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第8話 ダグの焦り(第三者視点)

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 ダグは焦っていた。
 アウラを捨て、イリス姫との結婚が決まったまでは良かった。

 だが次期皇帝として城に残ったダグを待っていたのは、過酷とも言える皇族としての教育だった。

 ダグは勇者とはいえ、小さな村出身の平民。
 いくらこの国が実力主義だといっても、流石に次期皇帝が無教養であるわけにはいかないのだ。

 自由もなく、毎日のように座学を受けつづける日々に、ダグは飽き飽きしていた。

 まあそれはいい。
 問題は、兵士たちへの訓練だ。

 ダグは魔王を倒したその力を買われ、教官として兵士たちの指導を命じられ、快諾した。

 どうせ誰も自分には敵わない。
 指導などしたことはないが、ようは生徒に負けなければいいのだと簡単に思っていた。

 自分の力を、皆に知らしめればいいのだと。

 意気揚々と望んだ模擬戦だったが、ダグはあっさりと負けてしまう。
 このときは、相手に怪我をさせる恐れがあったため、わざと負けたと誤魔化したが、勇者の力が発揮できなかったのが真実だった。

(何故だ? 何故力が使えなくなったんだ?)

 ダグ自身、剣術は独学だ。
 勇者の力があったからこそ他を圧倒できただけであって、彼自体の剣術は大したことない。

 だから力のない彼が、日頃剣術を磨いている兵士に負けるのは、当然とも言えた。

 模擬戦の失態を思い出し舌打ちをしながら体を動かすと、兵士に打たれた場所に痛みが走る。

 こんなことも久しぶりだった。

 なぜならダグは、常に不思議な力によって守られており、怪我をすることがほとんどなかったからだ。

 魔族や魔物相手なら、不思議な力をもってしても怪我をすることもあったが、相手は一兵士、ただの人間。

 この程度の攻撃でダグが傷つくことはないはずなのに。

 今までにない変化にダグは恐れていた。もし勇者の力が失われれば、イリス姫との結婚も白紙になってしまう。

 皇帝が平民のダグを受け入れたのは、彼が持つ強大な力を望んだからに他ならないからだ。

(大丈夫だ。きっと模擬戦だったから、力が発揮されなかっただけだ。相手はただの人間。俺が本気を出せば殺してしまうからな)

 問題ないと結論づけたとき、申し訳ない適度のノックとともに騎士が飛び込んできた。

 真っ青になった騎士の顔を見て、ダグの背中に嫌な汗が流れた。
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