冒険者パーティーの喧嘩仲間が呪いにかかってあたしに惚れたようです

・めぐめぐ・

文字の大きさ
6 / 13

6

しおりを挟む
 スカーレットとカメリアの姿は、町の大通りに並ぶ商店通りにあった。

 冒険者ギルドがある町なので、冒険者を客とする店が、たくさん立ち並んでいる。

 いつもなら、買う気がなくてもウィンドウショッピングを楽しむ彼女だが、その横で嬉しそうに歩いている彼の存在が、楽しむ余裕を与えてくれなかった。

 心の中では今、

(こいつは、カメリアじゃない……。別の人間だ……。カメリアじゃない……。別の人間なんだ……)

と、彼をカメリアと思わないようにして、平常心を保とうと必死だ。

 いつもの無口な彼ではなく、感情豊かな別人だと思えば、何とか付き合えると思ったからだ。

 しかし、

「レティ、お前の好きな氷菓子があるが、一つ買ってこようか?」

「あっ、えっと……、いい。お腹一杯だから……」

「そうなのか? いつもなら食事後も『甘い物は別腹』と言って食べてるだろ? やはり、どこか具合が……」

「悪くないからっ! どこも悪くないからっ! 頻繁に額に手を当てて熱を測ろうとするのは止めてっ!」

 こちらに手を伸ばす彼の手をペチッと払うと、スカーレットは必死で逃げた。

 こうやって何かと絡んでくるので、中々平常心が保てない。それも内容が、彼女の心配ばかりで思わず、

(母親かよっ!)

と、心の中で突っ込んだのは言うまでもない。

 もちろん、彼と二人で買い物に出る事はよくある。その際はスカーレットが彼に話しかけることが多かった。

 しかし指輪の呪いのせいで、今は立場が逆になっている。
 カメリアは嬉しそうに表情を緩ませ、絶え間なく話しかけて来るのだ。

 その様子に、彼女は思わず呟いてしまった。

「カメリア……。今日のあんた、ほんっとお喋りよね? いつもは無口なのに……」

 しまったと思ったが、無口を指摘された彼は少し困った表情を浮かべて呟きに答えた。

「まあ、狂戦士の副作用で、言いたくても言葉に出せなかったからな。別に俺自身、無口なわけじゃないぞ?」

「えっ? そうなの?」

 意外な答えに、スカーレットの表情に驚きが浮かぶ。彼女が反応を見せてくれて嬉しかったのか、カメリアは言葉を続けた。

「さっきエルフィンが言っていただろう。狂戦士は職業の副作用で感情が上手く出せないが、心は普通の人間のままだと」

「……つまり、心では色々と思っていたけど、ただそれを口や表情に出せなかっただけってこと?」

「そういうことだ。狂戦士になる前は、これでもお喋りな方だったんだが」

「……信じらんない」

 彼女がカメリアと出会った時には、彼はすでに狂戦士だったため無口だった。そんな彼が、昔はお喋りだったなど、想像できなかった。

 そんな彼女の様子が面白いのか、カメリアは小さく笑った。

「狂戦士だと、皆があまり話をしてくれない。でも……、レティはそんなこと関係なくたくさん話しかけてくれるから、とても嬉しい」

「え? 嬉しいって……。あたしとあんたは常日頃から喧嘩や言い合いばっかりしてたし……、どっちかというと、あんたがあたしのことを良く思ってないんじゃ……」

「喧嘩? してたか?」

 カメリアはきょとんとしている。

 スカーレットは慌てて彼の腕を掴むと、先ほど交わした酒の話や誕生日プレゼントの言い合いについて持ち出した。

「いやいや! さっきも酒場で色々と言い合いしてたじゃない! あたしの笑いの沸点が低いとか! あたしだって、表に出ろとか言ってたし!」

「あれ、喧嘩だったのか? 俺は普通に会話を楽しんでいただけなんだが」

 両者の認識に違いに、カメリアを掴んでいた手が落ちた。そして信じられない様子で、両手をこめかみに当て、必死で考えている。

 今まで喧嘩仲間だと思っていた相手が、まさか喧嘩しているという認識がなかったと分かり、混乱しているのだ。

(え? 今までの喧嘩って喧嘩じゃなかったの? カメリアがあたしを良く思ってないっていうのも、あたしの勘違いって事?)

 カメリアと自分は馬が合わないという認識が、崩壊するのを感じた。

 そうなって来ると、彼が今までうるさく注意や指摘をして来た意味も変わって来る。

(今まで嫌味とか思ってたけど……、もしかして……、あたしを純粋に心配して……?)

 ぶわっと頬に熱が上がるのが感じられた。しかし、すぐに指輪の存在を思い出すと、その考えを否定した。

(違う! 今のカメリアは、カメリアじゃない! 指輪の呪いが解ければ、そんな気持ちもなくなるんだから!)

 ぎゅっと唇を噛み、ざわつく心を落ち着かせるため、大きく呼吸を繰り返す。が、 

「すまなかったな、レティ。俺のせいで誤解を与えていたようだな」

 心を落ち着かせる試みは、すぐに中断させられた。

 目の前すぐに、カメリアの顔があったからだ。眉根を寄せ、申し訳なさそうにしている。

 しかしすぐその表情を変えると、スカーレットの両手を握った。
 突然手を握られ、反射的に払おうとしたが、カメリアの大きく力強い手がそれを許さない。

「俺は今まで一度も、レティを嫌だとか嫌いだと思ったことはない。こんな俺に、いつもたくさん話しかけ、他と態度を変えずに接してくれることが、本当に嬉しかった。そんなお前を、俺はずっと好きだった」

 好き、と言う言葉に、彼女の熱が頬を通り越して耳たぶまで上がった。

 先ほどまでは、その告白に抵抗し拒んでいたのだが、今は何故かその言葉が直接心に届き、気持ちをかき乱していく。

 しかし再び指輪の件を思い出すと鋭い視線を向け、彼の告白を否定した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

処理中です...