毒におかされた隊長は解毒のため部下に抱かれる

・めぐめぐ・

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「ここなら、もう大丈夫でしょう」

 馬から降りると、レフは馬上にいるリースに声をかけた。

 二頭の馬を用意していたのだが、彼女の身体の自由がきかないので二人で乗って来たのだ。

 さすがに外に出るため、リースは敵からぎ取ったズボンをはかされ、副長の上着を羽織はおっている。彼女の手がすそから出ないのを見ると、かなりサイズが大きいようだ。

(まるで……、レフに包まれているようだな)

 想像すると、下部辺りが切なく締め付けられる感覚が襲った。
 それは収まるどころか、馬の振動もあいまって強くなる。

 意図しない身体の異変に、リースの頬が紅潮こうちょうした。唇から洩れる呼吸が、無意識に荒くなる。

「もうここは我々の領土内です。敵もここまでは追ってこないはず。味方陣営はまだ距離がありますが、馬でもう一走りすれば……」

 たどり着くだろう、と言葉を続ける前に、リースの身体がぐらっと揺れたかと思うと、馬からずり落ちた。

 地に激突する直前レフが慌てて受け止めたが、反動で尻餅をついてしまう。その衝撃で強く抱きしめられる形になり、再びリースの唇がうめき声にしては甘すぎる声を上げた。

 先程から続く異常な様子に、レフの表情が厳しいものになる。

 再び高鳴る、心臓の音を必死で抑えながら。

「リース隊長、先程からどうしたんです?」

 リースは苦しそうに息を荒くしながら、自分を抱きかかえている青年を見た。

「わからない……。さっきから熱くて……苦しい……」

「苦しい⁉︎ どこがですか? 胸ですか? 呼吸ですか? それとも……どこか怪我を⁉︎」

「こっ、このあたり……んぁっ……」

 矢継やつばやに投げられた質問に、リースが恥ずかしそうに、異変のある部分を示した。
 それを見て、青年の顔が真っ赤になる。

 リースが恥じらいながら示したところ、それは秘部ひぶだった。敏感な場所に指が当たったのか、小さく声をあげ身体が震える。

「これは……一体どうなってるんだ? お前に助けられたあたりから、身体がおかしいんだ……」

 眉根を寄せ、時折吐息といきに近い声を出しながら、リースが訴える。
 レフの表情が一層険しくなった。過去、同じような状態の人間を見たことがあったからだ。

「隊長が飲まされた自白剤って……、もしかして催淫剤さいいんざいでは?」

「えっ? さっ、さいいんざい……?」

「ええ、おそらくは……」

 部下の返答に、リースは辛そうに顔を歪めた。それが何か知っていて、少し泣きそうになっているようにも見える。

 泣き顔の中に、薬の効果で性の欲を求める女の顔が見え、レフの中で男の欲望がうずき出した。

(あの隊長が……、こんな顔を見せるなんて……)

 いつも厳しい表情を浮かべ、仲間たちを勝利に導く彼女が今、自分の腕の中で熱のこもった視線を向けている。

 レフは唾を飲み込んだ。
 鼓動が早まり、彼女を抱く手に自然と力が入る。しかしすぐさま、自分が肉欲にくよくに流されようとしていることを、理性が訴えた。
 心の中で頭を振ると、必死で煩悩ぼんのうを振り払う。

(何をしているんだ! 今は……、何を飲まされたかを確認するのが先だろう!)

 催淫剤は種類によって解毒方法が異なり、物によっては死に至るものもある。
 リースが何を飲まされたか、早く確認する必要があった。

 その時、リースが腹部をおさえて苦しみ始めた。
 先程の甘い声ではなく、痛みを耐えるように身体を丸めて苦しんでいる。

「ああっ……! お腹が……、いっ、痛いっ!」

 そう言って彼女がおさえているのは、腹部よりも少し下、子宮に当たる部分。それを見たレフの顔が、真っ青になった。

「だっ、大丈夫ですか!? もしかして……、レーンドラと言う青い薬を飲まされたのでは?」

「確かに……、青い薬……だった……が……。それだと……何かまずいのか?」

 息もえになりながら尋ねる隊長に、厳しい表情のままレフは頷いた。

 レーンドラは催淫剤でありながら、毒薬であった。

 一定時間身体の自由を奪うだけでなく、性的快感を感じていないと下部に激痛をもたらし、最悪相手を死に至らしめる。女性諜報員から情報を引き出すのによく使われる薬だった。
 この痛みに耐えられず、口を割るものも多い。

 リースの身体が動かないのも、発情して苦しんでいるのも納得がいく。

(そんなものを、隊長が飲まされるなんて……)

 彼女の尊厳そんげんが踏みにじられたように感じ、レフは悔しそうに唇を噛んだ。

「レーンドラは、毒の入った催淫剤です。このままだとあなたは……、腹部の激痛に苦しみながら死んでしまいます」

「そう……なのか。くそっ、あいつらそんなものを私にっ!」

 少し痛みの波が引いたのか、リースの言葉が力を取り戻した。怒りを吐き捨てるリースと反対に、レフはどこか困惑こんわくした表情を浮かべていた。

 彼は、毒の解毒方法を知っていた。
 しかしそれは、リースにとって辛い選択になることを、知っていたのだ。

 ……自分にとっても。
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