突然離婚を言い渡された次の日、夫が知らない女にプロポーズしていた

・めぐめぐ・

文字の大きさ
9 / 12

第9話

しおりを挟む
 トオルが、しどろもどろになりながら返答する。

「こ、これ……は……ただの女友達で、変な関係では……」
「それにしては、非常に親密そうだが?」
「あ、えっと……いや、その前に、この写真は一体どこから?」
「マイが見せてくれたものだ」

 それを聞いたトオルの怒りが、私に向けられた。眉間の皺を深くし、目をつり上げながら詰め寄ってくる。

「な、何だよこの写真は! 俺はこんな写真知らないぞ! こ、これこそ、AI画像じゃないのか!?」
「自分の証拠写真がAI画像だったからって、人が出してきた証拠写真までAI画像だと決めつけないで欲しいんだけど」
「ほ、本当のことだろうが!」

 トオルが写真を破いた。
 笑顔を浮かべたサオリの顔が、みるみるうちにバラバラになっていき、ただの紙切れとなって床に落ちた。それを何の感情もなく私は見つめ、ちらっと隣の部屋に続くドアを見た。

 そして大きくため息をつき、トオルを見据える。

「別に良いわよ。写真はいくらでも焼き増しできるし。それに、証拠はそれだけじゃないわ。ほら、こんなにもあるのよ?」

 写真の束をトオルに投げつけた。テーブルの上に、写真が広がる。

 同じ女性とハグしている写真、仲が良さそうに肩を組んでいる写真、どこかの旅館に泊まったのか浴衣姿の写真もある。

 それを一枚一枚確認していたトオルの顔が赤くなり、肩が震えだした。

「ほら、ちゃんと見て? この写真には、あなたが出してきたAI画像のような不自然さはない。その人物も場所も、全て存在している。あなたの証拠と違ってね?」
「私たちもそれを見て驚いたわ。それにその写真……全部、あなたたちが離婚する前に撮られたものらしいじゃない。トオルさん、説明してくれないかしら?」

 母がトオルに詰問する。彼女はトオルのAI画像に騙され、私を突き放した罪悪感から、父親よりも激しい怒りを見せていた。

 両親にはすでに説明し、誤解を解いている。二人は涙を流して謝罪をしてくれた。私の言い分を信じてくれなかったのは悲しいけれど、二人とも古い人間なので許し、今回、トオルと対峙する場に立ち会って貰うようお願いしたのだ。

 ここでもう一枚、テーブルに紙が広げられた。
 そこに印刷されていたのは、メッセージアプリのトーク履歴画像。

『トオルさん、今日の旅行、凄く楽しかった!』
『俺も凄く楽しかったよ。旅行先で夫婦に間違えられたとき、嬉しかったなー。驚いたサオリ、滅茶苦茶可愛かったし』
『凄く驚いちゃって……でも、私も実は嬉しくて……今度いつ会える?』
『しばらく仕事で忙しいけど、○日なら空いてる。確か、サオリが見たい映画があったよな? 一緒に見に見に行こう。チケットとっておくから』
『嬉しい! 覚えててくれたの? 楽しみにしてる! トオルさん、大好き!』
『俺も大好きだよ、サオリ』

 その下には、旅行で撮ったものと思われる二人の浴衣写真が送信されていた。先ほど、私がトオルに突きつけた写真と同じ画像だ。

 何度読んでも気分がいいものじゃない。
 トオルと付き合いだしたときも、こういうやりとりを彼としていたのを思い出してしまうから。

 過去の思い出を振り払い、私はメッセージアプリを開いて、トオルとのトーク画面を見せた。

「確かこの日、あなたは残業だと言って、夜遅くに帰ってきてたわよね?」

 トオルとサオリが映画の約束をしていたその日、

『残業で遅くなるから、ご飯はいらない』

 同一人物かと疑うほどの素っ気い文章が映っている。
 この男は、残業といってサオリと会っていたのだ。

 私はバッグを探り、印刷したプリントの束を取り出した。

「この人とあなたのやりとりは、まだまだあるわよ。ほら、これも……」
「ふ、ふざけるな! トーク画面こそ、簡単に偽造できるだろっ!」
「なら、トオル君のスマホを、今ここで見せてくれないか?」

 父が要求すると、トオルはズボンの後ろポケットと押さえた。

「そ、それは……プライバシーの侵害です!」
「でもトオル、これであなたの身の潔白を証明できるのよ? もし本当にこのトーク画面も写真も私の偽装だと証明できたなら、私はあなたの要求を飲むわ。この家も財産もあげるし慰謝料だって払う」

 テーブルの上にばらまかれた写真の一枚をとると、トオルの目の前に突きつけた。

「さあ、スマホを見せて。この写真があなたのトーク履歴にあるかどうかを」

 バラの花束をかかえ、左手の薬指に輝く指輪とともに満面の笑顔を浮かべる、サオリの写真を――

 だがトオルは、スマホを守るように、ズボンの後ろポケットを押さえながら、必死で首を横に振る。

「し、知らない! 俺は知らない! お前がつくった架空の女だ! こんな女、実在しない!」

 彼の手で、プロポーズを受けて嬉し涙を浮かべるサオリの写真が、滅茶苦茶に破かれていく。

 最後までトオルは保身に走った。
 私を騙して別れてまでして結婚しようとした女性を、最後まで否定した。

 笑うしかない。
 こんな無様な姿を見せられるくらいなら、サオリとの潔く関係を認め、彼女への愛を口にして欲しいぐらいだった。

 こんな男に、私もあの子も……

「……だそうよ」

 大きくため息をつくと同時に、隣の部屋に続くドアが勢いよく開かれた。

 トオルの動きがピタリと止まり、突然の乱入者に釘付けになる。

 ――サオリだ。

 私がトオルと喫茶店で話している間に、合鍵で中に入って貰い、私と彼との会話を聞いて貰っていたのだ。

 トオルの本性を見て貰うために。

 彼女は大きな足音を立ててトオルに近づくと、涙で濡れた顔を彼に近づけた。

 私の話を聞いてトオルには幻滅したはずだが、やはり、彼のゲスぶりを目の当たりにしてショックだったのだろう。

 涙を拭うことなく、痛々しく笑う。

「私、架空の女だったの? ねえ、トオルさん?」
「さ、サオリ……どうしてここに……」
「私の写真、ビリビリに破いて楽しかった?」

 呟いたトオルは何かに気づいたのか、慌ててトーク画面のプリントを見た。そして信じられない様子で、サオリを見つめる。 

(ようやく気づいたようね)

 トーク画面の左側にはトオルの発言が、右側にはサオリの発言が映っていたはずだ。通常、アカウントの持ち主が発言した場合、右側に発言が表示される。

 このプリントに表示されているサオリの発言は、右側。
 つまり――

「このトーク画面……サオリがマイに提供したのか?」
「ええ、そうよ」

 サオリはスマホをトオルに向かって掲げた。そこには、プリントされているトーク画面と同じ画面が映っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

虚言癖の友人を娶るなら、お覚悟くださいね。

音爽(ネソウ)
恋愛
伯爵令嬢と平民娘の純粋だった友情は次第に歪み始めて…… 大ぼら吹きの男と虚言癖がひどい女の末路 (よくある話です) *久しぶりにHOTランキグに入りました。読んでくださった皆様ありがとうございます。 メガホン応援に感謝です。

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?

白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。 王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。 だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。 順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。 そこから始まる物語である。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

処理中です...