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結婚初夜①

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 ミディは、寝室の広いベッドの上に腰をかけていた。

 結婚式では、多くの民や親しい者たちに祝福され、幸せに満ち溢れた時間だった。

 身体に多少の疲労感はあるが、それ以上に心は満たされていた。

 全てが終わり身を清めた後、ここにいる。
 彼女の伴侶である魔王との初夜にむけて。

 正直、彼女にはこれから行われる事に関しての、詳しい知識はない。

 というのも、エルザ王国であれば婚礼が決まった時に、そう言った知識を教えられるのだが、ミディの場合は、魔界に連れて来られてそのまま結婚という流れになったため、知識を得る機会がなかったのだ。

"ユニにどれだけ聞いても、ジェネに任せたらいいの一点張りで、ほとんど何も教えてくれなかったしっ!"

 一応知識は入れておくべきかと、身近な人妻であるユニに勇気を出して尋ねたのだが、彼女が求めた答えは返ってこなかった。

 まあ、その話を切り出した時のユニのニヤついた表情を見る限り、きっと自分の反応を面白がって、わざと教えなかったに違いない、とミディは苦々しく思っていた。

"相手に任しておくだけで、本当にいいのかしら……?"

 一応こちらも何かしなければならないことはないのか、任せておくことが失礼に当たらないか、などなど色々な疑問が浮かんでは消える。

 そんな事を考えながらミディは、何となく自分の身体に視線を向けた。

“それに私の身体って……、どこか変なところはないかしら?”

 自分の美貌に関しては、全く疑う余地はないのだが、身体の事となると人と比べたり、評価される機会はない。

 その為、もしかすると自分の身体には、他と違う何かがあるのでは? などと、しなくても良い不安が浮かんでくる。

 しかし、今となってそれを確認する術はない。諦めたように大きなため息を吐くと、ミディは額にある宝石に触れた。

 アディズの瞳と対になる魔力の結晶。

 この宝石がジェネラルから与えられたことによって、ミディは人間ではなくなった。

 魔法世界の力と四大精霊の力を操る、人も魔族も超越した存在へとなったのだ。

 宝石に触れ、改めて自分がジェネラルの妻になったことを実感する。

 そしてこれから子どもが生まれ、アディズの瞳を継承するまでの長い時間を、彼と過ごすこととなるのだ。

 子ども、というワードを考えた瞬間、思考は初夜の件に戻ってしまった。

"…本当に、どうしよう…"

 顔の熱を取るように両手を頬に当てると、そのまま問題から目を背けるように両手で顔を覆った。

 その時、

「ミディ? 入るよ?」

 ノックと共に、聞き慣れた声がミディを呼んだ。彼女の夫となったジェネラルの声だ。

「えっ…、ええ、大丈夫よ」

 声に弾かれたように顔を上げると、少し上ずった声で彼の問いかけに答えた。

 心境的には全く大丈夫ではないのだが、それを悟られぬよう、出来るだけ平常心を保つよう努める。

 彼女の返答に、ジェネラルが部屋に入ってきた。

 色々あってミディと同じく少し疲れた表情をしていた彼だが、自分を待っていた彼女の姿を認めると、嬉しそうに口元を緩めた。

 そして彼女の傍に向かうと、同じように腰をかけた。

「ジェネ、お疲れ様」

「うん、ミディもね」

 お互い、労いの声を掛け合う。そして顔を見合わせると、小さく笑い合った。

「今日は大変だったね。ミディも疲れたんじゃない?」

「まあ、そうだけど……。でも、幸せな1日だったわ」

 ジェネラルから少し視線を逸らすと、ミディは照れながらも正直に今の気持ちを口にした。

 幸せ、という言葉に、黒髪の青年はとても嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

「そうだね。僕にとっても、最高に幸せな一日だったよ。こうして……、ようやくミディを妻として迎える事が出来たんだから」

 優しい眼差しで、妻となった美しき王女を見つめる。

 彼女と出会って3年ほど。様々な事があったと思い返す。

 あの破壊的初対面から、何をどうしたらこうなるのかと、今さらながらジェネラルは不思議に思った。

 世界は謎に満ちていると、改めて感じる。

 でも好きになったものは仕方がない。

 様々な事がありながらもこうして、愛する人がそばにいてくれる事が、そして自分と共に生きてくれると決めてくれた事が、本当に嬉しい。

 そして、今夜こうして結ばれることも。

「ミディ、緊張してるの?」

 快活な彼女らしからぬ大人しさに、思わず聞いてしまう。

 さすがのミディも、この質問の意味は分かっていた。

 その証拠に、頬は赤く染まりぎゅっと目を閉じて、小さく首を横に振っている。

 問題ないと言いたいのだろうが、全く問題ないようには思えない。

 デリカシーがない質問をしてしまったと、ジェネラルは内心後悔した。

"初めてなのだから、緊張しない方がおかしいよね"

 今まで守ってきた純潔が、目の前の男によってこれから手折られるのだ。内心、穏やかでいられるわけがない。

 王女として、固く守ってきた彼女ならなおさらだろう。

 不安を抱えながらも心配を掛けまいと、強く見せようとする彼女の姿に、愛おしさが増した。

 その気持ちを抑える事をせず、ミディを抱き寄せるとその頬に軽くキスをする。

 そして彼女の前髪を上げると、そこに輝く魔力の結晶を見つめた。

 自分が与えた、魔王妃の証。

 そして、世界を司る四大精霊の祝福を受けし至高の美姫が、魔王である自分のものであるという証。

「ジェネ?」

 魔力の結晶を見ながら言葉を発しない夫に、ミディは不思議そうに声をかけた。

 彼女の声に意識を現実に戻すと、ジェネラルは何も無いと小さく首を横に振った。

 そして小さく首を傾げて自分を見る妻に、改めて感謝を述べた。

「僕と共に生きてくれる事を選んでくれて、ありがとうミディ」

「どういたしまして。ふふっ。勇者様じゃなく、魔王であるあなたを選んだ私に、感謝なさい?」

「うん、そだね。感謝感謝」

「ちょっと! 感謝が軽すぎ……んっ……」

 抗議の声を上げたミディの唇を、ジェネラルの唇が塞いだ。

 突然の行動に一瞬目を見開いたミディだったが、唇の柔らかさと、密着する熱が彼女の身体から抵抗を奪う。

 軽く、お互いの唇を啄ばむようなキスが続く。

 そんなキスを繰り返しながら、ジェネラルはゆっくりとミディの身体をベッドに横たえた。

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