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「リース隊長! 大丈夫ですか⁉」
狭い独房の中に、男の声が響き渡った。
聞きなれた声に、両手を縛られ、天井から吊るされた女性の身体が、小さく揺れた。
深い緑を湛えた瞳がうっすら開かれ、男を視界にとらえる。
目の前には、自分が率いる分隊の副長として常にそばにいた青年、レフリール・バースがいた。
一見細く見える男性独特の鍛えられた身体は、返り血と煤で汚れ、手には敵兵の血で濡れた剣を持っている。
乱雑に切られた黒髪は乱れ、いつも穏やかに語りかける小さめの唇は、荒い呼吸を繰り返していた。女性の評判高い容姿は、緊張と戦いの興奮で影を帯び、別の顔を見せている。
牢の外は怒声と剣が交わる音が響き、混乱している様子がうかがえた。
微かに、何かが焼ける臭いもする。
どうやら牢の外で、戦いが起こっているらしい。
恐らく、別の味方部隊が敵陣営を攻撃しているのだろう。
囚われの身であるリースは、しっかり働かない頭でそう理解した。
目の前の彼が、敵に敗れ、味方を逃すために時間稼ぎをして囚われた自分を、救いに来たことも。
リース・フィリアは分隊の隊長という立場のため、尋問という名の拷問の前に自白剤を飲まされ、閉じ込められていたのだ。
身を守る鎧は剥がされ、身につけているのは、薄いタンクトップとショーツだけ。
肌が露出している部分の方が、明らかに多い。
それを今になって気づき、羞恥がリースを襲う。
隊長として、普段厳しい態度を見せる彼女だが、部下の前でこのような姿を晒して平気でいられるほど図太くは無い。
(こんな恥ずかしい姿を見せて……。レフが隊長としての私に落胆しなければいいが……)
申し訳なく思うが、状況が状況だ。
目のやり場に困る姿だが、彼には我慢してもらうしか無い。
「私は……大丈夫だ……。しかし、身体の自由が効かない……。足に、力が入らないんだ」
リースはそう言って、足を動かそうとした。
しかし、飲まされた薬に身体の自由を奪う効果があったのか、歩くのに必要な力が入らない。
(動けない自分など、足手まといになるだけだ)
隊長である自分が部下の足手まといになるなど、誇高き彼女には耐えられなかった。
それに相手は、常に自分を支え続けてきてくれた、最も信頼厚い部下。
これ以上自分に付き合わせ、彼の命を危険に晒したく無い。
「お前を巻き込みたく無い。レフ、私を置いて……逃げろ」
しかしレフは、彼女の命令を拒んだ。少し細い赤い瞳を見開くと、すぐさまそれは怒りへと変わる。
「何を言ってるんですか‼︎ 自分は、あなたを助けに来たのです。隊長を目の前にして、逃げることなど出来ません‼︎」
「れっ、レフ、命令だぞ! さっさと逃げ……」
「逃げません! すぐに拘束を解きますから」
強い口調でリースの言葉を遮ると、レフは手慣れた様子で拘束を解いた。
縛から解放され、鍛えられながらも女性らしい曲線を描いた身体が、彼の手によって抱き上げられる。
その時、
「ん……あ……」
肌に触れる、力強い手。
リースの身体に、今まで感じたことのない刺激が走ったかと思うと、悩ましい声が洩れた。
この場に相応しくない甘い声に、レフの心臓が戦いとは違う高鳴りとして反応を見せる。
しかし、
(何を考えてるんだ! 今は隊長救出が優先だ)
すぐさま健全な思考に戻すと、何を最優先すべきか思い出す。
ぐったりと身体を預ける細い身体を抱き直すと、瞳と同じ深緑の長い髪からふわっと女性の甘い香りがした。
落ち着いたと思ったレフの心音が、再び暴れ出す。
(しっかりしろ、自分!)
レフは自身を叱咤すると、混乱する敵陣営を後にした。
狭い独房の中に、男の声が響き渡った。
聞きなれた声に、両手を縛られ、天井から吊るされた女性の身体が、小さく揺れた。
深い緑を湛えた瞳がうっすら開かれ、男を視界にとらえる。
目の前には、自分が率いる分隊の副長として常にそばにいた青年、レフリール・バースがいた。
一見細く見える男性独特の鍛えられた身体は、返り血と煤で汚れ、手には敵兵の血で濡れた剣を持っている。
乱雑に切られた黒髪は乱れ、いつも穏やかに語りかける小さめの唇は、荒い呼吸を繰り返していた。女性の評判高い容姿は、緊張と戦いの興奮で影を帯び、別の顔を見せている。
牢の外は怒声と剣が交わる音が響き、混乱している様子がうかがえた。
微かに、何かが焼ける臭いもする。
どうやら牢の外で、戦いが起こっているらしい。
恐らく、別の味方部隊が敵陣営を攻撃しているのだろう。
囚われの身であるリースは、しっかり働かない頭でそう理解した。
目の前の彼が、敵に敗れ、味方を逃すために時間稼ぎをして囚われた自分を、救いに来たことも。
リース・フィリアは分隊の隊長という立場のため、尋問という名の拷問の前に自白剤を飲まされ、閉じ込められていたのだ。
身を守る鎧は剥がされ、身につけているのは、薄いタンクトップとショーツだけ。
肌が露出している部分の方が、明らかに多い。
それを今になって気づき、羞恥がリースを襲う。
隊長として、普段厳しい態度を見せる彼女だが、部下の前でこのような姿を晒して平気でいられるほど図太くは無い。
(こんな恥ずかしい姿を見せて……。レフが隊長としての私に落胆しなければいいが……)
申し訳なく思うが、状況が状況だ。
目のやり場に困る姿だが、彼には我慢してもらうしか無い。
「私は……大丈夫だ……。しかし、身体の自由が効かない……。足に、力が入らないんだ」
リースはそう言って、足を動かそうとした。
しかし、飲まされた薬に身体の自由を奪う効果があったのか、歩くのに必要な力が入らない。
(動けない自分など、足手まといになるだけだ)
隊長である自分が部下の足手まといになるなど、誇高き彼女には耐えられなかった。
それに相手は、常に自分を支え続けてきてくれた、最も信頼厚い部下。
これ以上自分に付き合わせ、彼の命を危険に晒したく無い。
「お前を巻き込みたく無い。レフ、私を置いて……逃げろ」
しかしレフは、彼女の命令を拒んだ。少し細い赤い瞳を見開くと、すぐさまそれは怒りへと変わる。
「何を言ってるんですか‼︎ 自分は、あなたを助けに来たのです。隊長を目の前にして、逃げることなど出来ません‼︎」
「れっ、レフ、命令だぞ! さっさと逃げ……」
「逃げません! すぐに拘束を解きますから」
強い口調でリースの言葉を遮ると、レフは手慣れた様子で拘束を解いた。
縛から解放され、鍛えられながらも女性らしい曲線を描いた身体が、彼の手によって抱き上げられる。
その時、
「ん……あ……」
肌に触れる、力強い手。
リースの身体に、今まで感じたことのない刺激が走ったかと思うと、悩ましい声が洩れた。
この場に相応しくない甘い声に、レフの心臓が戦いとは違う高鳴りとして反応を見せる。
しかし、
(何を考えてるんだ! 今は隊長救出が優先だ)
すぐさま健全な思考に戻すと、何を最優先すべきか思い出す。
ぐったりと身体を預ける細い身体を抱き直すと、瞳と同じ深緑の長い髪からふわっと女性の甘い香りがした。
落ち着いたと思ったレフの心音が、再び暴れ出す。
(しっかりしろ、自分!)
レフは自身を叱咤すると、混乱する敵陣営を後にした。
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