突然離婚を言い渡された次の日、夫が知らない女にプロポーズしていた

・めぐめぐ・

文字の大きさ
5 / 10

第5話

しおりを挟む
 私は、トオルの不倫相手――サオリの後を追っていた。

 トオルとは駅で別れている。
 プロポーズされたのだからその後ホテルにでも行くのか思っていたのだが、サオリが断っていたのが意外だった。

 写真が撮れると思っていたのに。
 ……まあ、その写真が、何かの役に立つかは分からないけれど、少しでもトオルが浮気をしていた証拠が欲しかった。

 サオリは電車に乗り、二つ目の駅で降りた。
 私が後をつけていることには気づかず、スマホを取り出したかと思うと電話を始めた。

 酔いが回っているせいか、プロポーズされてテンションが上がっているせいか、それとも両方なのか、思いのほか大きな声で通話を始める。

 後ろをつけている私にも、会話が筒抜けだ。

「あ、お母さん? 私。うん、元気にやってる」

 相手はサオリの母親のようだ。
 
 トオルの言葉を信じて私に詰め寄った母の形相を思い出し、怒りと悲しみがこみ上げる。

 私が失った物を、不倫女が持っていることが許せなかった。

「あのね、ほら、この間会った私の彼氏……そうそう、トオルさん。私、今日トオルさんからプロポーズされて指輪を貰ったの! うん、その前から結婚式場の見学には行っていたけど。でもやっぱりきちんとプロポーズされると別の感動があるというか……うん、近々一緒に住もうって話もしてる。トオルさん、持ち家があるから」

 あの男、私と婚姻関係を続けていながら、浮気相手の両親と会ったり、結婚式場の見学にも行っていたのか。

 それに持ち家……私と一緒に暮らしていた家に違いない。
 あの家は、私の両親が、亡くなった祖父母から譲り受けたもの。結婚を機に、私たちの名義にしてくれたのだ。

 その家から妻を追い出し、もう別の女を誘い込むつもりなのか。

 呆れてものが言えない。どれだ毛深い心臓を持っているのだろう。

 怒りが頂点に達しようとしたとき、

「近々、お父さんとお母さんに正式に挨拶に行きたいって話してて……まあ三十三歳で私よりもそこそこ上だけど、真面目な人よ? 仕事一筋だったから、今まで良い出会いがなかったって言ってたでしょ?」

 今まで良い出会いがなかった。

 その発言に、全身から熱が引いた。

(もしかしてこの人……)

 私の予想の答えを、次の会話が与えてくれた。

「お互い初めての結婚だから、何をどうしたらいいのかほんと分からなくて……また色々と教えてね、お母さん」

 これを聞いて確信した。

 彼女は、トオルが既婚者だとは知らない。
 付き合っている人からプロポーズされて、純粋に喜び、親に報告しているのだ。

 そう思った瞬間、私の中にあったサオリへの怒りの矛先が、ぶれた。

 怒りはある。
 だけどそれをサオリにぶつけていいのか、分からなくなったのだ。
 
 いつの間にか、通話が終わっていた。
 サオリはバラの花束を抱きしめ、鼻歌を歌いながら、家に向かって歩いている。これからの未来が、光り輝くものだと信じ、歩いている。

 プロポーズされた喜びを、すぐに親に報告していた。少しでも後ろめたいことがあったなら、そんなことは出来ないはず。

 彼女は、トオルを純粋に信じていた。
 自分が知らない間に、不倫相手にされていたとも気づかずに……

 それに相手はまだ若い。社会に出てからそれほど経っていないようにも思える。

 そんな相手にあの男は……

 今度は、ふつふつと怒りが沸いてきた。でもサオリに対してではない。

 彼女をだまそうとしているトオルに対してだ。

 頭の中がまだ混乱している。考えだってまとまらない。

 だけど一つ分かっているのは、何も知らないままサオリを、トオルとこのまま結婚させてはならないということ。

 私のような被害者をこれ以上増やさないように。
 そして、私を騙してまで彼女と結婚したがったトオルに、

 復讐するために――

「サオリさん」
「えっ?」

 私が呼び止めると、サオリはもの凄い勢いで振り返ってきた。その瞳には恐怖が見えたけど、私が女性だと分かると、少しだけ警戒心を解いた。

 私は相手を安心させるため、少し笑いながら名乗った。

「私、あなたがお付き合いしているイトウトオルの妻のマイと申します」
「……つ、ま?」

 サオリをトオルから助けたいと思ったのは本心。

 だけど、彼女が目を丸くしながら私を見るその姿に、少しだけ胸がすく思いがした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

君を幸せにする、そんな言葉を信じた私が馬鹿だった

白羽天使
恋愛
学園生活も残りわずかとなったある日、アリスは婚約者のフロイドに中庭へと呼び出される。そこで彼が告げたのは、「君に愛はないんだ」という残酷な一言だった。幼いころから将来を約束されていた二人。家同士の結びつきの中で育まれたその関係は、アリスにとって大切な生きる希望だった。フロイドもまた、「君を幸せにする」と繰り返し口にしてくれていたはずだったのに――。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

天然と言えば何でも許されると思っていませんか

今川幸乃
恋愛
ソフィアの婚約者、アルバートはクラスの天然女子セラフィナのことばかり気にしている。 アルバートはいつも転んだセラフィナを助けたり宿題を忘れたら見せてあげたりとセラフィナのために行動していた。 ソフィアがそれとなくやめて欲しいと言っても、「困っているクラスメイトを助けるのは当然だ」と言って聞かず、挙句「そんなことを言うなんてがっかりだ」などと言い出す。 あまり言い過ぎると自分が悪女のようになってしまうと思ったソフィアはずっともやもやを抱えていたが、同じくクラスメイトのマクシミリアンという男子が相談に乗ってくれる。 そんな時、ソフィアはたまたまセラフィナの天然が擬態であることを発見してしまい、マクシミリアンとともにそれを指摘するが……

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

処理中です...