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第9話
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トオルが、しどろもどろになりながら返答する。
「こ、これ……は……ただの女友達で、変な関係では……」
「それにしては、非常に親密そうだが?」
「あ、えっと……いや、その前に、この写真は一体どこから?」
「マイが見せてくれたものだ」
それを聞いたトオルの怒りが、私に向けられた。眉間の皺を深くし、目をつり上げながら詰め寄ってくる。
「な、何だよこの写真は! 俺はこんな写真知らないぞ! こ、これこそ、AI画像じゃないのか!?」
「自分の証拠写真がAI画像だったからって、人が出してきた証拠写真までAI画像だと決めつけないで欲しいんだけど」
「ほ、本当のことだろうが!」
トオルが写真を破いた。
笑顔を浮かべたサオリの顔が、みるみるうちにバラバラになっていき、ただの紙切れとなって床に落ちた。それを何の感情もなく私は見つめ、ちらっと隣の部屋に続くドアを見た。
そして大きくため息をつき、トオルを見据える。
「別に良いわよ。写真はいくらでも焼き増しできるし。それに、証拠はそれだけじゃないわ。ほら、こんなにもあるのよ?」
写真の束をトオルに投げつけた。テーブルの上に、写真が広がる。
同じ女性とハグしている写真、仲が良さそうに肩を組んでいる写真、どこかの旅館に泊まったのか浴衣姿の写真もある。
それを一枚一枚確認していたトオルの顔が赤くなり、肩が震えだした。
「ほら、ちゃんと見て? この写真には、あなたが出してきたAI画像のような不自然さはない。その人物も場所も、全て存在している。あなたの証拠と違ってね?」
「私たちもそれを見て驚いたわ。それにその写真……全部、あなたたちが離婚する前に撮られたものらしいじゃない。トオルさん、説明してくれないかしら?」
母がトオルに詰問する。彼女はトオルのAI画像に騙され、私を突き放した罪悪感から、父親よりも激しい怒りを見せていた。
両親にはすでに説明し、誤解を解いている。二人は涙を流して謝罪をしてくれた。私の言い分を信じてくれなかったのは悲しいけれど、二人とも古い人間なので許し、今回、トオルと対峙する場に立ち会って貰うようお願いしたのだ。
ここでもう一枚、テーブルに紙が広げられた。
そこに印刷されていたのは、メッセージアプリのトーク履歴画像。
『トオルさん、今日の旅行、凄く楽しかった!』
『俺も凄く楽しかったよ。旅行先で夫婦に間違えられたとき、嬉しかったなー。驚いたサオリ、滅茶苦茶可愛かったし』
『凄く驚いちゃって……でも、私も実は嬉しくて……今度いつ会える?』
『しばらく仕事で忙しいけど、○日なら空いてる。確か、サオリが見たい映画があったよな? 一緒に見に見に行こう。チケットとっておくから』
『嬉しい! 覚えててくれたの? 楽しみにしてる! トオルさん、大好き!』
『俺も大好きだよ、サオリ』
その下には、旅行で撮ったものと思われる二人の浴衣写真が送信されていた。先ほど、私がトオルに突きつけた写真と同じ画像だ。
何度読んでも気分がいいものじゃない。
トオルと付き合いだしたときも、こういうやりとりを彼としていたのを思い出してしまうから。
過去の思い出を振り払い、私はメッセージアプリを開いて、トオルとのトーク画面を見せた。
「確かこの日、あなたは残業だと言って、夜遅くに帰ってきてたわよね?」
トオルとサオリが映画の約束をしていたその日、
『残業で遅くなるから、ご飯はいらない』
同一人物かと疑うほどの素っ気い文章が映っている。
この男は、残業といってサオリと会っていたのだ。
私はバッグを探り、印刷したプリントの束を取り出した。
「この人とあなたのやりとりは、まだまだあるわよ。ほら、これも……」
「ふ、ふざけるな! トーク画面こそ、簡単に偽造できるだろっ!」
「なら、トオル君のスマホを、今ここで見せてくれないか?」
父が要求すると、トオルはズボンの後ろポケットと押さえた。
「そ、それは……プライバシーの侵害です!」
「でもトオル、これであなたの身の潔白を証明できるのよ? もし本当にこのトーク画面も写真も私の偽装だと証明できたなら、私はあなたの要求を飲むわ。この家も財産もあげるし慰謝料だって払う」
テーブルの上にばらまかれた写真の一枚をとると、トオルの目の前に突きつけた。
「さあ、スマホを見せて。この写真があなたのトーク履歴にあるかどうかを」
バラの花束をかかえ、左手の薬指に輝く指輪とともに満面の笑顔を浮かべる、サオリの写真を――
だがトオルは、スマホを守るように、ズボンの後ろポケットを押さえながら、必死で首を横に振る。
「し、知らない! 俺は知らない! お前がつくった架空の女だ! こんな女、実在しない!」
彼の手で、プロポーズを受けて嬉し涙を浮かべるサオリの写真が、滅茶苦茶に破かれていく。
最後までトオルは保身に走った。
私を騙して別れてまでして結婚しようとした女性を、最後まで否定した。
笑うしかない。
こんな無様な姿を見せられるくらいなら、サオリとの潔く関係を認め、彼女への愛を口にして欲しいぐらいだった。
こんな男に、私もあの子も……
「……だそうよ」
大きくため息をつくと同時に、隣の部屋に続くドアが勢いよく開かれた。
トオルの動きがピタリと止まり、突然の乱入者に釘付けになる。
――サオリだ。
私がトオルと喫茶店で話している間に、合鍵で中に入って貰い、私と彼との会話を聞いて貰っていたのだ。
トオルの本性を見て貰うために。
彼女は大きな足音を立ててトオルに近づくと、涙で濡れた顔を彼に近づけた。
私の話を聞いてトオルには幻滅したはずだが、やはり、彼のゲスぶりを目の当たりにしてショックだったのだろう。
涙を拭うことなく、痛々しく笑う。
「私、架空の女だったの? ねえ、トオルさん?」
「さ、サオリ……どうしてここに……」
「私の写真、ビリビリに破いて楽しかった?」
呟いたトオルは何かに気づいたのか、慌ててトーク画面のプリントを見た。そして信じられない様子で、サオリを見つめる。
(ようやく気づいたようね)
トーク画面の左側にはトオルの発言が、右側にはサオリの発言が映っていたはずだ。通常、アカウントの持ち主が発言した場合、右側に発言が表示される。
このプリントに表示されているサオリの発言は、右側。
つまり――
「このトーク画面……サオリがマイに提供したのか?」
「ええ、そうよ」
サオリはスマホをトオルに向かって掲げた。そこには、プリントされているトーク画面と同じ画面が映っていた。
「こ、これ……は……ただの女友達で、変な関係では……」
「それにしては、非常に親密そうだが?」
「あ、えっと……いや、その前に、この写真は一体どこから?」
「マイが見せてくれたものだ」
それを聞いたトオルの怒りが、私に向けられた。眉間の皺を深くし、目をつり上げながら詰め寄ってくる。
「な、何だよこの写真は! 俺はこんな写真知らないぞ! こ、これこそ、AI画像じゃないのか!?」
「自分の証拠写真がAI画像だったからって、人が出してきた証拠写真までAI画像だと決めつけないで欲しいんだけど」
「ほ、本当のことだろうが!」
トオルが写真を破いた。
笑顔を浮かべたサオリの顔が、みるみるうちにバラバラになっていき、ただの紙切れとなって床に落ちた。それを何の感情もなく私は見つめ、ちらっと隣の部屋に続くドアを見た。
そして大きくため息をつき、トオルを見据える。
「別に良いわよ。写真はいくらでも焼き増しできるし。それに、証拠はそれだけじゃないわ。ほら、こんなにもあるのよ?」
写真の束をトオルに投げつけた。テーブルの上に、写真が広がる。
同じ女性とハグしている写真、仲が良さそうに肩を組んでいる写真、どこかの旅館に泊まったのか浴衣姿の写真もある。
それを一枚一枚確認していたトオルの顔が赤くなり、肩が震えだした。
「ほら、ちゃんと見て? この写真には、あなたが出してきたAI画像のような不自然さはない。その人物も場所も、全て存在している。あなたの証拠と違ってね?」
「私たちもそれを見て驚いたわ。それにその写真……全部、あなたたちが離婚する前に撮られたものらしいじゃない。トオルさん、説明してくれないかしら?」
母がトオルに詰問する。彼女はトオルのAI画像に騙され、私を突き放した罪悪感から、父親よりも激しい怒りを見せていた。
両親にはすでに説明し、誤解を解いている。二人は涙を流して謝罪をしてくれた。私の言い分を信じてくれなかったのは悲しいけれど、二人とも古い人間なので許し、今回、トオルと対峙する場に立ち会って貰うようお願いしたのだ。
ここでもう一枚、テーブルに紙が広げられた。
そこに印刷されていたのは、メッセージアプリのトーク履歴画像。
『トオルさん、今日の旅行、凄く楽しかった!』
『俺も凄く楽しかったよ。旅行先で夫婦に間違えられたとき、嬉しかったなー。驚いたサオリ、滅茶苦茶可愛かったし』
『凄く驚いちゃって……でも、私も実は嬉しくて……今度いつ会える?』
『しばらく仕事で忙しいけど、○日なら空いてる。確か、サオリが見たい映画があったよな? 一緒に見に見に行こう。チケットとっておくから』
『嬉しい! 覚えててくれたの? 楽しみにしてる! トオルさん、大好き!』
『俺も大好きだよ、サオリ』
その下には、旅行で撮ったものと思われる二人の浴衣写真が送信されていた。先ほど、私がトオルに突きつけた写真と同じ画像だ。
何度読んでも気分がいいものじゃない。
トオルと付き合いだしたときも、こういうやりとりを彼としていたのを思い出してしまうから。
過去の思い出を振り払い、私はメッセージアプリを開いて、トオルとのトーク画面を見せた。
「確かこの日、あなたは残業だと言って、夜遅くに帰ってきてたわよね?」
トオルとサオリが映画の約束をしていたその日、
『残業で遅くなるから、ご飯はいらない』
同一人物かと疑うほどの素っ気い文章が映っている。
この男は、残業といってサオリと会っていたのだ。
私はバッグを探り、印刷したプリントの束を取り出した。
「この人とあなたのやりとりは、まだまだあるわよ。ほら、これも……」
「ふ、ふざけるな! トーク画面こそ、簡単に偽造できるだろっ!」
「なら、トオル君のスマホを、今ここで見せてくれないか?」
父が要求すると、トオルはズボンの後ろポケットと押さえた。
「そ、それは……プライバシーの侵害です!」
「でもトオル、これであなたの身の潔白を証明できるのよ? もし本当にこのトーク画面も写真も私の偽装だと証明できたなら、私はあなたの要求を飲むわ。この家も財産もあげるし慰謝料だって払う」
テーブルの上にばらまかれた写真の一枚をとると、トオルの目の前に突きつけた。
「さあ、スマホを見せて。この写真があなたのトーク履歴にあるかどうかを」
バラの花束をかかえ、左手の薬指に輝く指輪とともに満面の笑顔を浮かべる、サオリの写真を――
だがトオルは、スマホを守るように、ズボンの後ろポケットを押さえながら、必死で首を横に振る。
「し、知らない! 俺は知らない! お前がつくった架空の女だ! こんな女、実在しない!」
彼の手で、プロポーズを受けて嬉し涙を浮かべるサオリの写真が、滅茶苦茶に破かれていく。
最後までトオルは保身に走った。
私を騙して別れてまでして結婚しようとした女性を、最後まで否定した。
笑うしかない。
こんな無様な姿を見せられるくらいなら、サオリとの潔く関係を認め、彼女への愛を口にして欲しいぐらいだった。
こんな男に、私もあの子も……
「……だそうよ」
大きくため息をつくと同時に、隣の部屋に続くドアが勢いよく開かれた。
トオルの動きがピタリと止まり、突然の乱入者に釘付けになる。
――サオリだ。
私がトオルと喫茶店で話している間に、合鍵で中に入って貰い、私と彼との会話を聞いて貰っていたのだ。
トオルの本性を見て貰うために。
彼女は大きな足音を立ててトオルに近づくと、涙で濡れた顔を彼に近づけた。
私の話を聞いてトオルには幻滅したはずだが、やはり、彼のゲスぶりを目の当たりにしてショックだったのだろう。
涙を拭うことなく、痛々しく笑う。
「私、架空の女だったの? ねえ、トオルさん?」
「さ、サオリ……どうしてここに……」
「私の写真、ビリビリに破いて楽しかった?」
呟いたトオルは何かに気づいたのか、慌ててトーク画面のプリントを見た。そして信じられない様子で、サオリを見つめる。
(ようやく気づいたようね)
トーク画面の左側にはトオルの発言が、右側にはサオリの発言が映っていたはずだ。通常、アカウントの持ち主が発言した場合、右側に発言が表示される。
このプリントに表示されているサオリの発言は、右側。
つまり――
「このトーク画面……サオリがマイに提供したのか?」
「ええ、そうよ」
サオリはスマホをトオルに向かって掲げた。そこには、プリントされているトーク画面と同じ画面が映っていた。
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