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第4章 ケース3:みなみな私のもの
第38話 痙攣
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春山に前を走らせて廊下を抜け、階段を上る――。背筋に悪寒を走らせながら。
とにかくひたすらで取った行動だった。どう逃げるかも分からないけどあれから離れないと。
春山が階段を上った先で、さっきまでいた赤い光の部屋に入ったので凛太もそうした。入ると同時にドアを閉めて背中で抑える。
次に逃げるための次の道を探す――。この部屋から別の場所に行ける道は窓だけ。
春山は芋虫を抱きかかえながらしゃがみ、凛太の背中にあるドアを不安な目で見ていた。
俺が、俺が何とかしないと。
そう思いながらも凛太もドアを抑える手が小刻みに震えてしまっていた。今あの女子中高生から霊に変わった女は自分たちを追ってきているのか。
ドアの向こうから足音は聞こえない。ただ自分のはねた鼓動の音だけが嫌というほど耳まで伝わってくる。
「春山さんっ。なにが起こってるか分かる?」
「分かんない。ごめん……私にも分からない」
何かがおかしくなっている。間違ったことが起こっている。それは分かっているけど、じゃあ一体どこからが間違いでおかしくなったのか。
この家に入ったことか、夢の中に入ったことか、それとももっと前からおかしなことが起きていたのか。春山にも分かっていない。
「落ち着こう。何が起こってもここは夢の中だから現実の俺たちが死ぬことは無い。」
春山に言いながらも自分に言い聞かせる言葉だった。前からそうだが、ここまで現実と一緒の感覚があると、本当にここが夢なのか疑ってしまう瞬間がある。
敵の出方が分からない。霊はいったいあの後、どうした。襲い掛かろうとしていたのに、一緒に家には入ってこなかったのか。最後まで後ろを確認していれば良かった。
あの姿を見たところ、次の瞬間には部屋の中に現れる恐れもある。幽霊なんてのは決まって神出鬼没なものだ。
凛太はこのままじゃどうしようもないので、背中のドアを開けてみることにした。もし霊がいたらすぐに窓から脱出する。そう決めて。
重心を後ろめに持っていって、いつでも逃げれる状態で開くドア。手も入れられないほどのほんの少しだけ開いた。
――すぐ正面には誰もいない。廊下にも階段のほうにも。凛太は思い切って階段のところまで戻っていった。敵の位置を確認する。
そもそも敵なのか。状況を整理したい。
さっきまでの何倍も怖い暗い家の探索。息を潜めようとし過ぎて呼吸が止まってしまう。視線を少しずらすだけでも覚悟と勇気がいる。今大きな音でもすれば心臓が張り裂けそうだ。
階段を下りていくと、思いのほかすぐに女子中高生の姿は見つかった。霊ではなく女子中高生。さっき姿を変えた彼女は家の玄関に立っていた。急でもなく、凛太のほうから見つけられた。
「ねえ。何で逃げるんですか?何してるんですかあなたたち?」
声も普通に戻っていた。
「私、殺してくださいって言いましたよね。お願いしましたよね。何してるんですか。早く殺してください」
「ちょ……ちょっと落ち着こう。今君は正常だよね。近づいても大丈夫だよね」
「……そんなことどうだっていい。早くさっきの奴殺してください」
凛太は近づこうとしたけれど、一歩だけしか近寄れなかった。姿も声も戻っているにもかかわらず。
「僕たち……なんかこの夢に違和感があって……よかったらもっと詳しく事情が聞きたいんだけど」
「はぁやぁ……くぅ。殺してっていってんだろうが。ああ……だめだ。我慢できない」
女子中高生の両腕が痙攣し始めた。その響きはどんどん大きくなっていき全身が震え始める。
「殺して……殺して……殺して……殺して……殺して……殺して……」
そう唱える女子中高生の体からは聞いたことが無い量の関節音が聞こえていた。関節が軋み、骨が折れたかのような大きな音も交じりながら止め処なく凄い早さで繰り返される。体が悲鳴を発しているように。
それが終わるころには霊に戻った。今度はもっとおぞましい姿で。顔、手足……見えている範囲の手足には無数の血管が濃く浮き出ている。
凛太はその変化の間もそれから目が離せなかった。
とにかくひたすらで取った行動だった。どう逃げるかも分からないけどあれから離れないと。
春山が階段を上った先で、さっきまでいた赤い光の部屋に入ったので凛太もそうした。入ると同時にドアを閉めて背中で抑える。
次に逃げるための次の道を探す――。この部屋から別の場所に行ける道は窓だけ。
春山は芋虫を抱きかかえながらしゃがみ、凛太の背中にあるドアを不安な目で見ていた。
俺が、俺が何とかしないと。
そう思いながらも凛太もドアを抑える手が小刻みに震えてしまっていた。今あの女子中高生から霊に変わった女は自分たちを追ってきているのか。
ドアの向こうから足音は聞こえない。ただ自分のはねた鼓動の音だけが嫌というほど耳まで伝わってくる。
「春山さんっ。なにが起こってるか分かる?」
「分かんない。ごめん……私にも分からない」
何かがおかしくなっている。間違ったことが起こっている。それは分かっているけど、じゃあ一体どこからが間違いでおかしくなったのか。
この家に入ったことか、夢の中に入ったことか、それとももっと前からおかしなことが起きていたのか。春山にも分かっていない。
「落ち着こう。何が起こってもここは夢の中だから現実の俺たちが死ぬことは無い。」
春山に言いながらも自分に言い聞かせる言葉だった。前からそうだが、ここまで現実と一緒の感覚があると、本当にここが夢なのか疑ってしまう瞬間がある。
敵の出方が分からない。霊はいったいあの後、どうした。襲い掛かろうとしていたのに、一緒に家には入ってこなかったのか。最後まで後ろを確認していれば良かった。
あの姿を見たところ、次の瞬間には部屋の中に現れる恐れもある。幽霊なんてのは決まって神出鬼没なものだ。
凛太はこのままじゃどうしようもないので、背中のドアを開けてみることにした。もし霊がいたらすぐに窓から脱出する。そう決めて。
重心を後ろめに持っていって、いつでも逃げれる状態で開くドア。手も入れられないほどのほんの少しだけ開いた。
――すぐ正面には誰もいない。廊下にも階段のほうにも。凛太は思い切って階段のところまで戻っていった。敵の位置を確認する。
そもそも敵なのか。状況を整理したい。
さっきまでの何倍も怖い暗い家の探索。息を潜めようとし過ぎて呼吸が止まってしまう。視線を少しずらすだけでも覚悟と勇気がいる。今大きな音でもすれば心臓が張り裂けそうだ。
階段を下りていくと、思いのほかすぐに女子中高生の姿は見つかった。霊ではなく女子中高生。さっき姿を変えた彼女は家の玄関に立っていた。急でもなく、凛太のほうから見つけられた。
「ねえ。何で逃げるんですか?何してるんですかあなたたち?」
声も普通に戻っていた。
「私、殺してくださいって言いましたよね。お願いしましたよね。何してるんですか。早く殺してください」
「ちょ……ちょっと落ち着こう。今君は正常だよね。近づいても大丈夫だよね」
「……そんなことどうだっていい。早くさっきの奴殺してください」
凛太は近づこうとしたけれど、一歩だけしか近寄れなかった。姿も声も戻っているにもかかわらず。
「僕たち……なんかこの夢に違和感があって……よかったらもっと詳しく事情が聞きたいんだけど」
「はぁやぁ……くぅ。殺してっていってんだろうが。ああ……だめだ。我慢できない」
女子中高生の両腕が痙攣し始めた。その響きはどんどん大きくなっていき全身が震え始める。
「殺して……殺して……殺して……殺して……殺して……殺して……」
そう唱える女子中高生の体からは聞いたことが無い量の関節音が聞こえていた。関節が軋み、骨が折れたかのような大きな音も交じりながら止め処なく凄い早さで繰り返される。体が悲鳴を発しているように。
それが終わるころには霊に戻った。今度はもっとおぞましい姿で。顔、手足……見えている範囲の手足には無数の血管が濃く浮き出ている。
凛太はその変化の間もそれから目が離せなかった。
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