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第4章 ケース3:みなみな私のもの
第30話 怖いよ
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春山は何度見ても春山だった。一目見ただけですぐにそうだと分かったけど何度見ても同じだった。
今この時間が夢なのかと思う……。患者の夢の状態をチェックするパソコンの前に春山と並んで座る凛太はドキドキしていた。しかもそのドキドキは元々覚悟をしていた悪夢への恐怖のドキドキではない。
恋の予感のドキドキだった。
「草部君は今日で一週間。シフトに入るのは3回目?」
「いや、今日で4回目かな」
「そうなんだ。じゃあちょっとだけ慣れたくらいか」
「うん。まあ」
「この部屋でパソコン見てるの面白いよね。なんか賢い医者になったみたいで」
春山がパソコンに映る波形を指差して笑う。凛太はこれではまるで2人で仲良く映画鑑賞をする恋人ではないかと心の中で悶えた。
その燃え上がる感情を頭で制御して押し殺し、自然に会話を続ける。
「春山さんはここのバイトいつからやってるの?」
「私は……その……実は大学入学当初からずっとやってるよ」
「マジで?1年のときからか」
「うん。大学生になったらすぐバイト始めたかったし」
「それにしても……何というかよくこんなとこ選んだね。まあ俺もここ選んで来たんだけどさ」
この前まで早く時間が過ぎてくれないかとか、帰りたいと考えながら過ごしていた部屋が幸せな空間だった。
「でもほんと知らなかったな春山さんがこんなところでバイトしてたの」
「……秘密にしてたからね。本当に仲いい友達には言ってたけど、その子にも他に言わないでって頼んでたし」
「それは院長に悪夢治療のこと人に話すなって言われたから?」
「あ、草部君もやっぱり言われたんだそれ。まあそれもあるけど……単純に変なバイトだから恥ずかしいというか……とにかくさ草部君も私がここでバイトしてるの秘密にして」
「ああ。うん」
「私も草部君のこと他の人に言わないから。お互いに2人だけの秘密ね」
その、恥ずかし気な表情と「2人だけの秘密」という言葉で凛太は春山に惚れ直した。少しあざといとさえ思うが気にならない。凛太の心が喜んでいた。
しかし馬場はこのことをどこまで知っているんだろうか。バイトをやめてもいい1週間後に思いを寄せている春山と一緒なんて、もしも把握していて狙っているのであれば凄すぎる。
けれど、さすがにそんなことはありえないか。自分の個人情報まで知っているはずがない。
その後も凛太と春山は他愛もない雑談を続けた。最近のニュースについてだとか、大学の友人がこの前どうだったとか。その中で凛太は最も気になっていることをずばり聞いた。
「――でもさ、春山さんは怖くないの?こんなバイト」
「草部君は?」
「俺はまあ……正直怖い思いしてるかな」
悪夢が怖いだなんて言うと格好悪いとも思ったが凛太は正直に答えた。嘘をついてもすぐにばれるかもれないし、怖いものは怖い。
「もうなんかすごい怖い悪夢あった?」
「どれくらいから怖い悪夢に分類されるのか分かんないけどあったかな」
「そっか。……私もね……怖いよ」
少し声を小さくしてかすれさせながら春山は言った。行った後は唇を軽く噛んでうつむく。
不意に緊張感を漂わせるような雰囲気で春山が言うものだから凛太もすぐに次の言葉が出なかった。
そして、その時ちょうど悪夢を知らせる赤い光が点灯した。
今この時間が夢なのかと思う……。患者の夢の状態をチェックするパソコンの前に春山と並んで座る凛太はドキドキしていた。しかもそのドキドキは元々覚悟をしていた悪夢への恐怖のドキドキではない。
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「うん。まあ」
「この部屋でパソコン見てるの面白いよね。なんか賢い医者になったみたいで」
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「うん。大学生になったらすぐバイト始めたかったし」
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この前まで早く時間が過ぎてくれないかとか、帰りたいと考えながら過ごしていた部屋が幸せな空間だった。
「でもほんと知らなかったな春山さんがこんなところでバイトしてたの」
「……秘密にしてたからね。本当に仲いい友達には言ってたけど、その子にも他に言わないでって頼んでたし」
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「あ、草部君もやっぱり言われたんだそれ。まあそれもあるけど……単純に変なバイトだから恥ずかしいというか……とにかくさ草部君も私がここでバイトしてるの秘密にして」
「ああ。うん」
「私も草部君のこと他の人に言わないから。お互いに2人だけの秘密ね」
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けれど、さすがにそんなことはありえないか。自分の個人情報まで知っているはずがない。
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「草部君は?」
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「そっか。……私もね……怖いよ」
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そして、その時ちょうど悪夢を知らせる赤い光が点灯した。
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