2 / 20
2
しおりを挟む
「ここなら、もう大丈夫でしょう」
馬から降りると、レフは馬上にいるリースに声をかけた。
二頭の馬を用意していたのだが、彼女の身体の自由がきかないので二人で乗って来たのだ。
さすがに外に出るため、リースは敵から剥ぎ取ったズボンをはかされ、副長の上着を羽織っている。彼女の手が袖から出ないのを見ると、かなりサイズが大きいようだ。
(まるで……、レフに包まれているようだな)
想像すると、下部辺りが切なく締め付けられる感覚が襲った。
それは収まるどころか、馬の振動も相まって強くなる。
意図しない身体の異変に、リースの頬が紅潮した。唇から洩れる呼吸が、無意識に荒くなる。
「もうここは我々の領土内です。敵もここまでは追ってこないはず。味方陣営はまだ距離がありますが、馬でもう一走りすれば……」
たどり着くだろう、と言葉を続ける前に、リースの身体がぐらっと揺れたかと思うと、馬からずり落ちた。
地に激突する直前レフが慌てて受け止めたが、反動で尻餅をついてしまう。その衝撃で強く抱きしめられる形になり、再びリースの唇がうめき声にしては甘すぎる声を上げた。
先程から続く異常な様子に、レフの表情が厳しいものになる。
再び高鳴る、心臓の音を必死で抑えながら。
「リース隊長、先程からどうしたんです?」
リースは苦しそうに息を荒くしながら、自分を抱きかかえている青年を見た。
「わからない……。さっきから熱くて……苦しい……」
「苦しい⁉︎ どこがですか? 胸ですか? 呼吸ですか? それとも……どこか怪我を⁉︎」
「こっ、このあたり……んぁっ……」
矢継ぎ早に投げられた質問に、リースが恥ずかしそうに、異変のある部分を示した。
それを見て、青年の顔が真っ赤になる。
リースが恥じらいながら示したところ、それは秘部だった。敏感な場所に指が当たったのか、小さく声をあげ身体が震える。
「これは……一体どうなってるんだ? お前に助けられたあたりから、身体がおかしいんだ……」
眉根を寄せ、時折吐息に近い声を出しながら、リースが訴える。
レフの表情が一層険しくなった。過去、同じような状態の人間を見たことがあったからだ。
「隊長が飲まされた自白剤って……、もしかして催淫剤では?」
「えっ? さっ、さいいんざい……?」
「ええ、おそらくは……」
部下の返答に、リースは辛そうに顔を歪めた。それが何か知っていて、少し泣きそうになっているようにも見える。
泣き顔の中に、薬の効果で性の欲を求める女の顔が見え、レフの中で男の欲望が疼き出した。
(あの隊長が……、こんな顔を見せるなんて……)
いつも厳しい表情を浮かべ、仲間たちを勝利に導く彼女が今、自分の腕の中で熱のこもった視線を向けている。
レフは唾を飲み込んだ。
鼓動が早まり、彼女を抱く手に自然と力が入る。しかしすぐさま、自分が肉欲に流されようとしていることを、理性が訴えた。
心の中で頭を振ると、必死で煩悩を振り払う。
(何をしているんだ! 今は……、何を飲まされたかを確認するのが先だろう!)
催淫剤は種類によって解毒方法が異なり、物によっては死に至るものもある。
リースが何を飲まされたか、早く確認する必要があった。
その時、リースが腹部をおさえて苦しみ始めた。
先程の甘い声ではなく、痛みを耐えるように身体を丸めて苦しんでいる。
「ああっ……! お腹が……、いっ、痛いっ!」
そう言って彼女がおさえているのは、腹部よりも少し下、子宮に当たる部分。それを見たレフの顔が、真っ青になった。
「だっ、大丈夫ですか!? もしかして……、レーンドラと言う青い薬を飲まされたのでは?」
「確かに……、青い薬……だった……が……。それだと……何かまずいのか?」
息も絶え絶えになりながら尋ねる隊長に、厳しい表情のままレフは頷いた。
レーンドラは催淫剤でありながら、毒薬であった。
一定時間身体の自由を奪うだけでなく、性的快感を感じていないと下部に激痛をもたらし、最悪相手を死に至らしめる。女性諜報員から情報を引き出すのによく使われる薬だった。
この痛みに耐えられず、口を割るものも多い。
リースの身体が動かないのも、発情して苦しんでいるのも納得がいく。
(そんなものを、隊長が飲まされるなんて……)
彼女の尊厳が踏みにじられたように感じ、レフは悔しそうに唇を噛んだ。
「レーンドラは、毒の入った催淫剤です。このままだとあなたは……、腹部の激痛に苦しみながら死んでしまいます」
「そう……なのか。くそっ、あいつらそんなものを私にっ!」
少し痛みの波が引いたのか、リースの言葉が力を取り戻した。怒りを吐き捨てるリースと反対に、レフはどこか困惑した表情を浮かべていた。
彼は、毒の解毒方法を知っていた。
しかしそれは、リースにとって辛い選択になることを、知っていたのだ。
……自分にとっても。
馬から降りると、レフは馬上にいるリースに声をかけた。
二頭の馬を用意していたのだが、彼女の身体の自由がきかないので二人で乗って来たのだ。
さすがに外に出るため、リースは敵から剥ぎ取ったズボンをはかされ、副長の上着を羽織っている。彼女の手が袖から出ないのを見ると、かなりサイズが大きいようだ。
(まるで……、レフに包まれているようだな)
想像すると、下部辺りが切なく締め付けられる感覚が襲った。
それは収まるどころか、馬の振動も相まって強くなる。
意図しない身体の異変に、リースの頬が紅潮した。唇から洩れる呼吸が、無意識に荒くなる。
「もうここは我々の領土内です。敵もここまでは追ってこないはず。味方陣営はまだ距離がありますが、馬でもう一走りすれば……」
たどり着くだろう、と言葉を続ける前に、リースの身体がぐらっと揺れたかと思うと、馬からずり落ちた。
地に激突する直前レフが慌てて受け止めたが、反動で尻餅をついてしまう。その衝撃で強く抱きしめられる形になり、再びリースの唇がうめき声にしては甘すぎる声を上げた。
先程から続く異常な様子に、レフの表情が厳しいものになる。
再び高鳴る、心臓の音を必死で抑えながら。
「リース隊長、先程からどうしたんです?」
リースは苦しそうに息を荒くしながら、自分を抱きかかえている青年を見た。
「わからない……。さっきから熱くて……苦しい……」
「苦しい⁉︎ どこがですか? 胸ですか? 呼吸ですか? それとも……どこか怪我を⁉︎」
「こっ、このあたり……んぁっ……」
矢継ぎ早に投げられた質問に、リースが恥ずかしそうに、異変のある部分を示した。
それを見て、青年の顔が真っ赤になる。
リースが恥じらいながら示したところ、それは秘部だった。敏感な場所に指が当たったのか、小さく声をあげ身体が震える。
「これは……一体どうなってるんだ? お前に助けられたあたりから、身体がおかしいんだ……」
眉根を寄せ、時折吐息に近い声を出しながら、リースが訴える。
レフの表情が一層険しくなった。過去、同じような状態の人間を見たことがあったからだ。
「隊長が飲まされた自白剤って……、もしかして催淫剤では?」
「えっ? さっ、さいいんざい……?」
「ええ、おそらくは……」
部下の返答に、リースは辛そうに顔を歪めた。それが何か知っていて、少し泣きそうになっているようにも見える。
泣き顔の中に、薬の効果で性の欲を求める女の顔が見え、レフの中で男の欲望が疼き出した。
(あの隊長が……、こんな顔を見せるなんて……)
いつも厳しい表情を浮かべ、仲間たちを勝利に導く彼女が今、自分の腕の中で熱のこもった視線を向けている。
レフは唾を飲み込んだ。
鼓動が早まり、彼女を抱く手に自然と力が入る。しかしすぐさま、自分が肉欲に流されようとしていることを、理性が訴えた。
心の中で頭を振ると、必死で煩悩を振り払う。
(何をしているんだ! 今は……、何を飲まされたかを確認するのが先だろう!)
催淫剤は種類によって解毒方法が異なり、物によっては死に至るものもある。
リースが何を飲まされたか、早く確認する必要があった。
その時、リースが腹部をおさえて苦しみ始めた。
先程の甘い声ではなく、痛みを耐えるように身体を丸めて苦しんでいる。
「ああっ……! お腹が……、いっ、痛いっ!」
そう言って彼女がおさえているのは、腹部よりも少し下、子宮に当たる部分。それを見たレフの顔が、真っ青になった。
「だっ、大丈夫ですか!? もしかして……、レーンドラと言う青い薬を飲まされたのでは?」
「確かに……、青い薬……だった……が……。それだと……何かまずいのか?」
息も絶え絶えになりながら尋ねる隊長に、厳しい表情のままレフは頷いた。
レーンドラは催淫剤でありながら、毒薬であった。
一定時間身体の自由を奪うだけでなく、性的快感を感じていないと下部に激痛をもたらし、最悪相手を死に至らしめる。女性諜報員から情報を引き出すのによく使われる薬だった。
この痛みに耐えられず、口を割るものも多い。
リースの身体が動かないのも、発情して苦しんでいるのも納得がいく。
(そんなものを、隊長が飲まされるなんて……)
彼女の尊厳が踏みにじられたように感じ、レフは悔しそうに唇を噛んだ。
「レーンドラは、毒の入った催淫剤です。このままだとあなたは……、腹部の激痛に苦しみながら死んでしまいます」
「そう……なのか。くそっ、あいつらそんなものを私にっ!」
少し痛みの波が引いたのか、リースの言葉が力を取り戻した。怒りを吐き捨てるリースと反対に、レフはどこか困惑した表情を浮かべていた。
彼は、毒の解毒方法を知っていた。
しかしそれは、リースにとって辛い選択になることを、知っていたのだ。
……自分にとっても。
40
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる