地球でも同じような光景が人々の心や胸を照らしているのかもしれないが、海外を観光旅行したことのない俺にとって、初めて見る光景だった。
異世界で、こんな美しく荘厳な物を見ることができるとは……。
いや、この感じ方は良くない。優れた文明世界から転生してきた俺は、内心で驕っていたのかもしれない。俺は聖堂を設計した職人や見知らぬガラス職人に敬意を払わなければ。
感動したのは俺だけではなかったらしく、メイ、ソフィア、サリナも立ち止まって振り返り、虹色の女神を仰ぎ見ていた。
これは俺の回想シーンだから言えることなんだが、なんというか、現地民はこの聖堂建築の光の中に確かに神を見ただろう。だからこそ、魔族を倒す聖戦に参加しろと言われたら、それを己の宿命と確信し、宗教的熱狂を身に抱いたに違いない。
洗脳されたというと大げさだが、俺はここで、女神が偉大な存在でそれに仇なす魔族は倒すべき悪、という意識を少なからず植えつけられたと思う。それはしょうがないことだと思う。
母さんと一緒に暮らすための財産を得たいだけという旅の目的に、魔族を倒すという目的が、懐を狙うスリの手のように音もなくそっと滑りこんできた。
俺たちが立ち止まるのは想定どおりだったらしく、先導する司教は待っていた。
俺たちが体の向きを直すと、司教はにこりと笑い「さあ、こちらに」と穏やかに歩き始めた。
俺は安堵のため息をついた。司教が俺に気づいたけど出ていけとは言わなかった。これで俺も中に進んでいいこと確定だ。
聖堂の中は大きな柱が点在するが、がらんとしていた。横長の木製ベンチが並んではいない。信者は床に跪くのだろうか。
何をしているのかは分からないが、ぼうっと突っ立っている僧侶と2、3人ほどすれ違った。
「大司教様をお連れいたします。しばらくお待ちください」
俺たちを先導した司教は祭壇――一段高いところにある教卓みたいな場所――の前に到着すると、右手の通路へと去って行く。
祭壇奥の壁には女神の像が立ち、その上に十字架がかけられている。十字架は、俺のおぼろげな記憶にある地球の物とはやや形状が違う。十字をしているのだが、形状は剣に近い。
メイとソフィアとサリナは待つ間、聖堂の雰囲気に呑みこまれていたのか無言だった。
脇役として3人の後ろに待機している俺も当然、無言だ。
しばらくすると、先ほどの司教と他の者を後ろに引き連れて、背の曲がった老人がゆっくりとやってきた。間違いなく、俺が見た中では、彼がこの世界の最高齢だ。
つやのある白地の服の右肩から青い帯が掛けられている。彼が大司教だろう。白く長い顎ひげは、司教服のみぞおちあたりまでたれている。
大司教は若い僧侶の手を借りて講壇の上に登った。司教も壇上に上がり、教卓のような台から、七宝細工で装飾された赤い箱を取りだした。
司教が講壇を降りた後、大司教が何かを小さく唱えてから箱を開け、中から地球儀のような道具を取りだした。台座の上に球体が浮いており、その内側にオーロラを閉じ込めたような光が回転している。
初めて見たのに、見たことある。あれが、触れたらスキル名が出てくる水晶だ。
(……えっと。俺も入るのか? 外で待っていればいいのか?)
聖堂の正面は広場になっており、敷地は塀で囲まれていて、それに沿って樹木が植えられている。その木陰に、待ちあわせをしているのか、ちらほらと人影がある。
俺もあの集団のように、どこかで待っている?
メイが近寄ってきて俺の袖を引っ張ってきたから、とりあえずついて行く。
短い階段を上り、聖堂の中に入るとき、扉を支えている僧侶が俺の存在に気づいたが何も言わないから、このまま中に入っていいのだろう。
明るい屋外から暗い屋内に入り視界が闇にのまれるが、数歩進むと突如、色鮮やかな光に包まれた。
床が虹のように煌めいている。思わず立ち止まり、振り返って見上げると、入り口上部の壁面に女神が浮かびあがっていた。色硝子だ。本当にそこに女神が実在し、翼で本当に飛んでいるかのようだ。
僧侶達が入り口の扉を閉めて聖堂内の闇が深まると、女神はますます鮮烈に輝きを放ち、暖かな光で俺の全身を抱く。
言葉を失った俺は、気づいたら口を半開きにして放心しかけていた。なるほど。建物自体が南を向いていて、日の光が色硝子に当たるようにしてあるんだ。
それが、聖堂内を数歩進んでから気づくような角度にしてある。僧侶たちも、それを心得たタイミングで扉を閉じた。
地球でも同じような光景が人々の心や胸を照らしているのかもしれないが、海外を観光旅行したことのない俺にとって、初めて見る光景だった。
異世界で、こんな美しく荘厳な物を見ることができるとは……。
いや、この感じ方は良くない。優れた文明世界から転生してきた俺は、内心で驕っていたのかもしれない。俺は聖堂を設計した職人や見知らぬガラス職人に敬意を払わなければ。
感動したのは俺だけではなかったらしく、メイ、ソフィア、サリナも立ち止まって振り返り、虹色の女神を仰ぎ見ていた。
これは俺の回想シーンだから言えることなんだが、なんというか、現地民はこの聖堂建築の光の中に確かに神を見ただろう。だからこそ、魔族を倒す聖戦に参加しろと言われたら、それを己の宿命と確信し、宗教的熱狂を身に抱いたに違いない。
洗脳されたというと大げさだが、俺はここで、女神が偉大な存在でそれに仇なす魔族は倒すべき悪、という意識を少なからず植えつけられたと思う。それはしょうがないことだと思う。
母さんと一緒に暮らすための財産を得たいだけという旅の目的に、魔族を倒すという目的が、懐を狙うスリの手のように音もなくそっと滑りこんできた。
俺たちが立ち止まるのは想定どおりだったらしく、先導する司教は待っていた。
俺たちが体の向きを直すと、司教はにこりと笑い「さあ、こちらに」と穏やかに歩き始めた。
俺は安堵のため息をついた。司教が俺に気づいたけど出ていけとは言わなかった。これで俺も中に進んでいいこと確定だ。
聖堂の中は大きな柱が点在するが、がらんとしていた。横長の木製ベンチが並んではいない。信者は床に跪くのだろうか。
何をしているのかは分からないが、ぼうっと突っ立っている僧侶と2、3人ほどすれ違った。
「大司教様をお連れいたします。しばらくお待ちください」
俺たちを先導した司教は祭壇――一段高いところにある教卓みたいな場所――の前に到着すると、右手の通路へと去って行く。
祭壇奥の壁には女神の像が立ち、その上に十字架がかけられている。十字架は、俺のおぼろげな記憶にある地球の物とはやや形状が違う。十字をしているのだが、形状は剣に近い。
メイとソフィアとサリナは待つ間、聖堂の雰囲気に呑みこまれていたのか無言だった。
脇役として3人の後ろに待機している俺も当然、無言だ。
しばらくすると、先ほどの司教と他の者を後ろに引き連れて、背の曲がった老人がゆっくりとやってきた。間違いなく、俺が見た中では、彼がこの世界の最高齢だ。
つやのある白地の服の右肩から青い帯が掛けられている。彼が大司教だろう。白く長い顎ひげは、司教服のみぞおちあたりまでたれている。
大司教は若い僧侶の手を借りて講壇の上に登った。司教も壇上に上がり、教卓のような台から、七宝細工で装飾された赤い箱を取りだした。
司教が講壇を降りた後、大司教が何かを小さく唱えてから箱を開け、中から地球儀のような道具を取りだした。台座の上に球体が浮いており、その内側にオーロラを閉じ込めたような光が回転している。
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