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第5話 仲間が去った後(別視点)
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ダグは、この国を救った勇者として豪華な部屋でもてなしを受けていた。見目麗しい侍女たちに世話を焼かれながら、満足そうに息をつく。
(俺は国を救った勇者、それにゆくゆくは皇帝になる男だ。これくらいのもてなしは当たり前だ)
ソファーの上にふんぞり返りながら思う。
とはいえこの部屋は元々勇者一行のために準備された場所。ここにいない二人分のカップを見ながら、もう二度と会うことのない元仲間のことを思い出す。
盾役のマーヴィと、神官であり幼馴染であるアウラのことを――
(ほんと馬鹿な女だよな。俺と本気で結婚できると思ってたのか? 俺は女神に選ばれた勇者だぞ?)
嘘の告白をしたとき、嬉し泣きをしたアウラの表情を思い出して、フンっと鼻を鳴らした。
アウラは、村のたった一人の神官ではあったが、村人たちは困りごとがあると古くから世話になっている魔術師に相談に行くため、誰も彼女に神官としての役割を望んでいなかった。かと言って神官を色街に働きに出すわけにもいかず、疎ましく思われていたのだ。
ダグも、昔からアウラの気持ちには気付いていたが、あんな鈍くさい女、眼中にはなかった。
だが魔王討伐を命じられたとき、初めてアウラに利用価値を見いだしたのだ。
村で疎まれているアウラなら、連れ出しても問題ないだろうと。
結婚をチラつかせてちょっと演技をすれば付いてくると予想していたが、こうもあっさり上手くいくとは思わなかった。
どれだけ自分が好きなんだと、若干引いたのを覚えている。
旅に出た当初は、アウラの気持ちが冷めないように適当に優しい言葉をかけたりはしていたが、彼女がダグを完全に信頼していると分かってからは、それもしなくなった。
むしろ、アウラの稚拙な魔法とダグへの支援の下手さに苛立ち、叱責ばかりするようになっていた。
アウラは、自分のために言ってくれていると思い、ダグの期待に沿えるよう健気に努力はしていたようだが、その態度が逆に気持ち悪かった。
(しかし、まさか皇帝の御前で倒れるとは思わなかったな……)
おかげでイリス皇女といい感じだったのに台無しだ。
まあマーヴィがアウラを引き取ってくれたから、その後の晩餐会もつつがなく開催されたが。
(そういやマーヴィのやつ、アウラに手紙、ちゃんと渡しただろうな)
頑なに城ではなく、城下町の宿屋に行くと言った盾役の男の顔を思い出す。
美男子と謳われ、女に困らない自分とは違い、いつも寡黙で静かな男だった。
自分の肉体と馬鹿でかい大盾を使って敵の足止めしかできないくせに、時々口少なく、ダグの作戦に異議を唱えたり、アウラと隠れて女と遊ぶときに苦言を呈したりしてくるのが腹立った。
あの女が倒れた時も、城の奴らに世話を任せて式典を続けようとして、マーヴィに非難された。
「アウラは、今まであんたのために尽くしてきたんだろ。あんたたち二人の間に何があったかは知らないが、せめて感謝や、誠意を込めた謝罪を彼女にすべきじゃないのか? こんな不義理をして恥ずかしいと思わないのか? それが将来、この国の未来を背負う者がすることなのか?」
いつもは無口で何を考えているのか分からない男のくせに、このときはやたら早口で多弁だった。
それが何故か癪に障った。だから、アウラへの手紙を半分捨てるような形でマーヴィに叩きつけてやった。
「感謝? 謝罪? 全てアウラが勝手にやったことだ。魔王討伐の旅だって俺が誘ったんじゃない。敵をひきつけることしかできない盾役のくせに、俺に偉そうな口を叩くな。皇帝から褒美を貰ったらとっとと失せろ」
「……それがお前の本性か。分かった」
静かすぎる返答だった。だがマーヴィの黒い瞳の奥からは、言葉以上の激情が伝わって来る。
(こんな表情が出来る男だったか?)
戦いの時、ダグが戦いやすいように敵を引き付けるだけの男だ。アウラ同様、自分の力の足下にも及ばない。
ダグが作戦を立て、無茶すぎると反対されることもあったが、最終的には折れて従うような、図体だけがでかい自分の意思をもたない男だったはずだ。
マーヴィの強い感情を初めて見て、ダグの背筋が冷たくなった。
だが目の前の男から、それ以上の反論はなかった。
胸元に突きつけられた手紙をひったくると、ズボンのポケットに突っ込み、ダグに背を向けた。
ドアを開け部屋を出る時、マーヴィはダグを一瞥すると、
「……お前のような男が皇帝など、この国の未来は終わったも同然だな」
と呟き、部屋を去って行った。
今思い出しても、非常に腹立たしい。
何か言い返しても良かったが、ただの負け惜しみだろうと思うことで溜飲を下げることにした。
確かあの男は、魔王汚染で苦しむ故郷を救いたいからと様々な物資を要求していたはず。
魔王に汚染された土地は、百年程経てば自然と浄化されると言われているが、飢えに苦しむ人々を一刻も早く救うため、現在も神殿が必死で浄化方法を探しているという。
まあ、今後帝都の城に住み、食う寝るに困らないダグには関係ないことだが。
(精々、頑張ればいい)
我が世の春を謳謳うダグの元に、侍女から一報が入った。
「ダグ様。勇者凱旋パレードの準備が整いました。イリス様もお待ちです。ダグ様もご準備を」
「わかった、すぐに行くよ」
アウラやマーヴィの前では発することのなかった優しい声色で返答すると、国一の美姫と称されるイリス皇女の隣に並び立つ自分を想像して、緩む口元が抑えられなかった。
(俺は国を救った勇者、それにゆくゆくは皇帝になる男だ。これくらいのもてなしは当たり前だ)
ソファーの上にふんぞり返りながら思う。
とはいえこの部屋は元々勇者一行のために準備された場所。ここにいない二人分のカップを見ながら、もう二度と会うことのない元仲間のことを思い出す。
盾役のマーヴィと、神官であり幼馴染であるアウラのことを――
(ほんと馬鹿な女だよな。俺と本気で結婚できると思ってたのか? 俺は女神に選ばれた勇者だぞ?)
嘘の告白をしたとき、嬉し泣きをしたアウラの表情を思い出して、フンっと鼻を鳴らした。
アウラは、村のたった一人の神官ではあったが、村人たちは困りごとがあると古くから世話になっている魔術師に相談に行くため、誰も彼女に神官としての役割を望んでいなかった。かと言って神官を色街に働きに出すわけにもいかず、疎ましく思われていたのだ。
ダグも、昔からアウラの気持ちには気付いていたが、あんな鈍くさい女、眼中にはなかった。
だが魔王討伐を命じられたとき、初めてアウラに利用価値を見いだしたのだ。
村で疎まれているアウラなら、連れ出しても問題ないだろうと。
結婚をチラつかせてちょっと演技をすれば付いてくると予想していたが、こうもあっさり上手くいくとは思わなかった。
どれだけ自分が好きなんだと、若干引いたのを覚えている。
旅に出た当初は、アウラの気持ちが冷めないように適当に優しい言葉をかけたりはしていたが、彼女がダグを完全に信頼していると分かってからは、それもしなくなった。
むしろ、アウラの稚拙な魔法とダグへの支援の下手さに苛立ち、叱責ばかりするようになっていた。
アウラは、自分のために言ってくれていると思い、ダグの期待に沿えるよう健気に努力はしていたようだが、その態度が逆に気持ち悪かった。
(しかし、まさか皇帝の御前で倒れるとは思わなかったな……)
おかげでイリス皇女といい感じだったのに台無しだ。
まあマーヴィがアウラを引き取ってくれたから、その後の晩餐会もつつがなく開催されたが。
(そういやマーヴィのやつ、アウラに手紙、ちゃんと渡しただろうな)
頑なに城ではなく、城下町の宿屋に行くと言った盾役の男の顔を思い出す。
美男子と謳われ、女に困らない自分とは違い、いつも寡黙で静かな男だった。
自分の肉体と馬鹿でかい大盾を使って敵の足止めしかできないくせに、時々口少なく、ダグの作戦に異議を唱えたり、アウラと隠れて女と遊ぶときに苦言を呈したりしてくるのが腹立った。
あの女が倒れた時も、城の奴らに世話を任せて式典を続けようとして、マーヴィに非難された。
「アウラは、今まであんたのために尽くしてきたんだろ。あんたたち二人の間に何があったかは知らないが、せめて感謝や、誠意を込めた謝罪を彼女にすべきじゃないのか? こんな不義理をして恥ずかしいと思わないのか? それが将来、この国の未来を背負う者がすることなのか?」
いつもは無口で何を考えているのか分からない男のくせに、このときはやたら早口で多弁だった。
それが何故か癪に障った。だから、アウラへの手紙を半分捨てるような形でマーヴィに叩きつけてやった。
「感謝? 謝罪? 全てアウラが勝手にやったことだ。魔王討伐の旅だって俺が誘ったんじゃない。敵をひきつけることしかできない盾役のくせに、俺に偉そうな口を叩くな。皇帝から褒美を貰ったらとっとと失せろ」
「……それがお前の本性か。分かった」
静かすぎる返答だった。だがマーヴィの黒い瞳の奥からは、言葉以上の激情が伝わって来る。
(こんな表情が出来る男だったか?)
戦いの時、ダグが戦いやすいように敵を引き付けるだけの男だ。アウラ同様、自分の力の足下にも及ばない。
ダグが作戦を立て、無茶すぎると反対されることもあったが、最終的には折れて従うような、図体だけがでかい自分の意思をもたない男だったはずだ。
マーヴィの強い感情を初めて見て、ダグの背筋が冷たくなった。
だが目の前の男から、それ以上の反論はなかった。
胸元に突きつけられた手紙をひったくると、ズボンのポケットに突っ込み、ダグに背を向けた。
ドアを開け部屋を出る時、マーヴィはダグを一瞥すると、
「……お前のような男が皇帝など、この国の未来は終わったも同然だな」
と呟き、部屋を去って行った。
今思い出しても、非常に腹立たしい。
何か言い返しても良かったが、ただの負け惜しみだろうと思うことで溜飲を下げることにした。
確かあの男は、魔王汚染で苦しむ故郷を救いたいからと様々な物資を要求していたはず。
魔王に汚染された土地は、百年程経てば自然と浄化されると言われているが、飢えに苦しむ人々を一刻も早く救うため、現在も神殿が必死で浄化方法を探しているという。
まあ、今後帝都の城に住み、食う寝るに困らないダグには関係ないことだが。
(精々、頑張ればいい)
我が世の春を謳謳うダグの元に、侍女から一報が入った。
「ダグ様。勇者凱旋パレードの準備が整いました。イリス様もお待ちです。ダグ様もご準備を」
「わかった、すぐに行くよ」
アウラやマーヴィの前では発することのなかった優しい声色で返答すると、国一の美姫と称されるイリス皇女の隣に並び立つ自分を想像して、緩む口元が抑えられなかった。
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