立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

文字の大きさ
167 / 220
その後の話:花とお菓子と不審者と

第2話 出会い

しおりを挟む
 プロトコルと呼ばれる人間界からやって来た人間の王女——ミディローズ・エルザは一人、魔界の城にある庭園に来ていた。

 その右手にはハサミが握られ、反対の腕には籠が掛けられている。

 彼女の周りには、色とりどりの花が咲き乱れ、良い香りが周囲に満ちている。その香りを楽しみながら、ミディは気に入った花を優しく丁寧に切り取ると、籠の中に入れていった。

 籠の中がカラフルに彩られ、ミディは満足そうにそれを見つめる。

 小さく鼻歌を歌いながら、部屋に戻ろうとした時、何かが彼女の通り道を塞いだ。

 しかし、花かごに気をとられていたミディはそれに気づかず、思いっきりぶつかってしまった。

「きゃあっ!!」

 小さな悲鳴を上げ、勢い余って尻もちをつくミディ。その反動で花かごが落ち、中の花々が地面に散乱してしまう。

 傷むお尻を抑えつつ、王女は何にぶつかったのかと目の前を見上げると、そこには、

「すまなかった。怪我はないか?」

 そういって手を差し出す、黒髪の青年が立っていた。
 
 彼を見てミディが目を惹いたのが、大きくも少しつりあがった金色の瞳。
 視線をずらすと、彼の全貌が明らかになった。

 深い艶を放つ腰まで届くと思われる黒髪は首元で結ばれているが、短くてまとまり切れなかった髪が、引き締まった彼の頬に流れている。その為か、元々余分な肉がない頬にさらなる小顔効果を発揮されている。

 通った鼻筋、その下に続く唇にはほんのり赤みがさしており、一見すると紅をさしているかと見間違える程の血色の良さだ。

 ミディが出会った魔族の中でも、美しく、かなり恵まれた容貌を有している。女性たちが見たら例外なく、彼の魅力の虜になるに違いない。ユニなら間違いなく、この青年で一妄想膨らませているはずだ。

 が、それは普通の女性たちの話である。

“……誰?”

 ミディの心に思い浮かんだ言葉は、その一言だけだった。目の前の青年の魅力に微塵も心動かされず、彼を見上げるその表情に好意や照れなどは全く見られない。

 ただ少し心の端で、

“でも何だか、ジェネにどことなく似てるわね……。あの髪の感じとか……”

と、魔王の容姿を思い出していた。

 今まで大勢の男性から求婚されてきたミディなのだ。美形男性にはそこそこ耐性があり、容姿が良いからと言って心が揺り動かされることはない。

 まあジェネラルに関しては、今まで少年だと思って行ってきた「あれ」や「これ」やがある為、たまーーーに何かの拍子で感情が乱されることがあるのだが。

 目の前の青年はミディが何も言わず、じっと自分を見ているのを不審に思ったのだろう。

「どうした? どこか痛むのか?」

 そう言ってミディに近づくと膝をつき、彼女と目線を同じにした。

 美しい顔がミディの視界に入って来た。しかし、見知らぬ男性に突然パーソナルスペースに入り込まれ、反射的に王女は距離をとった。

「……大丈夫だから、ちょっと離れて貰えないかしら?」

 無遠慮に対人距離を詰めてきた青年に、これ以上近づくな、とミディは暗に警告した。

 彼女の発言と行動に、青年は金色の瞳を見開いた。何か言いたげに口を開こうとしているが、彼がいつまでも動かない事に業を煮やしたミディが立ち上がる方が早かった。青年から一歩距離をとると、服についた土を払う。

 まあ、何だか人との距離感が上手く掴めなさそうな青年であるが、彼にぶつかった原因が自分であるのも事実。

 ミディは少し申し訳なさそうな表情で、相手の顔を見下ろした。

「こちらの不注意でぶつかった事は謝罪するわ。私は大丈夫よ。あなたも怪我はないかしら?」

「ああ……、大丈夫だが……」

「そう、それなら良かったわ」

 自分の不注意から相手を怪我させたわけではないと知り、ミディは安堵の笑みを浮かべた。
 そして先ほど青年がミディにしたように、膝をつく彼を起こすため、手を差し伸べた。

 太陽の光に照らされ、深く澄んだ青い瞳とそれを縁取る長いまつ毛が輝きを放ち、赤く色づく唇は自然と優しい笑みを形作っていた。

 この庭園の花すら、彼女の美しさを引き立てる背景と化すその美貌、全てを惹きつけてやまないその笑顔。

 青年は、言葉なく彼女を見つめていた。その頬には、少し赤みがさしている。
 王女の笑顔に魅了され、ぽーっとしながら、ミディの差し出した白く細い手を取った。彼女によって身体が引き起こされる。

 ミディが手を放した瞬間、青年の表情に動きが戻った。

「わっ、私としたことが……」

 思考が現実に戻って来たのか、今まで何を考えていたのかと、自らの手を見つめている。低い声で、逆に魅了され返された自らが信じられない様子で、何かブツブツと呟いている。
 
 そんな彼の謎の呟きを横目で見つつ、ミディは地面に散らばった花を再び籠に入れ始めた。早く生けないと、せっかく採った花たちが枯れてしまう。

 その様子をジェネラルが見たら、その優しさを少しでも自分に回して欲しいと切に願っただろう。

 いそいそと花を回収しているミディに、青年が問うた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら
恋愛
ローザンネ国の島国で生まれたアンネリース・ランメルス。彼女には、双子の片割れがいた。何もかも与えてもらえている片割れと何も与えられることのないアンネリース。 そんなアンネリースを育ててくれた乳母とその娘のおかげでローザンネ国で生きることができた。そうでなければ、彼女はとっくに死んでいた。 そんな時に別の国の王太子の婚約者として留学することになったのだが、その条件は仮面を付けた者だった。 ローザンネ国で仮面を付けた者は、見るに堪えない顔をしている証だが、他所の国では真逆に捉えられていた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

処理中です...