44 / 45
第4章 ケース3:みなみな私のもの
第44話 絶望的な感触
しおりを挟む
赤い部屋の壁はあっけなく突破された。夢の中だからか現実の壁が崩れるのとは違って見えた。大きな音と共に壁全体に渡るひびが入って、その後は組み立てた積木のパーツを1つ抜いたときのようにバラバラに崩れていった。
そこからは足を踏み入れて入ってきていた。霊が。後ろから月明かりを受けて、ただ立っている。
「春山さん。行って」
春山はさっきまでとは違い、すぐに凛太の横で身構えることができていた。守るものができたからか。だから、凛太は逃げるように促した。
急ぐ足音が遠ざかる。霊はまだ動かない。
凛太は霊の動きに注意しながら、一歩前に出てしゃがむ。指を床に付けたままそ、そっと腕を伸ばし、一応そこに落ちていた木の棒を掴んだ。最初に家に入るときに持っていたものだ。
そのまま凛太は霊の顔を見上る……霊は笑っていた。だから、凛太は逃げることで頭がいっぱいになった。
春山を追って部屋を飛び出し、階段も飛び降りるように降りる。
霊は笑っていた――。夢と希望の国にやってきたような恍惚とした笑顔だった。
家の玄関まで足が届く。すると、もう一つ動き出す足音。今度は霊も追ってきた。
走りづらい不揃いなアスファルトの道、こけないように気をつける余裕がないから、躓くことを恐れず走るしかなかった。
強張って上手く動かせない体、無理やり拳を振り上げていた。
後ろから迫ってくる足音、それは自分のものよりもずっと数が多かった。
逃げられないことはすぐに分かった。真っ直ぐにしか進めないふざけた道で、敵のほうが速度が速い。さらに、今は前を走っている春山は凛太よりも足が遅い。芋虫を抱えたまま必死に走っているけれど、もう十秒もかからないうちに追いつかれてしまうだろう。
凛太は……覚悟を決めた。揺れる視界の中、春山を見て、この子の為ならと両手の拳に力を込めた。
歩幅を狭めて、ブレーキをかけながら振り返る。足音はしていたのに霊は一瞬いないのかと思った。それも束の間、闇から高速で這ってくる霊がいた。
凛太は止まり、木の棒を振り上げ――力いっぱい振り下ろす。不意を打てるように、背中を見せた状態から流れるように素早くこなした――。
命中した。狙い通り、霊の脳天に。
かなりの手応えがあった。絶望的な感触で、やったことを瞬時に後悔するほどの。
自分の意志で動いてそうしたのだけれど、間違ったことをしてしまった気がする。なぜだかその感覚が高速で凛太の中を走り抜けた。
自分がやったのにそうなるとは思わなかった。霊は一撃でぐったりしてしまった。頭から血を流しながらうつ伏せで倒れ、指先すら動かなさい。
違う……そこまでするつもりはなかった。
眩暈がする。体中が一瞬で熱を帯びる。気分が悪くて、木の棒も道の脇に投げ捨てた。
「……草部君?」
後ろから春山の声がする。すごい音もした。鈍くて重いのに響く音。いくところまでいってしまった感触が確かにあった。
だけど、霊ならこれでもまだ動けるだろう。霊なら大丈夫だと思ったから躊躇しなかったんだ。本当に、本当に自分はやってしまったのか。
「やった!これで私が本物だ!」
場違いなトーンの声、反射的に振り向くと春山の隣に元の女子中高生の姿があった。
「ありがとうお兄さん。でも、ごめんね……そっちが本物で私が偽物だったの」
そこからは足を踏み入れて入ってきていた。霊が。後ろから月明かりを受けて、ただ立っている。
「春山さん。行って」
春山はさっきまでとは違い、すぐに凛太の横で身構えることができていた。守るものができたからか。だから、凛太は逃げるように促した。
急ぐ足音が遠ざかる。霊はまだ動かない。
凛太は霊の動きに注意しながら、一歩前に出てしゃがむ。指を床に付けたままそ、そっと腕を伸ばし、一応そこに落ちていた木の棒を掴んだ。最初に家に入るときに持っていたものだ。
そのまま凛太は霊の顔を見上る……霊は笑っていた。だから、凛太は逃げることで頭がいっぱいになった。
春山を追って部屋を飛び出し、階段も飛び降りるように降りる。
霊は笑っていた――。夢と希望の国にやってきたような恍惚とした笑顔だった。
家の玄関まで足が届く。すると、もう一つ動き出す足音。今度は霊も追ってきた。
走りづらい不揃いなアスファルトの道、こけないように気をつける余裕がないから、躓くことを恐れず走るしかなかった。
強張って上手く動かせない体、無理やり拳を振り上げていた。
後ろから迫ってくる足音、それは自分のものよりもずっと数が多かった。
逃げられないことはすぐに分かった。真っ直ぐにしか進めないふざけた道で、敵のほうが速度が速い。さらに、今は前を走っている春山は凛太よりも足が遅い。芋虫を抱えたまま必死に走っているけれど、もう十秒もかからないうちに追いつかれてしまうだろう。
凛太は……覚悟を決めた。揺れる視界の中、春山を見て、この子の為ならと両手の拳に力を込めた。
歩幅を狭めて、ブレーキをかけながら振り返る。足音はしていたのに霊は一瞬いないのかと思った。それも束の間、闇から高速で這ってくる霊がいた。
凛太は止まり、木の棒を振り上げ――力いっぱい振り下ろす。不意を打てるように、背中を見せた状態から流れるように素早くこなした――。
命中した。狙い通り、霊の脳天に。
かなりの手応えがあった。絶望的な感触で、やったことを瞬時に後悔するほどの。
自分の意志で動いてそうしたのだけれど、間違ったことをしてしまった気がする。なぜだかその感覚が高速で凛太の中を走り抜けた。
自分がやったのにそうなるとは思わなかった。霊は一撃でぐったりしてしまった。頭から血を流しながらうつ伏せで倒れ、指先すら動かなさい。
違う……そこまでするつもりはなかった。
眩暈がする。体中が一瞬で熱を帯びる。気分が悪くて、木の棒も道の脇に投げ捨てた。
「……草部君?」
後ろから春山の声がする。すごい音もした。鈍くて重いのに響く音。いくところまでいってしまった感触が確かにあった。
だけど、霊ならこれでもまだ動けるだろう。霊なら大丈夫だと思ったから躊躇しなかったんだ。本当に、本当に自分はやってしまったのか。
「やった!これで私が本物だ!」
場違いなトーンの声、反射的に振り向くと春山の隣に元の女子中高生の姿があった。
「ありがとうお兄さん。でも、ごめんね……そっちが本物で私が偽物だったの」
0
あなたにおすすめの小説
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる