39 / 45
第4章 ケース3:みなみな私のもの
第39話 きづき
しおりを挟む
たぶん……もう変化終わった。それでも凛太は動かなかった。
今回は怖いものを見たくないのに見てしまうというものじゃなくて、動かなかった。変化を終えた霊はものすごい形相でこちらを睨みつけている。けれど、襲ってはこなかった。だから、凛太は動かなかった。
ある程度距離は離れている。あれが少しでも近づいてくればすぐに自分は逃げるだろう……けれどいっそ一思いに殺してほしいという気持ちもある。死ねば夢が覚めて、ここから逃れられる。この霊なら一瞬で殺してくれそうだ。
「やめましょう……落ち着いてください。まだ声は届いてるんですか?」
凛太は言いながら、後ろの階段をちらりと見て確認した。瞬時に階段に足をかけられるように。
もう霊が動き出す前に逃げようか……。
「今すぐ……さっきの芋虫を持ってこい。じゃないと、あなたも殺す」
どうせ、応答しないと思っていたが霊は返事をした。
「え…………あ、じゃあ俺持ってきますよ。そしたら……あのこれって夢じゃないですか。だから、僕たちには手を出さないで帰してほしいです」
「早く……しろ」
同意とみていいのか分からないほどだが霊は頷いた。その声は喉を締め付けているような掠れた声。年老いた女性の声にも聞こえる。見た目も無数の血管が皺のようにも見えて、まるでやまんばだ。
思いの外見逃されてしまった。死を経験する覚悟もしたのに。それならば……凛太はさっさとその場から離れる。
凛太はそれでいいじゃんと思った。あの霊はとにかく芋虫を殺したがっているみたいで、誰でも彼でもという訳ではない。
「春山さん。その芋虫、やっぱり殺そう」
赤い光の部屋に戻った凛太は提案した。春山はまだ身を縮めていて、凛太が部屋に入った時も肩を浮かせた。
「なんだか知らないけどあいつはとにかくそいつを殺したがってる。この夢がおかしいのは一旦置いといて俺たちの安全を確保しよう。なにがどうなってるのか話し合うのもそれからでいい」
「だめ……」
「何で。あいつはもっとやばい姿になってるよ。いつ襲ってくるかも分からない」
「だって、この子泣いてるよ」
「え」
「助けてほしいってそう言ってる気がする」
春山の手の中で涙を流す芋虫の目。春山の手から雫が流れ落ちる。
しかし、凛太はそれを見ても春山と同じ感想を抱かなくて、正直気持ち悪かった。
「これは私の勘だけど、私にはこの子を殺せない」
純粋で真面目であるが故に、年を重ね賢しくなった自分では全く理解できない感覚があって、理解できないことを言う。
春山は震えながらも芋虫を守ろうという姿勢を見せた。
「できれば、そうしてあげたいけど、あいつ上ってくるよ。そうしたらどうするの。たとえ夢でも君が殺されるなんて俺は嫌だ」
「……上ってこないじゃん」
「……たしかに」
凛太はありのままを言った春山の言葉に、そういえばと納得させられた。さっきの様子だとすぐに痺れを切らしそうなのに静かだった。気付かされて、ハッとすると急に心に余裕ができる。
あんな弱弱しい芋虫を殺したいなら、自分でやればいいじゃないか。あの殺意なら自分達よりも簡単に殺せる。
あいつ、ここに上ってこれないんじゃないのか。
今回は怖いものを見たくないのに見てしまうというものじゃなくて、動かなかった。変化を終えた霊はものすごい形相でこちらを睨みつけている。けれど、襲ってはこなかった。だから、凛太は動かなかった。
ある程度距離は離れている。あれが少しでも近づいてくればすぐに自分は逃げるだろう……けれどいっそ一思いに殺してほしいという気持ちもある。死ねば夢が覚めて、ここから逃れられる。この霊なら一瞬で殺してくれそうだ。
「やめましょう……落ち着いてください。まだ声は届いてるんですか?」
凛太は言いながら、後ろの階段をちらりと見て確認した。瞬時に階段に足をかけられるように。
もう霊が動き出す前に逃げようか……。
「今すぐ……さっきの芋虫を持ってこい。じゃないと、あなたも殺す」
どうせ、応答しないと思っていたが霊は返事をした。
「え…………あ、じゃあ俺持ってきますよ。そしたら……あのこれって夢じゃないですか。だから、僕たちには手を出さないで帰してほしいです」
「早く……しろ」
同意とみていいのか分からないほどだが霊は頷いた。その声は喉を締め付けているような掠れた声。年老いた女性の声にも聞こえる。見た目も無数の血管が皺のようにも見えて、まるでやまんばだ。
思いの外見逃されてしまった。死を経験する覚悟もしたのに。それならば……凛太はさっさとその場から離れる。
凛太はそれでいいじゃんと思った。あの霊はとにかく芋虫を殺したがっているみたいで、誰でも彼でもという訳ではない。
「春山さん。その芋虫、やっぱり殺そう」
赤い光の部屋に戻った凛太は提案した。春山はまだ身を縮めていて、凛太が部屋に入った時も肩を浮かせた。
「なんだか知らないけどあいつはとにかくそいつを殺したがってる。この夢がおかしいのは一旦置いといて俺たちの安全を確保しよう。なにがどうなってるのか話し合うのもそれからでいい」
「だめ……」
「何で。あいつはもっとやばい姿になってるよ。いつ襲ってくるかも分からない」
「だって、この子泣いてるよ」
「え」
「助けてほしいってそう言ってる気がする」
春山の手の中で涙を流す芋虫の目。春山の手から雫が流れ落ちる。
しかし、凛太はそれを見ても春山と同じ感想を抱かなくて、正直気持ち悪かった。
「これは私の勘だけど、私にはこの子を殺せない」
純粋で真面目であるが故に、年を重ね賢しくなった自分では全く理解できない感覚があって、理解できないことを言う。
春山は震えながらも芋虫を守ろうという姿勢を見せた。
「できれば、そうしてあげたいけど、あいつ上ってくるよ。そうしたらどうするの。たとえ夢でも君が殺されるなんて俺は嫌だ」
「……上ってこないじゃん」
「……たしかに」
凛太はありのままを言った春山の言葉に、そういえばと納得させられた。さっきの様子だとすぐに痺れを切らしそうなのに静かだった。気付かされて、ハッとすると急に心に余裕ができる。
あんな弱弱しい芋虫を殺したいなら、自分でやればいいじゃないか。あの殺意なら自分達よりも簡単に殺せる。
あいつ、ここに上ってこれないんじゃないのか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/17:『うしろまえ』の章を追加。2026/2/24の朝頃より公開開始予定。
2026/2/16:『おちば』の章を追加。2026/2/23の朝頃より公開開始予定。
2026/2/15:『ねこ』の章を追加。2026/2/22の朝頃より公開開始予定。
2026/2/14:『いけのぬし』の章を追加。2026/2/21の朝頃より公開開始予定。
2026/2/13:『てんじょうのかげ』の章を追加。2026/2/20の朝頃より公開開始予定。
2026/2/12:『れいぞうこ』の章を追加。2026/2/19の朝頃より公開開始予定。
2026/2/11:『わふく』の章を追加。2026/2/18の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる