【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・

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第35話 マーヴィの力(別視点)

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 マーヴィは途中で馬から降りると、単身で魔族と魔獣の大軍に向かって行った。
 途中、魔族、そして奴等から生み出された大量の魔獣たちの襲撃にあったが、焦りはなかった。

 それもそのはず。
 彼がひとたび剣を振れば、周囲にいる敵が吹き飛び、消滅していったからだ。

 その光景はかつて、勇者として人が持ち得ぬ力を与えられていたダグの戦い方と酷似していた。

 いや、

(恐らく……同じものだ)

 大盾で防がなくとも、飛びかかってきた魔獣が見えない壁で弾かれ、情けない鳴き声をあげて転がる。ここにいる膨大な敵の中で、マーヴィに傷をつけることが出来る存在はいない。

 改めて、この身を守る強大な力に畏怖を覚える。

 そしてこの力を与えた存在にも――

 構えている聖女の大盾が軽い。
 クレスセル領主は皆、戦いの際、聖女の大盾を扱えるように体を鍛えていた。現当主のバックスも、息子であるマーヴィも例外ではない。

 しかし今は、片手で振り回せるほど軽い。
 少し前までは、かなりの重量があったというのに。

 聖剣も、普通の人間では持ち上げることすらできないほどの重量だったが、勇者であるダグは軽々と振り回していた。

 聖剣と大盾。
 どちらにも共通しているのは、特別な存在から与えられたこと。

(そして根底にあるのは――)

 迷いのない真っ直ぐな瞳でこちらを見つめるアウラの姿が思い出された。

『分かり……ました。何が考えがあるのですね。それなら……信じてます。信じてますから……無茶はしないで……』

 彼女から紡ぎ出された言葉を思い出すと、自然と唇が緩んだ。

 アウラがこの身を案じ、引き留めてくれたことが嬉しかった。
 それ以上に、こんな自分を信じ、送り出してくれたことが何よりも嬉しかった。

 右手首に意識を向けると、ブレスレットの存在を感じる。

 祭りのとき、アウラがいない間だけでも一緒の物を身につけたくて、右手首に無理矢理はめたのが、そもそもの始まり。彼女が戻ってくる前に外すつもりだったのに、外せなくなったときは全身の血の気が引く思いだった。

 にもかかわらず、ブレスレットが取れないことを打ち明けた後、石鹸を使えば外せることに遅ればせながら気付いたのに言わなかった。
 取り外すには切らなければならないなどと言って、物を大切にするアウラの性格を利用し、一緒のブレスレットを身につける許可を得た。

 今もブレスレットを外す方法が見つからないフリをして、身につけている。
 手入れのために、何度も外しているのにもかかわらず、だ。

(俺は……臆病者だ)

 好きな相手に好意を告げることもせず、そのくせ嘘をついて同じものを身につけ、周囲を牽制している。

 そもそもこの地に連れてきたのだって、彼女の心身を癒やして欲しい気持ちと同じくらい、離れたくないという自分本位な理由があったからだ。

 だからアウラが街を出ると口にしたときは驚き、強引に引き留めてしまった。今考えても情けない姿だったと苦笑してしまう。
 
 そんな臆病な自分にも終止符を打つ。

 この戦いが終わったら伝えよう。

(この気持ちを、彼女に――)

 祭りのとき、アウラがこの街にいると嬉しいと伝えた時、少し照れたようにはにかむ彼女の表情を思い出しながら、大盾を構える腕に力を込めた。

 そのとき。

『私は信じてる。マーヴィさんが無事に魔族を、いえ――魔王を討伐して帰ってくることを!』

 頭の中で響く愛しい人の声とともに、目の前が強烈な光で一杯になった。

 咄嗟に目を閉じようとしたが、ここは敵陣。
 いつ敵が襲ってきてもいいようにと、瞳を細めながら大盾を構えて待ち構えるが、いつまでたっても敵からの攻撃はない。

 そうしている間に、光が弱まった。
 改めて周囲を見回して驚愕する。

 マーヴィの周りにいた魔族や魔獣たちが、一体残らず消えていたからだ。
 少し先を見ると、生き残った魔族たちが警戒心を露わにしながら身構えた状態でこちらの様子を伺っており、魔獣たちもうなり声をあげながら全身の毛を逆立てている。

(まさか……さっきの光が敵を消滅させたのか?)

 そうとしか考えられなかった。

 さらに、大盾の変化に気付く。

 大盾の表面にある窪みに、虹色の光が宿っていたのだ。光は窪みから溢れ、大盾全体を薄く覆っている。

 光を抱いた大盾は、父から伝え聞いた本来の姿と酷似していた。いや、大盾が本来の力を取り戻したのだ。

(信じてる、か……)

 先ほどの輝きとともに頭の中に響いた声を思い出し、マーヴィは息を吐いた。

 心臓が恐ろしいほど早く脈打っている。だが、戦いによる緊張や高揚感からくるものではない。
 胸の奥が熱くなり、敵陣の真っ只中というのに、笑みが零れるのを止められなかった。

 虹色の光を宿す大盾が温かい。
 それは祭りの時、手を重ねた彼女の温もりに似ていた。

 視線を前に向けると、マーヴィの目の前に一振りの剣が突き刺さっていた。大盾と同じ虹色の光を纏う剣を見つめながら呟く。

「お前も俺に力を貸してくれるのか?」

 ダグの時にはなかった虹色の輝きを纏う聖剣に向かって――

 聖剣は、ただ虹色の光を投げかけるだけだった。だが、大人数人がかりでないと持ち上げられないそれを、マーヴィが片手で引き抜いたことが答えだった。

 聖剣と聖女の大盾を構えながら、前に突き進む。
 大量の魔獣が襲い掛かるが、大盾から発された光が大輪の花の形をまとった壁となり、魔獣たちの侵入を防いだ。
 聖剣から放たれた虹色の刃が、体制を崩した魔獣たちを切り刻んでチリにしていく。

 敵に対する恐怖はなかった。
 あるのは勝利への確信と、強大な力を託された責任の重さだけ。

『その力はなんだ! 先ほどまで……いや、我を傷つけた先の戦いでも、それ程の力はなかったはずだ‼』

 頭の中に魔王の声が響いた。その声は、先ほどと違って恐怖で震えていた。
 
 周囲にいた魔族も魔獣もあらかた倒され、守る者がいなくなった巨体の前で、マーヴィの足が止まる。

 見上げた先にあったのは、額に赤黒い光を宿した魔族の姿だった。

 大人の身長の五倍以上あるだろう巨体は分厚い肉壁で覆われている。地面に付くほどの長い両腕は巨木と見まごう程太く、無数のトゲが生えていた。腰から下は無数の触手で覆われていて、触手で移動しているのか、別に足があるのか分からない。
 顔部分は人と同じだが、鋭い牙が無数に生えた口は耳の部分まで裂けている。二つの目は全く焦点が定まっていなかった。 

 魔族には見覚えはないが、額の光には見覚えがあった。
 確かマーヴィたちが倒した魔王の額にも、同じ物が付いていたからだ。

「その額の光がお前の本体か。ダグはお前を倒し損ねたんだな」
『倒し損ねた? それは違うな』

 マーヴィの頭の中に魔王の声が響く。

『確かに我は肉体を失ったが本体たる核は無事だった。しかし勇者の力は、無事だった核を侵食してきたのだ。本来なら我はこのまま死ぬはずだったが……我が核を侵食していた勇者の力が弱まり……消滅したのだ』
「そして生き残ったお前は魔族に寄生し、復活したというわけか」

 全てが繋がった気がした。
 恐らく、倒したはずの魔族の頭部が勝手に動いて攻撃してきたのも、そのタイミングで魔王が復活し、一時的に魔王と生命力が繋がったからだろう。

 マーヴィが一歩近付くと、魔王は触手を揺らしながら後ずさりをした。頭の中に響く声に、再び恐怖が滲み出る。

『今ならあの憎き勇者を殺せると思ったが……一体どうなっている‼ 我が力が完全に復活していないとはいえ、あれほどの軍勢を人間風情がたった一人で蹴散らすなど……お前は一体何者なのだっ‼』
「さあな」

 冷たくそう言い放つと、マーヴィが動いた。
 
 魔王が巨大な腕をマーヴィに向かって振り下ろすが、大盾の力が攻撃を弾き返した。虹色の輝きが弾け、魔王の巨体がバランスを崩す。

 攻撃のために振り下ろした腕に乗ると、マーヴィは走った。魔王がマーヴィを振り払おうとしたが遅かった。

 マーヴィの体が、人間とは思えない跳躍力で高々に宙を舞った。
 魔王の頭上で振り上げた刀身が、まばゆいばかりの虹色の光を放つ。

 それを焦点の定まらない瞳に映しながら、魔王が叫ぶ。

『まさか……まさかお前が本当の、勇――』

 攻撃を防ごうと、魔王が両腕で自身の頭を庇ったが無駄だった。
 巨大な両腕が吹き飛び、魔王の額に宿る赤黒い光に一筋の光が走る。

 マーヴィの足が地面に付くと同時に、巨体が真っ二つに分かれ、大きな音を立てて崩れ落ちた。
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