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第32話 虚弱聖女と黒い守護石
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フェンレア王国なんて、知らない。
「その者が、フェンレア王国とやらの人間である確証は?」
「これを……」
レイ様の問いかけに、騎士は抱えていた木箱をテーブルの上に置くと、恐る恐る開けた。
中に入っていたのは、星をちりばめたような紋章が入った金色のメダル。
紋章は初めて見る。恐らく、フェンレア王国の紋章なのだろう。レイ様が手に取ると、思った以上に重かったのか、手から落としそうになっていたのを見る限り、本物の金。素人目から見ても、相当価値があるものだと分かる。
そしてメダルの横には、艶のある布で丁寧に包まれた丸く黒い石があった。
「……ラメンテの守護石と似ている」
黒い石をつまみ上げ、上下左右視線を走らせるレイ様に、私の方をチラチラと見ながら騎士が言葉を続けた。
「その石をこの国の聖女に触れさせれば、陛下が謁見を許可する気になるだろうと……」
「確かに、これが本当の守護石であるなら、その人物が持っている理由が知りたいが……」
そう呟くと、レイ様はティッカさんを手招きし、手を差し出すように言うと、彼女の手のひらの上に守護石と思わしき黒い石を置いた。
……が、何も起こらない。
レイ様の視線が、私の方に向けられた。
「……セレスティアル、いいか?」
「は、はい……」
ためらいがちに頷くと、私はレイ様に両手を差し出した。人差し指と親指をくっつけて作った丸と同じぐらいの大きさの石が、私の手の上で転がる。
次の瞬間、石が淡い光を放った。ラメンテの守護石と同じ反応を見せている。
ということは……
「この石が守護石であることが証明されましたね……」
ルヴィスさんが腕を組みながら、唸るように呟いた。そう言いながらも、黒い守護石に何か異変がないか、疑いの眼差しを向けている。
ルヴィスさんと同じように、私の手の上で光っている黒い石を見つめていたレイ様だったが、大きく息を吐き出すと、直立している騎士に強い口調で命令した。
「今すぐにその者を謁見の間へ通せ」
「はっ!」
騎士は深く頭を下げると、足早に立ち去っていった。
部屋に一瞬の静寂が訪れた。
皆の表情が固い。それぞれが自分の考えに沈んでいるのが見て取れる。
私は黒い守護石を箱にしまうと、疑問を口にした。
「あ、あのっ……私、フェンレア王国という国は知らないのですが……皆様はご存じなのですか?」
「いや、俺も知らん」
レイ様が、清々しいほどきっぱりと否定された。
だけどレイ様に続いてルヴィスさんも同意するように頷き、ティッカさんも何度も首を縦に動かしていた。
レイ様の視線が、私の傍にいるラメンテに向けられた。
「ラメンテ、何か知っているか?」
皆の視線が、ラメンテに向けられた。
確かに、ラメンテはルミテリス王国が建国されたときから存在している。二百年という、長き歴史の中で埋もれてしまった情報を知っている可能性がある。
ラメンテはゆっくりと首を振った。
「僕も、フェンレア王国なんて国は初めて聞いたよ。だけど……」
金色の瞳が、レイ様を真っ直ぐ見つめる。
「ルミテリス王国を興したのは、結界の外を行き来していた人々だから、クロラヴィア王国から来た人だけじゃなかったのかもしれない。昔はもっと結界だって広かったし。だから僕たちが知らないだけで、他にも国がある可能性は否定できないよ」
「仮に我々の知らない国の人間がやって来たとして……どうして守護石を持っているのでしょうか」
今私たちが把握している守護石は、二つ。
ネルロ様が私を聖女だと見いだしたクロラヴィアの守護石と、ルミテリスの守護石。
だけどここに、第三の守護石がある。
「そんなの決まってるだろ」
黒い守護石を見据えながら、レイ様が言う。
「フェンレア王国とやらを守っている守護獣がいる可能性があるからだ」
「その者が、フェンレア王国とやらの人間である確証は?」
「これを……」
レイ様の問いかけに、騎士は抱えていた木箱をテーブルの上に置くと、恐る恐る開けた。
中に入っていたのは、星をちりばめたような紋章が入った金色のメダル。
紋章は初めて見る。恐らく、フェンレア王国の紋章なのだろう。レイ様が手に取ると、思った以上に重かったのか、手から落としそうになっていたのを見る限り、本物の金。素人目から見ても、相当価値があるものだと分かる。
そしてメダルの横には、艶のある布で丁寧に包まれた丸く黒い石があった。
「……ラメンテの守護石と似ている」
黒い石をつまみ上げ、上下左右視線を走らせるレイ様に、私の方をチラチラと見ながら騎士が言葉を続けた。
「その石をこの国の聖女に触れさせれば、陛下が謁見を許可する気になるだろうと……」
「確かに、これが本当の守護石であるなら、その人物が持っている理由が知りたいが……」
そう呟くと、レイ様はティッカさんを手招きし、手を差し出すように言うと、彼女の手のひらの上に守護石と思わしき黒い石を置いた。
……が、何も起こらない。
レイ様の視線が、私の方に向けられた。
「……セレスティアル、いいか?」
「は、はい……」
ためらいがちに頷くと、私はレイ様に両手を差し出した。人差し指と親指をくっつけて作った丸と同じぐらいの大きさの石が、私の手の上で転がる。
次の瞬間、石が淡い光を放った。ラメンテの守護石と同じ反応を見せている。
ということは……
「この石が守護石であることが証明されましたね……」
ルヴィスさんが腕を組みながら、唸るように呟いた。そう言いながらも、黒い守護石に何か異変がないか、疑いの眼差しを向けている。
ルヴィスさんと同じように、私の手の上で光っている黒い石を見つめていたレイ様だったが、大きく息を吐き出すと、直立している騎士に強い口調で命令した。
「今すぐにその者を謁見の間へ通せ」
「はっ!」
騎士は深く頭を下げると、足早に立ち去っていった。
部屋に一瞬の静寂が訪れた。
皆の表情が固い。それぞれが自分の考えに沈んでいるのが見て取れる。
私は黒い守護石を箱にしまうと、疑問を口にした。
「あ、あのっ……私、フェンレア王国という国は知らないのですが……皆様はご存じなのですか?」
「いや、俺も知らん」
レイ様が、清々しいほどきっぱりと否定された。
だけどレイ様に続いてルヴィスさんも同意するように頷き、ティッカさんも何度も首を縦に動かしていた。
レイ様の視線が、私の傍にいるラメンテに向けられた。
「ラメンテ、何か知っているか?」
皆の視線が、ラメンテに向けられた。
確かに、ラメンテはルミテリス王国が建国されたときから存在している。二百年という、長き歴史の中で埋もれてしまった情報を知っている可能性がある。
ラメンテはゆっくりと首を振った。
「僕も、フェンレア王国なんて国は初めて聞いたよ。だけど……」
金色の瞳が、レイ様を真っ直ぐ見つめる。
「ルミテリス王国を興したのは、結界の外を行き来していた人々だから、クロラヴィア王国から来た人だけじゃなかったのかもしれない。昔はもっと結界だって広かったし。だから僕たちが知らないだけで、他にも国がある可能性は否定できないよ」
「仮に我々の知らない国の人間がやって来たとして……どうして守護石を持っているのでしょうか」
今私たちが把握している守護石は、二つ。
ネルロ様が私を聖女だと見いだしたクロラヴィアの守護石と、ルミテリスの守護石。
だけどここに、第三の守護石がある。
「そんなの決まってるだろ」
黒い守護石を見据えながら、レイ様が言う。
「フェンレア王国とやらを守っている守護獣がいる可能性があるからだ」
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