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第10話
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「あなたがサオリさんにプロポーズした現場に、私もいたのよ。そして彼女の後をつけてサオリさんに接触を図ったの」
「マイさんに話を聞いたとき、本当に驚いた。でもマイさんは、私に様々な証拠を見せてくれたの。あなたとのトーク履歴や写真。後日、戸籍謄本だって見せてくれたわ」
「あなたが何事も後回しにするような、ずぼらな性格で良かったわ。まだ本籍を移していなかったから、私との結婚履歴がちゃんと残っていたし」
トオルがしまったという顔をしたかと思うと、泣きそうな表情を浮かべながら、弱々しくサオリにすがりついた。
「わ、悪かった……ちゃんと全てを話さなくて……お前に嫌われるのが怖かったんだ、サオリ! マイは本当に俺を大切にしてくれなくて、DVだって受けていて……俺……」
だがサオリは冷たくトオルを振り払った。
「証拠は?」
「えっ?」
「マイさんからDVを受けていたという証拠は? って聞いているの」
「そ、それは……」
途端にトオルは口ごもった。
そんな彼に、私も容赦なく言い放つ。
「目に見える証拠が全て、あなたが私に言ったことよ」
「……サオリ? お前は俺を捨てたりしないよな? こんな女の話なんて、信じないよな!?」
「へっ? あははっ! いやいや、ここまできて信じろ? あははははははっ、無理があるでしょ」
サオリが、奇声に似た笑い声をあげた。もうやけくそといった様子だ。
だけど、目は全く笑っていなかった。深い悲しみを湛えたまま、トオルに激しい怒りを向ける。
「私、知らない間に不倫相手にされていたのよ? 絶対に許せない!!」
「だからマイに協力を……」
「ええ、そうよ」
トオルはうなだれた。そんな彼に、私は一枚の紙を差し出す。
「トオル、ここにサインして」
私が差し出したのは、誓約書。
現在の財産と家を私に譲ること、さらに私の両親が払った迷惑金を含めた二百万円を慰謝料として私に支払うことが記載されている。
それを見たトオルの目がつり上がる。さっきの弱々しさはなんだったのかというくらいの豹変振りだ。
「何でお前に全部譲るだけでなく、追加で二百万円も払わないといけないんだよ!」
「悪質だからよ。わざわざ偽の画像を作ってまでして私に離婚を迫り、家から追い出した。むしろ、これだけで済んで良かったと感謝して欲しいくらいだわ」
「ふ、ふざけんなっ!」
「なら、裁判をしてもいいのよ? いえ、偽の画像を使って私の両親を騙したのだから、警察に行くべきかしら?」
裁判や警察という物騒な単語を聞いたトオルは、言葉を飲み込んだ。悔しそうに私を睨んでいるけれど、それ以上に迫力のある皆の視線を受け、俯く。
やがて――
「分かった。二百万なんてはした金、すぐに払ってやるよ」
一言そう言うと、誓約書にサインをした。
サイン後、ボールペンを放り投げると、今度はサオリを睨み付けた。
「サオリ、お前がこんなやつだとは思わなかった。結婚しなくて大正解だったよ」
「あ、そう。私もよ。マイさんには感謝しかないわ」
サオリは鼻で笑うと、そうそうと何か思い出したように手を打つ。
「でも私の両親がカンカンでね。今回の件、訴えることは出来ないかって、お父さんの会社の超優秀な弁護士に相談中なの。だから……覚悟しておいてね?」
「えっ……」
「良かったわね、トオル。慰謝料が増えそうで」
私がそう言ってやると。トオルの両膝から力が抜けた。そんな彼に、ボストンバッグを放り投げる。
「ほら、あなたの荷物、私が詰めておいたから。これをもって、さっさと私の家から出て行ってくれる?」
ボストンバッグが当たり、痛そうに顔を顰めるトオル。だがそれで一気に意識が現実に戻ってきたのだろう。
憎々しげに顔をゆがめると、
「……くっそ……お前に言われなくても、出て行ってやるよ! 俺には仕事がある! 会社は俺を必要としているんだ! これからどんどん出世して、お前たちよりも若くで良い女を捕まえてやるからなっ!」
そう捨て台詞を残し、家から出て行った。
一気に部屋の緊張感が緩んだ。
私も両親も、大きく息を吐き出し、脱力する。
そんな中、私の隣にいたサオリが憎々しげに呟いた。一時は愛した男に向けて発するには、あまりにも低い声色だった。
「……あいつ、本当に反省してないですね。正直……慰謝料二百万円って少なくないですか? もっと取れば良かったのに。それに私の親も訴える気でいますけど、正直、慰謝料が取れても少額だって話で……」
「そうね」
小さく笑う私に、サオリは不思議そうに首をかしげた。そんな彼女に、そっと耳打ちをする。
「大丈夫。彼にはこれから、社会的な制裁が待っているから」
「マイさんに話を聞いたとき、本当に驚いた。でもマイさんは、私に様々な証拠を見せてくれたの。あなたとのトーク履歴や写真。後日、戸籍謄本だって見せてくれたわ」
「あなたが何事も後回しにするような、ずぼらな性格で良かったわ。まだ本籍を移していなかったから、私との結婚履歴がちゃんと残っていたし」
トオルがしまったという顔をしたかと思うと、泣きそうな表情を浮かべながら、弱々しくサオリにすがりついた。
「わ、悪かった……ちゃんと全てを話さなくて……お前に嫌われるのが怖かったんだ、サオリ! マイは本当に俺を大切にしてくれなくて、DVだって受けていて……俺……」
だがサオリは冷たくトオルを振り払った。
「証拠は?」
「えっ?」
「マイさんからDVを受けていたという証拠は? って聞いているの」
「そ、それは……」
途端にトオルは口ごもった。
そんな彼に、私も容赦なく言い放つ。
「目に見える証拠が全て、あなたが私に言ったことよ」
「……サオリ? お前は俺を捨てたりしないよな? こんな女の話なんて、信じないよな!?」
「へっ? あははっ! いやいや、ここまできて信じろ? あははははははっ、無理があるでしょ」
サオリが、奇声に似た笑い声をあげた。もうやけくそといった様子だ。
だけど、目は全く笑っていなかった。深い悲しみを湛えたまま、トオルに激しい怒りを向ける。
「私、知らない間に不倫相手にされていたのよ? 絶対に許せない!!」
「だからマイに協力を……」
「ええ、そうよ」
トオルはうなだれた。そんな彼に、私は一枚の紙を差し出す。
「トオル、ここにサインして」
私が差し出したのは、誓約書。
現在の財産と家を私に譲ること、さらに私の両親が払った迷惑金を含めた二百万円を慰謝料として私に支払うことが記載されている。
それを見たトオルの目がつり上がる。さっきの弱々しさはなんだったのかというくらいの豹変振りだ。
「何でお前に全部譲るだけでなく、追加で二百万円も払わないといけないんだよ!」
「悪質だからよ。わざわざ偽の画像を作ってまでして私に離婚を迫り、家から追い出した。むしろ、これだけで済んで良かったと感謝して欲しいくらいだわ」
「ふ、ふざけんなっ!」
「なら、裁判をしてもいいのよ? いえ、偽の画像を使って私の両親を騙したのだから、警察に行くべきかしら?」
裁判や警察という物騒な単語を聞いたトオルは、言葉を飲み込んだ。悔しそうに私を睨んでいるけれど、それ以上に迫力のある皆の視線を受け、俯く。
やがて――
「分かった。二百万なんてはした金、すぐに払ってやるよ」
一言そう言うと、誓約書にサインをした。
サイン後、ボールペンを放り投げると、今度はサオリを睨み付けた。
「サオリ、お前がこんなやつだとは思わなかった。結婚しなくて大正解だったよ」
「あ、そう。私もよ。マイさんには感謝しかないわ」
サオリは鼻で笑うと、そうそうと何か思い出したように手を打つ。
「でも私の両親がカンカンでね。今回の件、訴えることは出来ないかって、お父さんの会社の超優秀な弁護士に相談中なの。だから……覚悟しておいてね?」
「えっ……」
「良かったわね、トオル。慰謝料が増えそうで」
私がそう言ってやると。トオルの両膝から力が抜けた。そんな彼に、ボストンバッグを放り投げる。
「ほら、あなたの荷物、私が詰めておいたから。これをもって、さっさと私の家から出て行ってくれる?」
ボストンバッグが当たり、痛そうに顔を顰めるトオル。だがそれで一気に意識が現実に戻ってきたのだろう。
憎々しげに顔をゆがめると、
「……くっそ……お前に言われなくても、出て行ってやるよ! 俺には仕事がある! 会社は俺を必要としているんだ! これからどんどん出世して、お前たちよりも若くで良い女を捕まえてやるからなっ!」
そう捨て台詞を残し、家から出て行った。
一気に部屋の緊張感が緩んだ。
私も両親も、大きく息を吐き出し、脱力する。
そんな中、私の隣にいたサオリが憎々しげに呟いた。一時は愛した男に向けて発するには、あまりにも低い声色だった。
「……あいつ、本当に反省してないですね。正直……慰謝料二百万円って少なくないですか? もっと取れば良かったのに。それに私の親も訴える気でいますけど、正直、慰謝料が取れても少額だって話で……」
「そうね」
小さく笑う私に、サオリは不思議そうに首をかしげた。そんな彼女に、そっと耳打ちをする。
「大丈夫。彼にはこれから、社会的な制裁が待っているから」
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