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第65話 決着
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ジェネラルは、4体の自動人形に追い掛け回されながら、会場内を爆走していた。
相手が素早く、攻撃の手を緩めないため、作戦を練る余裕がなく、逃げる事しかできないのだ。
繰り出される攻撃を避け、再び駆け出す。走りつづけている為、彼の服は絞れば水滴が出るほどの汗で濡れている。
当然、髪の毛も頭から水を被ったかのように、汗の玉が光っていた。
“こんな強い自動人形相手に、この町の人たちはどうやって勝ってるの!? 実はこの町の人たちって、皆超強かったりするの!?”
あのミディですら、オリジナルには少し手こずっていたのだ。
オリジナルと大して変わらないこのライト版に勝てるなど、ミディも一目会ってやろうという気を起こすぐらいの強さである。
が、それは『この』ライト版に勝てた時の話である。
ジェネラルは知らない。
実はオリジナルとライト版が間違えて送られた事を。
観戦者も、何か今年は強くねえ?というくらいにしか考えておらず、オリジナルだと気が付いている者はいない。
知らぬが仏とは、この事だろう。
とにかく、ジェネラルは逃げ続けた。肺と喉が焼け付くように痛み、両足から走っている感覚がなくなりつつあった。消耗のため、目の前のものが把握できず、思考も上手くまとまらない。その時。
「おおっと、どうしたああああああ!? 逃げ回るだけでは、相手は倒せないぜ!?」
馬鹿にするような司会の発言に、魔王のこめかみがぴくりと動いた。
視線を上にやると、安全地帯からジェネラルを見下ろし、謎なアクションをしている司会者がいる。
そのついでに周りを見回すと、
「おい! 逃げてばっかりいるんじゃねえ!」
「男なら、ぶつかってみろおおお!!」
安全地帯から勝手な事を叫ぶ観客たちがいた。ジェネラルの意識が、自動人形たちから内面へ沈んでいく。
“自分たちは安全な所にいて…、僕を見て楽しんで…、勝手なことを叫んで…。この自動人形がどれだけ強いか…、何にも知らないくせに…”
後ろから投げられた小型の斧が、ジェネラルのすぐ側を通り過ぎた。鋭い風が、ジェネラルの頬を掠る。
斧が当たったわけではないので怪我はないが、何か擦ったような痛みが少年の肌を刺激した。
痛みを和らげるため、そっと手で頬をさする。と同時に、司会者の声と観客たちの声が、ジェネラルの中をぐるぐると回り始めた。
手で頬をさするたびに、何かが、魔王の中でふつふつと湧き上がる。
熱く、どろどろした気持ち。
魔界にいたときには、あまり縁のなかった感情。
それは、次の司会者の言葉によって、一気に脳天を突き抜けた。
「逃げてばかりの弱虫ME!! 戦ええええええ!!! 男を見せてみろおおおおおおおおお!!!」
司会者の絶叫に、ジェネラルの足が止まった。
下を見つめたまま、突っ立っている為、表情は分からない。
「ははっ…あははははは……」
暗い笑い声が、会場に響き渡った。
それ程大きい声ではないはずなのに、会場中の者がその声を聞いた。
少年の謎の行動に、観客たちの声は止まり、何が起こるのかと固唾を飲んで見守っている。
「ははっ、そうだよね。逃げてても何も変わらないもんね。それだけ見たいんだったら、見せてあげるよ…。あはははっ……」
その時、4体の自動人形たちが四方からジェネラルを取り囲み、突進してきた。だが、ジェネラルは気が付いていない様子で、まだ小さく笑いつづけている。
彼のピンチに、観客たちが悲鳴を上げた。
次の瞬間、彼は吹き飛ばされ、ミディの魔法により安全な場所に転送されている……はずだった。
風を切る音と共に、ジェネラルの体が宙を舞った。
ブライトに放り投げられた時以上の高さである。魔法を使い自らの体を打ち上げたのだ。
勢いあまって自動人形同士がぶつかる。
かなりのスピードでぶつかった為、いくつかの部品があたりに飛び散り、内1体が仰向けに倒れている。
魔法によって衝撃なく地に足をつけたジェネラルは、足元に転がっていた手のひらほどある金属の破片を拾い、左手に持った。
金属片に、魔力が集まってくるのが分かる。無造作にそれを向かってきた自動人形に投げつける。
金属片が自動人形の腕を掠った時、何かが折れる大きな音と起こった出来事に、誰もが目を疑った。
自動人形の腕が折れ、地面に転がっているではないか。
ついでに飛んでいった金属片は、会場の壁に蜘蛛の巣状の罅を作って突き刺さっている。恐るべき破壊力だ。
腕を失った自動人形は、バランスを崩して地面に倒れた。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!! 凄い!! 凄いZEEEEEEEEE!!! 男を見せてくれるじゃねえかああああ!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
司会者と観客の歓声が上がった。だがキレたジェネラルの耳に、その歓声は届いていない。
ただ彼の中にあるのは、目の前の敵を倒すこと。それだけ。
ジェネラルの体が動いた。
素早い動きで自動人形に近づくと、地面に落ちた先ほどの腕を拾い上げた。
拾い上げたと簡単に言っても、その腕は少年の両手を一杯に広げたぐらいの長さがある。重さもかなりのものだろう。
だがそれを軽々と持ち上げると、自動人形の胸元へ叩きつけた。
自動人形は少しバランスを崩し、一歩後ろに引いた。しかし、すぐに体制を整えると、同じく太い腕をジェネラルに振り下ろした。
敵の攻撃を避け、ジェネラルは力が足りなかったかと舌打ちをする。と、その時、ミディとアクノリッジの会話が思い出された。
“足の改良は大分進んだんですよぉ~! 今まで使用していた素材以上に軽く、丈夫な素材の開発に成功したんですぅ☆”
“軽くっていうのは、あれにとっては諸刃の剣よ。素早く動けるけど、軽くなるし。足場はやっぱりしっかりしていないと”
“……足だ!!”
魔力を集めた腕の破片を、自動人形たちの足元目掛けて力いっぱい振るった。
足払いを食らった残り2体の自動人形たちは、あっけなくバランスを崩し、地面に倒れた。ジェネラルの狙いどおり、自動人形たちの弱点は足元だったようだ。
“これで終わりにしよう”
ジェネラルはポケットを探ると、光り輝くガラス玉を取り出した。
それを見、司会が驚いたようにそれが何であるかを説明した。
「そっ、それは!! 罠用の魔法の玉ではないかあああああああ!? 何故、持っているんだああああ!!!」
道に迷った時、ジェネラルが見つけた物。ミディによって破壊の力が込められた、魔法の玉である。
ジェネラルの口元に笑みが浮かんだ。
ドラゴンとの戦いで見せた、勝利を確信した笑みだ。
少年は魔法の玉を、起き上がろうとしている自動人形たちに投げつけた。玉が手から離れた瞬間、左の指をパチンと鳴らす。
ガラス玉が割れぬよう保護していた魔法が解除され、自動人形たちにぶつかった瞬間、
ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!
散々聞かされた爆音と共に、自動人形たちの巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。
色々な部品を撒き散らし、地面に伏せる自動人形たち。ピクリとも動かない。
司会者がゆっくりと近づき、手にもっていた棒で自動人形たちを突付いた。
自動人形たちは動かない。完全に壊れてしまったようだ。
会場内が、静寂に包まれた。
「すっ……凄いぜ!! 凄すぎるぜえええええええ!!!! やってくれたZEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」
司会者の興奮した声が、会場の沈黙を破った。
彼の言葉に、自動人形たちがどうなったのかを理解した観客たちが、歓声を上げ、祝福の言葉をジェネラルに浴びせる。
ようやく頭が冷え、思考が現実に戻ってきたジェネラルは、何が起こったのか分からない表情で周りを見回していた。キレていた時の事は、あまり覚えていないらしい。
「ジェネラル!!」
聞きなれた声と共に、誰かがジェネラルに抱きついた。一瞬驚いたが、その人物が分かった瞬間、ジェネラルの表情に笑顔が浮かぶ。
「ブライトさん!!」
「ジェネラル、やったじゃねえか!! お前、実はすげえ奴だったんだな!!」
ジェネラルの背中をバシバシ叩きながら、ブライトは素敵笑顔を浮かべた。
ブライトの他にも、失格になった参加者たちがわらわらと会場に集まり、ジェネラルを取り囲んだ。
少年の頭を撫でながら、口々に賞賛の言葉を送る。
熱い男たちの友情に、司会者が涙を流している。
観客たちも、これ以上ないぐらい盛り上がっていた。
「こんな少年が、あれだけの男を見せてくれるなど、思ってもいなかった…。こんな展開が、この大会の醍醐味、いや男のロマンだZEEEE!!」
ブライトはジェネラルを持ち上げると、肩車をした。
それを合図と取ったのか、司会者が流れる涙をそのままに、絶叫に近い勝利宣言を行った。
「この素晴らしい戦いを見せてくれた彼こそ、この大会の勝者DAAAAAAAAAAAAA!!! 魔王ジェネラル―――――――!!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!』
こうしてミディローズ杯は、熱い感動と共に幕を閉じたのであった。
* * *
辺りが薄暗くなってきた頃、ジェネラルは中間地点であった酒場へと向かっていた。
部屋に戻ったとき、ミディの姿はなく、置手紙でここへ来るように指示していたのだ。
ジェネラルのポケットには、賞金で買った黒石のイヤリングがある。プレゼント用にきちんと包装もしてもらっている。準備万端だ。
酒場に着き、中に入ろうとした時、
「なっ、何!?」
いきなり入り口から2人の男たちが転がり出て来、ジェネラルは思わず一歩引いた。
「嫌がる女性を無理やり誘うなんて……、紳士がする事ではないわね?」
嫌と言うほど聞きなれた声に、ジェネラルは思わず名を呼んだ。
「みっ、ミディ!?」
「あら、ジェネ? 遅かったわね?」
ゆっくりと入り口から現れたのは、予想通りミディであった。だが、身に付けている鎧が変わっている。
今までは全身を覆うごついタイプの鎧だったが、今身に纏っているのは、胸や肩、腹部などの重要な部分を守る軽装備タイプの鎧であった。頭には、顔部分の空いた、こちらも軽装備タイプの兜が被ってある。
今までのように、兜で表情が分からないという事はない。もちろん、美貌を隠す魔法はきちんと施しているようだが。
ジェネラルが考えている事を感じ取ったのか、ミディは笑顔を浮かべその場で一回りした。
「みてみて、ジェネ~。露店で素敵な鎧を見つけてね~。凄くいいものらしくて~、1点ものだよって言われたから前の鎧を売って、この鎧を買ったの。素敵でしょう? うふっ」
「それはいいけど……、その鎧買ったお金は、どこから…?」
「う~ん、使っちゃった? みたいな? ふふっ」
可愛らしく首をかしげるミディ。貯めると言っておいておいたお金を、速攻使ってしまったらしい。
一つ歳をとって成長したと感動したジェネラルの気持ちを、返してほしい。
“やっぱりミディだよね……。元気になったと思ったら、すぐに問題起こしてるしさ……”
起き上がり、捨てセリフを残して去っていった男たちを見、ジェネラルは大きくため息をついた。
だがいつもみたいに、迷惑だと感じなかった。ミディが少し元気になったことに、ほっとしているからだろう。
「あのさ、ミディ。渡したい物があるんだけど……」
少し緊張したジェネラルの言葉に、ミディの表情が戻る。ジェネラルの目の前に立つと、少し俯いたジェネラルの顔を覗き込んだ。
不意に顔を近づけられ、ジェネラルの鼓動が早くなる。
色々と、ミディを元気付ける為、言葉を考えてきたはずなのにいざとなって何も思い出せない。
恥ずかしさと情けなさでくじけそうになったが、意を決し、プレゼントをミディの前に差し出した。
小さなリボンのついた、可愛らしい箱。
「これを……、私に?」
意外そうな声の調子に、ジェネラルは黙って頷いた。頷く事しか出来なかった。
俯く少年に首をかしげながら、ミディは優雅な手つきで箱を開いた。
中身を目にした瞬間、王女の瞳が見開かれ、唇からため息がもれた。そっと、壊れ物を扱うようにイヤリングを取り上げると、その価値を確かめるように、光にすかした。
宝石の内側に光が宿り輝きを放つ。
黒石の美しさを堪能したミディは、兜を脱ぐとイヤリングを身につけた。耳元でイヤリングがゆれ、様々な光を見せる。
2つの光を宿した王女の姿は、とても美しかった。
下手すれば、身につける者の存在を薄くしてしまう程の輝きを持つ宝石であるが、ミディの美しさは負けてはおらず、むしろ相互作用でお互いの美しさを引き出している。
喜んでイヤリングを手鏡で確認する彼女を見、何かを言わなければと焦る気持ちが次第に落ち着いてきた。
“別に元気つけるとか、そう言うものはなくていいんだ”
そう思うと、気持ちに余裕が出てきた。
ひとつ深呼吸をすると、ジェネラルは口を開いた。
「ミディ……」
名を呼ばれ、ミディは顔を上げた。
すぐ目の前に、少し頬を赤く染めた魔王の姿があった。
満面の笑顔を浮かべた、魔王の姿が。
「19歳のお誕生日、おめでとう!」
彼の言葉にミディは、塞いでいた自分を元気つけようとしたジェネラルの気持ちを理解した。
少年の笑顔と、渡された可愛らしい箱を見ているうちに、ミディの心にあった何とも言えない暗く塞ぎこんだ気持ちが、みるみると消えていく。
少年の笑顔につられ、王女の顔に自然と笑みが零れた。
ここ数年の誕生日、作り笑い以外浮かべる事のなかった笑顔。
全ての者達の心を捕らえ、魅了する笑顔が。
「ありがとう、ジェネ」
ミディは腰を折ると、そっとジェネラルを抱きしめ、彼の気持ちをかみ締めるかのように瞳を閉じた。
彼らのいる店頭では、今までの成り行きを見守っていた見物人たちの拍手が鳴り響いていた。
相手が素早く、攻撃の手を緩めないため、作戦を練る余裕がなく、逃げる事しかできないのだ。
繰り出される攻撃を避け、再び駆け出す。走りつづけている為、彼の服は絞れば水滴が出るほどの汗で濡れている。
当然、髪の毛も頭から水を被ったかのように、汗の玉が光っていた。
“こんな強い自動人形相手に、この町の人たちはどうやって勝ってるの!? 実はこの町の人たちって、皆超強かったりするの!?”
あのミディですら、オリジナルには少し手こずっていたのだ。
オリジナルと大して変わらないこのライト版に勝てるなど、ミディも一目会ってやろうという気を起こすぐらいの強さである。
が、それは『この』ライト版に勝てた時の話である。
ジェネラルは知らない。
実はオリジナルとライト版が間違えて送られた事を。
観戦者も、何か今年は強くねえ?というくらいにしか考えておらず、オリジナルだと気が付いている者はいない。
知らぬが仏とは、この事だろう。
とにかく、ジェネラルは逃げ続けた。肺と喉が焼け付くように痛み、両足から走っている感覚がなくなりつつあった。消耗のため、目の前のものが把握できず、思考も上手くまとまらない。その時。
「おおっと、どうしたああああああ!? 逃げ回るだけでは、相手は倒せないぜ!?」
馬鹿にするような司会の発言に、魔王のこめかみがぴくりと動いた。
視線を上にやると、安全地帯からジェネラルを見下ろし、謎なアクションをしている司会者がいる。
そのついでに周りを見回すと、
「おい! 逃げてばっかりいるんじゃねえ!」
「男なら、ぶつかってみろおおお!!」
安全地帯から勝手な事を叫ぶ観客たちがいた。ジェネラルの意識が、自動人形たちから内面へ沈んでいく。
“自分たちは安全な所にいて…、僕を見て楽しんで…、勝手なことを叫んで…。この自動人形がどれだけ強いか…、何にも知らないくせに…”
後ろから投げられた小型の斧が、ジェネラルのすぐ側を通り過ぎた。鋭い風が、ジェネラルの頬を掠る。
斧が当たったわけではないので怪我はないが、何か擦ったような痛みが少年の肌を刺激した。
痛みを和らげるため、そっと手で頬をさする。と同時に、司会者の声と観客たちの声が、ジェネラルの中をぐるぐると回り始めた。
手で頬をさするたびに、何かが、魔王の中でふつふつと湧き上がる。
熱く、どろどろした気持ち。
魔界にいたときには、あまり縁のなかった感情。
それは、次の司会者の言葉によって、一気に脳天を突き抜けた。
「逃げてばかりの弱虫ME!! 戦ええええええ!!! 男を見せてみろおおおおおおおおお!!!」
司会者の絶叫に、ジェネラルの足が止まった。
下を見つめたまま、突っ立っている為、表情は分からない。
「ははっ…あははははは……」
暗い笑い声が、会場に響き渡った。
それ程大きい声ではないはずなのに、会場中の者がその声を聞いた。
少年の謎の行動に、観客たちの声は止まり、何が起こるのかと固唾を飲んで見守っている。
「ははっ、そうだよね。逃げてても何も変わらないもんね。それだけ見たいんだったら、見せてあげるよ…。あはははっ……」
その時、4体の自動人形たちが四方からジェネラルを取り囲み、突進してきた。だが、ジェネラルは気が付いていない様子で、まだ小さく笑いつづけている。
彼のピンチに、観客たちが悲鳴を上げた。
次の瞬間、彼は吹き飛ばされ、ミディの魔法により安全な場所に転送されている……はずだった。
風を切る音と共に、ジェネラルの体が宙を舞った。
ブライトに放り投げられた時以上の高さである。魔法を使い自らの体を打ち上げたのだ。
勢いあまって自動人形同士がぶつかる。
かなりのスピードでぶつかった為、いくつかの部品があたりに飛び散り、内1体が仰向けに倒れている。
魔法によって衝撃なく地に足をつけたジェネラルは、足元に転がっていた手のひらほどある金属の破片を拾い、左手に持った。
金属片に、魔力が集まってくるのが分かる。無造作にそれを向かってきた自動人形に投げつける。
金属片が自動人形の腕を掠った時、何かが折れる大きな音と起こった出来事に、誰もが目を疑った。
自動人形の腕が折れ、地面に転がっているではないか。
ついでに飛んでいった金属片は、会場の壁に蜘蛛の巣状の罅を作って突き刺さっている。恐るべき破壊力だ。
腕を失った自動人形は、バランスを崩して地面に倒れた。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!! 凄い!! 凄いZEEEEEEEEE!!! 男を見せてくれるじゃねえかああああ!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
司会者と観客の歓声が上がった。だがキレたジェネラルの耳に、その歓声は届いていない。
ただ彼の中にあるのは、目の前の敵を倒すこと。それだけ。
ジェネラルの体が動いた。
素早い動きで自動人形に近づくと、地面に落ちた先ほどの腕を拾い上げた。
拾い上げたと簡単に言っても、その腕は少年の両手を一杯に広げたぐらいの長さがある。重さもかなりのものだろう。
だがそれを軽々と持ち上げると、自動人形の胸元へ叩きつけた。
自動人形は少しバランスを崩し、一歩後ろに引いた。しかし、すぐに体制を整えると、同じく太い腕をジェネラルに振り下ろした。
敵の攻撃を避け、ジェネラルは力が足りなかったかと舌打ちをする。と、その時、ミディとアクノリッジの会話が思い出された。
“足の改良は大分進んだんですよぉ~! 今まで使用していた素材以上に軽く、丈夫な素材の開発に成功したんですぅ☆”
“軽くっていうのは、あれにとっては諸刃の剣よ。素早く動けるけど、軽くなるし。足場はやっぱりしっかりしていないと”
“……足だ!!”
魔力を集めた腕の破片を、自動人形たちの足元目掛けて力いっぱい振るった。
足払いを食らった残り2体の自動人形たちは、あっけなくバランスを崩し、地面に倒れた。ジェネラルの狙いどおり、自動人形たちの弱点は足元だったようだ。
“これで終わりにしよう”
ジェネラルはポケットを探ると、光り輝くガラス玉を取り出した。
それを見、司会が驚いたようにそれが何であるかを説明した。
「そっ、それは!! 罠用の魔法の玉ではないかあああああああ!? 何故、持っているんだああああ!!!」
道に迷った時、ジェネラルが見つけた物。ミディによって破壊の力が込められた、魔法の玉である。
ジェネラルの口元に笑みが浮かんだ。
ドラゴンとの戦いで見せた、勝利を確信した笑みだ。
少年は魔法の玉を、起き上がろうとしている自動人形たちに投げつけた。玉が手から離れた瞬間、左の指をパチンと鳴らす。
ガラス玉が割れぬよう保護していた魔法が解除され、自動人形たちにぶつかった瞬間、
ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!!
散々聞かされた爆音と共に、自動人形たちの巨体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。
色々な部品を撒き散らし、地面に伏せる自動人形たち。ピクリとも動かない。
司会者がゆっくりと近づき、手にもっていた棒で自動人形たちを突付いた。
自動人形たちは動かない。完全に壊れてしまったようだ。
会場内が、静寂に包まれた。
「すっ……凄いぜ!! 凄すぎるぜえええええええ!!!! やってくれたZEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」
司会者の興奮した声が、会場の沈黙を破った。
彼の言葉に、自動人形たちがどうなったのかを理解した観客たちが、歓声を上げ、祝福の言葉をジェネラルに浴びせる。
ようやく頭が冷え、思考が現実に戻ってきたジェネラルは、何が起こったのか分からない表情で周りを見回していた。キレていた時の事は、あまり覚えていないらしい。
「ジェネラル!!」
聞きなれた声と共に、誰かがジェネラルに抱きついた。一瞬驚いたが、その人物が分かった瞬間、ジェネラルの表情に笑顔が浮かぶ。
「ブライトさん!!」
「ジェネラル、やったじゃねえか!! お前、実はすげえ奴だったんだな!!」
ジェネラルの背中をバシバシ叩きながら、ブライトは素敵笑顔を浮かべた。
ブライトの他にも、失格になった参加者たちがわらわらと会場に集まり、ジェネラルを取り囲んだ。
少年の頭を撫でながら、口々に賞賛の言葉を送る。
熱い男たちの友情に、司会者が涙を流している。
観客たちも、これ以上ないぐらい盛り上がっていた。
「こんな少年が、あれだけの男を見せてくれるなど、思ってもいなかった…。こんな展開が、この大会の醍醐味、いや男のロマンだZEEEE!!」
ブライトはジェネラルを持ち上げると、肩車をした。
それを合図と取ったのか、司会者が流れる涙をそのままに、絶叫に近い勝利宣言を行った。
「この素晴らしい戦いを見せてくれた彼こそ、この大会の勝者DAAAAAAAAAAAAA!!! 魔王ジェネラル―――――――!!!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!』
こうしてミディローズ杯は、熱い感動と共に幕を閉じたのであった。
* * *
辺りが薄暗くなってきた頃、ジェネラルは中間地点であった酒場へと向かっていた。
部屋に戻ったとき、ミディの姿はなく、置手紙でここへ来るように指示していたのだ。
ジェネラルのポケットには、賞金で買った黒石のイヤリングがある。プレゼント用にきちんと包装もしてもらっている。準備万端だ。
酒場に着き、中に入ろうとした時、
「なっ、何!?」
いきなり入り口から2人の男たちが転がり出て来、ジェネラルは思わず一歩引いた。
「嫌がる女性を無理やり誘うなんて……、紳士がする事ではないわね?」
嫌と言うほど聞きなれた声に、ジェネラルは思わず名を呼んだ。
「みっ、ミディ!?」
「あら、ジェネ? 遅かったわね?」
ゆっくりと入り口から現れたのは、予想通りミディであった。だが、身に付けている鎧が変わっている。
今までは全身を覆うごついタイプの鎧だったが、今身に纏っているのは、胸や肩、腹部などの重要な部分を守る軽装備タイプの鎧であった。頭には、顔部分の空いた、こちらも軽装備タイプの兜が被ってある。
今までのように、兜で表情が分からないという事はない。もちろん、美貌を隠す魔法はきちんと施しているようだが。
ジェネラルが考えている事を感じ取ったのか、ミディは笑顔を浮かべその場で一回りした。
「みてみて、ジェネ~。露店で素敵な鎧を見つけてね~。凄くいいものらしくて~、1点ものだよって言われたから前の鎧を売って、この鎧を買ったの。素敵でしょう? うふっ」
「それはいいけど……、その鎧買ったお金は、どこから…?」
「う~ん、使っちゃった? みたいな? ふふっ」
可愛らしく首をかしげるミディ。貯めると言っておいておいたお金を、速攻使ってしまったらしい。
一つ歳をとって成長したと感動したジェネラルの気持ちを、返してほしい。
“やっぱりミディだよね……。元気になったと思ったら、すぐに問題起こしてるしさ……”
起き上がり、捨てセリフを残して去っていった男たちを見、ジェネラルは大きくため息をついた。
だがいつもみたいに、迷惑だと感じなかった。ミディが少し元気になったことに、ほっとしているからだろう。
「あのさ、ミディ。渡したい物があるんだけど……」
少し緊張したジェネラルの言葉に、ミディの表情が戻る。ジェネラルの目の前に立つと、少し俯いたジェネラルの顔を覗き込んだ。
不意に顔を近づけられ、ジェネラルの鼓動が早くなる。
色々と、ミディを元気付ける為、言葉を考えてきたはずなのにいざとなって何も思い出せない。
恥ずかしさと情けなさでくじけそうになったが、意を決し、プレゼントをミディの前に差し出した。
小さなリボンのついた、可愛らしい箱。
「これを……、私に?」
意外そうな声の調子に、ジェネラルは黙って頷いた。頷く事しか出来なかった。
俯く少年に首をかしげながら、ミディは優雅な手つきで箱を開いた。
中身を目にした瞬間、王女の瞳が見開かれ、唇からため息がもれた。そっと、壊れ物を扱うようにイヤリングを取り上げると、その価値を確かめるように、光にすかした。
宝石の内側に光が宿り輝きを放つ。
黒石の美しさを堪能したミディは、兜を脱ぐとイヤリングを身につけた。耳元でイヤリングがゆれ、様々な光を見せる。
2つの光を宿した王女の姿は、とても美しかった。
下手すれば、身につける者の存在を薄くしてしまう程の輝きを持つ宝石であるが、ミディの美しさは負けてはおらず、むしろ相互作用でお互いの美しさを引き出している。
喜んでイヤリングを手鏡で確認する彼女を見、何かを言わなければと焦る気持ちが次第に落ち着いてきた。
“別に元気つけるとか、そう言うものはなくていいんだ”
そう思うと、気持ちに余裕が出てきた。
ひとつ深呼吸をすると、ジェネラルは口を開いた。
「ミディ……」
名を呼ばれ、ミディは顔を上げた。
すぐ目の前に、少し頬を赤く染めた魔王の姿があった。
満面の笑顔を浮かべた、魔王の姿が。
「19歳のお誕生日、おめでとう!」
彼の言葉にミディは、塞いでいた自分を元気つけようとしたジェネラルの気持ちを理解した。
少年の笑顔と、渡された可愛らしい箱を見ているうちに、ミディの心にあった何とも言えない暗く塞ぎこんだ気持ちが、みるみると消えていく。
少年の笑顔につられ、王女の顔に自然と笑みが零れた。
ここ数年の誕生日、作り笑い以外浮かべる事のなかった笑顔。
全ての者達の心を捕らえ、魅了する笑顔が。
「ありがとう、ジェネ」
ミディは腰を折ると、そっとジェネラルを抱きしめ、彼の気持ちをかみ締めるかのように瞳を閉じた。
彼らのいる店頭では、今までの成り行きを見守っていた見物人たちの拍手が鳴り響いていた。
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新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
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