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第11話
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トオルはその日、ビジネスホテルに泊まった。
今日のことが、何度も頭の中でよみがえり、はらわたが煮えくり返りそうだ。
このままホテル住まいをするわけにはいかない。
背に腹は代えられないと、トオルは実家に連絡をした。だが、
「マイさんから全部聞いたよ。お前みたいな恥知らずは、二度とこの家の敷居を跨がせない」
そう一方的に言われ、電話を切られてしまった。
頼みの綱だった両親からも見放され、トオルは茫然自失となった。
(だが俺には仕事がある。あんな親に頼るかよ)
すぐにそう開き直ると、次の日、トオルはいつものとおり出社した。
しかし、皆がトオルと視線を合わさない。異様な雰囲気を感じ取ったトオルは不思議に思いながらも席に着こうとしたとき、
「イトウ君、ちょっと……」
上司に呼ばれた。
彼に呼ばれてついて行った先は、社長室だった。
今回の大きなプロジェクトについての話かと思ったが、こちらを振り向いた社長の表情を見て違うと察する。
嫌な予感がした。
社長が、一枚の写真をトオルに見せた。
「これは一体どういうことだね?」
そこにあったのは、トオルが作った、マイの浮気現場のAI画像だった。トオルの背中にじわりと汗がにじみ出す。
「あっ、あのっ……」
「先日、君の奥様とご両親が会社にやってきたんだ。そしてこの画像を持ってこられ、君が何をしたのかを聞いたよ。そして彼らはこう仰っていた。『御社では、AI画像を使ったフェイク画像で、人を騙すようなことをされているのですか?』と」
「い、いや、これには訳が……」
なんとかこの場を切り抜けようと思考を巡らせるが、社長が話し出す方が早かった。
「正直、君のプライベートに干渉するつもりはない。だが問題が、仮にもデザイン会社で働く人間が、このフェイク画像をこの会社で作ったことだ。それも人を騙すために……」
「そ、そんなこと、していません! これは全て、プライベートで作ったもので……」
「では、裏を見てみたまえ」
社長は用紙を裏返しにすると、トオルに渡した。そして角度を変えて見るように言う。
指示通りにすると、用紙の表面にうっすらと文字が見えた。
――社名とロゴだった。
「我が社で使っている写真用紙は、裏に社名とロゴをうっすら印字した特別仕様なんだ。まさか……こんなことで役に立つとは思わなかったが」
トオルは言葉を失った。
会社の備品をプライベートで使った、動かぬ証拠だった。
上司がさらに畳みかける。
「君のパソコンも確認させてもらい、同じ画像のデータが見つかった。君は、人を騙すフェイク画像を我が社で作った。これはもう紛れもない事実だ」
「デザイン会社で人を騙す画像を作るなど……そして、そんな倫理観のない人間がデザインに携わるなど、あってはならない。この件が公になれば、我が社の信頼が落ちる」
「と、ということは……今回のプロジェクトから外されるのですか?」
トオルは震える声で訊ねた。
外す? と社長は片眉をあげたが、すぐさま厳しい声色で宣言した。
「君は解雇だよ。もう二度と、同じ業界で働けると思わないように」
トオルの心を支えていた物が、全て崩れ去った瞬間だった。
信頼を失った。
仕事を失った。
家族も失った。
トオルに残ったのは、多額の借金と、証拠をねつ造して妻から慰謝料を取って離婚をしようとしたという、不名誉な功績だけ。
(慰謝料の支払期限もある……一体どうすれば……)
マイたちに大見得切った以上、期限内に払わないわけにはいかない。
そんな中、トオルのスマホが鳴った。
「……はい」
「サトウトオルさんでしょうか。こちら、トウジョウ法律事務所の、トウジョウユウタと申します。アヤセサオリさんの弁護士です」
鳩尾辺りが、スーッと冷たくなると同時に、サオリの言葉を思い出す。
『でも私の両親がカンカンでね。今回の件、訴えることは出来ないかって、うちの会社の超優秀な弁護士に相談中なの。だから……覚悟しておいてね?』
(まだ慰謝料が増えるっていうのか……?)
スマホから、トオルの返答を促す弁護士の声が鳴り響いていた。
今日のことが、何度も頭の中でよみがえり、はらわたが煮えくり返りそうだ。
このままホテル住まいをするわけにはいかない。
背に腹は代えられないと、トオルは実家に連絡をした。だが、
「マイさんから全部聞いたよ。お前みたいな恥知らずは、二度とこの家の敷居を跨がせない」
そう一方的に言われ、電話を切られてしまった。
頼みの綱だった両親からも見放され、トオルは茫然自失となった。
(だが俺には仕事がある。あんな親に頼るかよ)
すぐにそう開き直ると、次の日、トオルはいつものとおり出社した。
しかし、皆がトオルと視線を合わさない。異様な雰囲気を感じ取ったトオルは不思議に思いながらも席に着こうとしたとき、
「イトウ君、ちょっと……」
上司に呼ばれた。
彼に呼ばれてついて行った先は、社長室だった。
今回の大きなプロジェクトについての話かと思ったが、こちらを振り向いた社長の表情を見て違うと察する。
嫌な予感がした。
社長が、一枚の写真をトオルに見せた。
「これは一体どういうことだね?」
そこにあったのは、トオルが作った、マイの浮気現場のAI画像だった。トオルの背中にじわりと汗がにじみ出す。
「あっ、あのっ……」
「先日、君の奥様とご両親が会社にやってきたんだ。そしてこの画像を持ってこられ、君が何をしたのかを聞いたよ。そして彼らはこう仰っていた。『御社では、AI画像を使ったフェイク画像で、人を騙すようなことをされているのですか?』と」
「い、いや、これには訳が……」
なんとかこの場を切り抜けようと思考を巡らせるが、社長が話し出す方が早かった。
「正直、君のプライベートに干渉するつもりはない。だが問題が、仮にもデザイン会社で働く人間が、このフェイク画像をこの会社で作ったことだ。それも人を騙すために……」
「そ、そんなこと、していません! これは全て、プライベートで作ったもので……」
「では、裏を見てみたまえ」
社長は用紙を裏返しにすると、トオルに渡した。そして角度を変えて見るように言う。
指示通りにすると、用紙の表面にうっすらと文字が見えた。
――社名とロゴだった。
「我が社で使っている写真用紙は、裏に社名とロゴをうっすら印字した特別仕様なんだ。まさか……こんなことで役に立つとは思わなかったが」
トオルは言葉を失った。
会社の備品をプライベートで使った、動かぬ証拠だった。
上司がさらに畳みかける。
「君のパソコンも確認させてもらい、同じ画像のデータが見つかった。君は、人を騙すフェイク画像を我が社で作った。これはもう紛れもない事実だ」
「デザイン会社で人を騙す画像を作るなど……そして、そんな倫理観のない人間がデザインに携わるなど、あってはならない。この件が公になれば、我が社の信頼が落ちる」
「と、ということは……今回のプロジェクトから外されるのですか?」
トオルは震える声で訊ねた。
外す? と社長は片眉をあげたが、すぐさま厳しい声色で宣言した。
「君は解雇だよ。もう二度と、同じ業界で働けると思わないように」
トオルの心を支えていた物が、全て崩れ去った瞬間だった。
信頼を失った。
仕事を失った。
家族も失った。
トオルに残ったのは、多額の借金と、証拠をねつ造して妻から慰謝料を取って離婚をしようとしたという、不名誉な功績だけ。
(慰謝料の支払期限もある……一体どうすれば……)
マイたちに大見得切った以上、期限内に払わないわけにはいかない。
そんな中、トオルのスマホが鳴った。
「……はい」
「サトウトオルさんでしょうか。こちら、トウジョウ法律事務所の、トウジョウユウタと申します。アヤセサオリさんの弁護士です」
鳩尾辺りが、スーッと冷たくなると同時に、サオリの言葉を思い出す。
『でも私の両親がカンカンでね。今回の件、訴えることは出来ないかって、うちの会社の超優秀な弁護士に相談中なの。だから……覚悟しておいてね?』
(まだ慰謝料が増えるっていうのか……?)
スマホから、トオルの返答を促す弁護士の声が鳴り響いていた。
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